ひきこもクライシス“100万人”のサバイバル ひきこもクライシス“100万人”のサバイバル

ひきこもりは「さなぎタイム」

中学生の時に、いじめをきっかけにひきこもった経験がある中川翔子さん。当時は、「死にたい。つらい」と思っていた一方、そのときの経験が今の活動に生かされていると言います。「ひきこもるのは、すごく意味のある、栄養を吸収できる時間」と語る中川さんに話を聞きました。

「絵とか描いてんじゃねえよ、きもい」

(聞き手)
最初に、中川さんがひきこもるようになったきっかけについて教えてください。

(中川さん)
もともと、グループの中にうまく溶け込めなかったんですね、中学に入ってから。でも、絵を描いたり、漫画を読んだりするのが好きで、自分が好きな事をしていた時間は平気でいられたんですけど、やっぱり1人でいるのを見られたくないなとか、そういう事をずっと気にしながら過ごしていました。

中学3年生のとき、同じ趣味を話せる友人ができたんですけど、違うグループから、「絵とか描いてんじゃねえよ、きもい」って言われて。自分もそれに対して言い返してしまったら、ある日、靴箱がつぶされて、ローファーがなくなっていて。

先生に相談をしたら「じゃあこのローファーで帰りなさい」って言われて渡された靴を履いて帰りました。しばらくしてその先生から「ローファー代払いなさい」って言われて、「結局、やったもん勝ちなのかこの世の中は、もう裏切られた。もう大人も嫌いみんな嫌い、こんなところ行きたくない」って気持ちになって、すごく全部を恨んじゃったというのもあって、学校に行かなくなっちゃって。卒業式も出なかったので、それはあとまで、もっとうまいやり方ができたんじゃないかなって思っちゃう事はありますね。

学校行きなさい!やだ!

(聞き手)
自宅にひきこもっている時は、ご家族はどのように対応されていたのですか。

(中川さん)
学校に行きたくないから、ひきこもって部屋に鍵をかけて、ずっとインターネットをやってという感じで。母は心配して「学校行きなさい!」って、鍵を蹴破って入って来て、マウントポジションになって。「行け!」「やだ!」と、そんな親子げんかをしました。

親としては、「なんでそういう風に逃げるんだろう」って、ショックもあったと思うんですけど。母も1人で働いていたから、「それはそう言うよな」と今は思うけれど、自分は自分で「負けたと認めたくないな」とか「悔しい」とか、いろんな気持ちで。もう、どうしようもなくなっちゃって。

人に嫌われる星に生まれたから

(聞き手)
特につらかったのはどんな点だったですか。

(中川さん)
自分の置かれていた環境は、ちゃんと家があって、母も愛してくれていて、好きなインターネットもできたり、今思うと恵まれていたとは思います。でも人間関係がうまくいかないし、自分が思い描いてたエンジョイする感覚には全然なれていないし、「何で私ばかりこんな目に」って。

私はネガティブな方向に行きやすかったと思うんですけど、「どうせ、こういう目に遭うんだから、人に嫌われる星に生まれたんだから、もう死にたい」ってすごく思う癖がついちゃってたという感じでした。

学校では話が合わないけど、学校の外、インターネット上には趣味の合う人もいるんだなっていうのは思ってたんですけど、実際にどう行動していいかも分からなかった。もうずっと悶々としていましたね。

ひきこもったから体験できた濃い時間

(聞き手)
ひきこもっていたとき、具体的にはどんなことをしていたんですか。

(中川さん)
甘えでもあるんですけど、漫画を読んだり、アニメや特撮、ブルース・リーの映画を見たり、インターネットで調べたりとか、歌をうたったり。とにかく死にたい気持ちを紛らわせる何かをしてなきゃ耐えられないという感じでしたね。

アニメを見ながら、セリフを原作の漫画と照らし合わせてアフレコしてみたりとか。ヌンチャクの練習とか。松田聖子さんの歌とかアニメソングをひたすら聴いて、ここの「え」の発音がよすぎる、ここをもう1回練習してできるようになろうとかひたすらやってて。

でも、ずっと不安だった

(聞き手)
そういった好きなことをやっている時はどんな気持ちでいることができたのですか。

(中川さん)
ネット上で年齢とか関係なくいろんな人と好きなものを語り合ったり、音楽を聴いて、歌って、好きなものをたくさん、どんどん1人で見つけることができたので、その間は(現実から)逃げることができる。でも、やっぱり学校に行かなくなってるっていう人生になっちゃってる自分っていうのがすごい恐怖もあって、何かずっと、不安なもの、なんで生きてるんだろうみたいな事にはなっちゃってました。

振り返ると、私はその時に読んだ本だったり漫画だったり、歌だったりが全部仕事とかにも人との出会いに結び付いたんで、すごく意味があった時間でもあったなと言えるんですけど、そのときは分からないのでひたすら、自分を硬い殻で防御するために、これをやってる間は平気だ、これやってる間は考えないで済むっていう感じでした。

「またね」と言われて続けられた仕事

(中川さん)
中学の後、通信制の高校に行くようになって、そこから芸能界って道に入ったんですけど、そんなすぐうまくいく訳もなく、すごい挫折をして、「あぁもうやめようよ」ってずっと思っちゃう日々もあって。ありがたいことに呼んでもらえたりとかする機会でも結果を出せなかったりとか。

