「すぐに駆けつけたいのですが、遠く離れている私には神に祈ることしかできません」
トルコで起きた大地震から1か月。
UAE=アラブ首長国連邦の北部アジュマンで暮らすハサン・ナハラウイさん(59歳)は、シリアに残した末弟のマハムードさん(37歳)の身を案じていました。

2011年に始まった内戦を逃れ、妻や子どもたちとともにシリア北西部イドリブ県からUAEにやってきたハサンさん。シリアで建設や不動産などの事業を手がけていましたが、内戦ですべてを失いUAEに逃れてきました。
当初、弟のマハムードさんも一緒にUAEに逃れていましたが、「やはりシリアで暮らしたい」と1人で内戦の続くシリアに戻ったと言います。
その後、結婚し、妻と3人の子どもたちとトルコ国境近くのシリア北西部のまちで暮らしていたマハムードさん。

妻は妊娠7か月を迎え、子どもたちも新しいきょうだいの誕生を楽しみにしていた矢先、大地震に襲われました。
マハムードさん一家が住んでいたマンションは倒壊。マハムードさんは左手の薬指を失うなど大けがをしましたが、数日後にがれきの下から助け出されました。
しかし、助け出されたマハムードさんを待っていたのは受け入れがたい現実でした。

7歳、4歳、2歳だった3人の子どもたち、そして4人目の子をみごもっていた妻もがれきの下敷きになり、マハムードさん以外の家族全員が亡くなっていたのです。
ハサンさん
マハムードは内戦の中でも新しい命を授かり、厳しい時代をなんとか生き抜こうとしていた矢先にすべてを失ってしまいました。電話で話すとマハムードの声は震えていて、私は涙が止まりませんでした。マハムードの気持ちを考えると言葉になりません。

シリアを逃れ10年以上、UAEで暮らすハサンさん。
今は知り合いの家に身を寄せながら短期の仕事でなんとか家族を養っている状況で、マハムードさんを支援する経済的な余裕はありません。
それでもなんとかマハムードさんを支えたいと、子どもの進学のために少しずつ貯めてきた貯金全額、日本円にしておよそ12万円を送金しました。
マハムードさんがいるシリア北西部は反政府勢力の支配地域でアサド政権と対立しているため、地震発生から1か月となる中でも支援物資が十分に届いていないという指摘もあります。
ただ、これ以上お金を送るのは難しい上、内戦が続くシリアに戻ることも容易ではない。
ハサンさんは、家族を失い傷ついた弟のマハムードさんを支えるため、1日でも早く内戦を終わらせてほしいと訴えています。

ハサンさん
内戦で家も仕事もすべて失ったのに、次は地震です。マハムードを助けに行くこともできません。なぜこんなにつらい思いをしなくてはならないのでしょうか。地震で生き残ったマハムードたちを救うためにも、一刻も早く内戦を終わらせてほしいです。これ以上、私たちに二重、三重の苦しみを背負わせないでほしい。