10月21日の早朝、午前6時。
ニューヨーク・マンハッタンにあるバスターミナルを取材で訪れた。
まだ暗い中、1台の大型バスが到着した。
バスからは続々と人が降りてくる。中には家族連れも。
実は、降りてきたのは、アメリカへの移住を目指して中南米から南部テキサス州に国境を越えてきた人たちだ。
こうした人たちを乗せたバスは、テキサス州から多い日には9台も来るという。
ただ、彼らや彼女たちは、自分たちの意思とは関係なく、バスに乗せられて、ニューヨークに“送られている”というのだ。
“送り出している”のは、テキサス州・共和党のアボット知事。
バイデン政権が移民に寛容な対応をしているため、中南米からの移民や難民の無秩序な流入につながっているとして、与党・民主党が強い首都ワシントンやニューヨークなどの州に、移民を送り出している。
こうしたバスに乗ってニューヨークに来たという一家に話を聞くと「無料で乗れるバスがある」と言われ、行き先も告げられず乗ったところ、降り立った場所がニューヨークだったと話していた。
祖国ベネズエラで、政治的な思想の違いから迫害を受け、グアテマラやメキシコを経て、10月中旬にテキサスに着いたものの、ニューヨークに来ることになり、頼れる親族もおらず不安な日々を送っているという。
アボット知事の政策に対しては、「まるで人をモノのように扱っている」「政治的なパフォーマンス」といった批判も上がっている。
一方で、知事が中間選挙の集会で、バイデン政権の移民政策を批判すると、大きな歓声が上がっていた。
アメリカの中間選挙では、移民問題も争点の1つ。
共和党は、民主党の移民政策を批判することでさらなる票の取り込みを目指している。アボット知事の政策も、その一環とみられている。
ニューヨークでは10月中旬、市内に一時的な滞在施設が開設した。2022年4月から2万人近くを受け入れたというニューヨーク市だが、滞在先が不足したためだという。
今も毎朝、到着し続けているバス。乗っている人の中には、着の身着のままでニューヨークに降り立ったような人もいる。
移民政策をめぐって激しい政争が行われる一方、彼らや彼女たちの不安な思いは置き去りになっているように感じた。