
サッカーのワールドカップに湧く中東カタール。
厳格なイスラム教の国で、ふだんは飲酒を厳しく制限していますが、今回の大会では、アルコールの提供を一部で認めるなど寛容な姿勢も見せています。
現地を取材すると、異例の光景が広がっていました。
(ドバイ支局長 山尾和宏)
飲酒は厳しく制限

カタールは、憲法に国の宗教がイスラム教と定められ、敬虔なイスラム教徒が多いことで知られています。
市内には、「モスク」として知られるイスラム教の礼拝所が数多くあり、お祈りの時間になると、スピーカーから礼拝を呼びかける声が響き渡ります。

このため、イスラム教の教えに基づき、飲酒は、厳しく制限されています。
今回のワールドカップでは、直前までスポンサーのビールメーカーによるアルコールの提供が認められると伝えられてきましたが、FIFA=国際サッカー連盟が、開幕直前になって、スタジアムでのアルコールの販売は認めないと発表。真相はわかりませんが、カタール側の意向だったとも伝えられています。
飲酒が限定的に認められている場所も

もともとカタールでは、ワールドカップの前から、一部に限って飲酒を認めていました。
人口の9割が外国人で、外国からさらなる投資を呼び込みたいカタール政府が、イスラム教徒ではない外国人の生活環境に配慮している形です。
現地の日本大使館によると、飲酒は21歳以上に認められているといいます。
ふだん飲酒が認められているのは、高級ホテルの中などに入るレストランやバーに限られます。生ビールやウイスキー、ワインなどほとんどのお酒を飲むことができ、日本メーカーのビールもあります。
ただ、生ビール1杯の値段は50カタール・リヤル前後(およそ1890円※)で、日本国内に比べてかなり高めです。
ふだんは、外国人のビジネスマンや観光客が多く、民族衣装を着たカタール人の姿も見かけます。
また、カタール在住の外国人に限っては、お酒を購入することもできます。

ただし、アルコールの輸入・販売を行っている政府系の会社に申請して、購入するための免許を取得する必要があります。申請費用も払うことになるので、誰でも免許を得られるわけではありません。
お店は、地下駐車場や郊外の倉庫街など、人通りの少ない場所にあり、見つけるのも一苦労です。
ちなみに、ワールドカップのために訪れたサポーターや大会関係者などは立ち入りが認められません。
※1カタールリヤル=37.9円で計算
ワールドカップの開催中は特例で

ワールドカップの開催期間中は、特例が認められています。ファンゾーンと呼ばれる、特設会場には、大会スポンサーの大手ビールメーカーが大きなブースを出し、ビールを販売しています。

訪れた人たちは、床に座り込んだり、踊ったりしてビールを楽しんでいて、大盛り上がりです。
カタールには何度も取材で足を運んでいますが、公共の場所で飲酒が禁止されているカタールでは、異例の光景でした。

メキシコから来たサポーターは、「スタジアムでお酒が飲めないなんてつまらないよ」とこぼしていました。

一方、カタールで暮らすイスラム教徒のスーダン人は、「せっかくカタールに来たのだから、現地の文化を尊重して、飲み過ぎないようお願いしたいです」とも話していました。

ワールドカップの開催中、お酒を提供する、なじみのレストランに様子を見に行くと、状況は一変していました。
店内はサポーターで大混雑。生ビールは早々に売り切れ、瓶ビールしか残っていないとのことでした。カウンターの上には、飲み干されたビールジョッキが大量に置かれ、3種類あるビアサーバーは使われていません。
店員は大急ぎで、瓶ビールを運び入れていました。ふだんは静かなこの店で、初めての光景でした。
店員の一人も、困り顔で「こんなのは初めて」と話していました。
厳格なイスラム教の国で行われた初めてのワールドカップ。飲酒をどこまで許容するのか、今回の特例ともいえる対応は、今後の目安になるのでしょうか。
