※この記事は2022年4月8日に公開したものです
ウクライナから避難してきた人たちのために開設された診療所。
ポーランド南東部の都市、ジェシュフにある大学の中に開設された診療所を取材に訪れると、大勢の女性や子どもたちが診察を待っていました。
診療所に来ている人たちは、どんな状況に置かれているんだろう。 少しでも現状を知りたいと、診療所の医師に取材を申し入れると、「10分くらいなら」と診察の合間に応じてくれました。
彼女の名前は、マリアンナ・クーパーさん。クーパーさん自身も、ウクライナから避難してきた1人だと話しました。
ウクライナでは、地域のかかりつけ医として働いていましたが、軍事侵攻の翌日2月25日、暮らしていた西部リビウ州から、9歳から13歳までの3人の子どもと一緒にポーランドへ避難してきました。
防空警報が鳴る中、子どもたちが学校で使っているリュックサックに入るだけの物を持って、国境を越えてきたといいます。
クーパーさん自身も避難を続ける中、なぜ、医師として診療所で大勢の患者を診ているんだろう。そんな疑問を投げかけてみると、クーパーさんは次のように話しました。
「もともとポーランドの医大を卒業していたので、医療行為をするにあたって必要な手続きがスムーズだったのもありますが、何より、避難が長期化する中で『言葉の壁』に直面するウクライナの人たちの力になりたいと思ったんです」
クーパーさんによると、ウクライナ語を話すウクライナの人たちにとって、ポーランド語は、生活の上で大きな「壁」になっているといいます。
「避難してきた人たちは、言葉がわからないから大変だと思います。分かる単語だけで、どんな意味なのか推測しなければなりません。さらに、物資面での支援も必要ですし、食事や休息できる場所も必要です。子どもたちが学校に通えるようにする必要もあります」
小さな赤ちゃんを連れた母親や高齢者。
クーパーさんが診療する多くの患者が、こうした人たちだそうです。
避難する際の長旅で、かぜをひく人、脱水症状になる人。ストレスが原因で、不眠症や消化不良に悩む人もいるといいます。
言葉も分からず、厳しい生活環境から体調を崩してしまう人たち。
一方のクーパーさんは、ポーランド語が堪能で医師としても働ける。
だからこそ、困難に直面する人たちの役に立ちたい。
クーパーさんの思いです。
取材の中で、診療所のスタッフからロシア人の患者も受け入れていると聞いていたので、最後にそのことを尋ねると、クーパーさんはこう続けました。
「ロシア国籍の患者も来ましたよ。でも、医療について政治は関係ないですよね。それに、ロシア人のことが嫌いなわけでもありません。支援が必要な人には、誰であろうと安心して過ごせる場所が必要です」