でもある時、「私なんてやっぱりだめなんだ」ってモードになっちゃってるときだったんですけど、漫画家の楳図かずおさんにお会いできて「またね」って言ってもらえたことで、「あっ頑張って生きていればまた会えるかもしれないんだ」って、ほんと何気ないそのひと言で、「あっうれしい」ってなった瞬間があって。こんな私みたいなごみ虫にそんな声をかけて下さるなんて、生きててよかった、生きるのをやめてたらきょう会えてないしって、全部塗りかわったっていう気がして。それで辞めるの踏みとどまったという。

だから、何かのきっかけが、星座みたいに次につながっていくんですね。例えば今ってアイドルだってイベントがあったら会いに行けるし、ライブがあったら行ける。自分さえ生きていれば、会いたい人には会えるかもしれない。「こんな環境にいて、腑に落ちない部分がどっかにある」って思ってる人は、少しずつでも、アルバイトにチャレンジしてみるとか、なにかやってみようかなって思える日が、そういう風が吹く日がふっとくるかもしれない。どういう一歩からでもいい、例えばそれはネットでできる仕事かもしれない。

ひきこもりは「さなぎタイム」

私もやっと最近、「みんなも、うちに来ない?」って言える人になってきたりとか。30を超えてなんですねこれも。だからわからないな人生ってとか思う。当時、10代の自分が「学校卒業したら楽しくなるよ」って大人に軽く言われたときに、「あなたには分かんないでしょその気持ちが。今、行かなきゃいけないのに」ってすごい、イラっとした。でも悩むって一番、優秀な先生、というか何か悩んだことが絶対むだにはなんない気がしますね。

ひきこもりの期間は、自分の道を見つけるための、さなぎの期間なのかなと思いますね。でもそのときは見えない。そういうことはわからない。未来がどうなるかなんてわからないし苦しいし。だけどそれだけで終わりたくないという気持ちもあるし。進化するための「さなぎタイム」と思えればいいですよね。

つらい時は、好きなこと探しの時間にあてて

(聞き手)
ネットでの発信や人間関係がその後の活動につながったということですが。

(中川さん)
今はオンラインゲームとかSNSとかすごくいろんな「自分ってこういう生き物だよ」って発信できる自分の居場所や、得意な部分を見せられる、環境や娯楽も増えたと思います。

自分はこれやってる時はテンション上がるぞ、というのを何か1つでも、ネットの上でだったりでも見つけることができたらもうそれは、勝ち組です。絶対どんな狭い趣味でもいるんですよ、同志がどこかには。学校なんてたまたま数十人のクラスなだけだから、そりゃ全員と仲よくなるって、そういう才能ある人しか無理ですよ。あと何なら自分なりの幸せさえ1個でも見つけられれば大丈夫だし、人は人だしと思えればいい。これって良いよねっていう事を、学校の単位だとちょっと空気を読まなきゃ言い出せないみたいな空気があったんですけど。ネットの世界だったら、本当にいろんな趣味の、マニアの人もいるし、何かを極めている人もいる。これをやってる間は幸せっていう事をライトに発信してくれてる人とか、本当にいろんな人たちがいて、それでいいんだっていう場所がインターネットだという気がするので。もう絶対に、否定される筋合いはないので、自分の好きな事を。だからとにかく、そのつらい時は好きなこと探しの時間にあててほしいですね。つらい事を恨んだりとか、「何でだよ、何でだよ」ってそれを反すうするって、もったいないなって。

自分の心に、風に任せていい

(聞き手)
今、なんらかの理由があってひきこもっている方たちに、アドバイスやメッセージがあればお願いします。

(中川さん)
難しいのですけれど、ひきこもっちゃって死にたいって思っちゃう人に、「死にたいと思っても、でもそれって、きょうじゃなくてその明日のその先に生きててよかったと思える瞬間が来るかもしれない。死んじゃったらもったいないって思いませんか」って言いたいです。

自分のペースで人それぞれ、向いてる事、向いてない事、得意な事、そうじゃない事、もちろんそれを頑張って、無理してやんなきゃいけないこともいっぱいあるし。でもそれぞれ自分の楽しいって思える瞬間ってタイミングが違うから、自分のペースで、でもどうか好きな事を見つけて。生きててよかったの瞬間に近づいてほしいなと思いますね。

学校だったりとか今の環境っていうのか。絶対的な世界であり逃げられない場所であるとか、大人になってからも大変なこともあったりする。でも自分の人生において、例えば攻撃してきたり悪く言ってきたりとか、そういう周りの人ってどうでもいいですよね。それより自分がハッピーって思える時間を増やすタイムのほうが、有意義な気がしちゃうので。焦らなくていいし、自分がひきこもっちゃって迷惑をかけちゃったなとか、あとで思ったりするかもしれないし。少しずつでも、返せる事もあるかもしれないし、自分の心に、風に任せていい気がするんですけど。

全部が経験値になる

私の場合は本当にそのひきこもってた時間でやってた事とか考えた事が悩んだり苦しかったりはすごくあったけどでも、その時に、見た知識とか楽しいって好きって思えたものとかずっと裏切らないで味方でいてくれる気がしていますね。

ひきこもってた時間に見つけたことがあったおかげで、「あぁ生きててよかった」って思えた瞬間にたくさん出会えた。蓄積しているもの1個ずつ、「この本を読んだ、経験値を得た」、「この作品を見た、おもしろかった、はいこれも経験値」、と全部経験値だと思って、ダメージを与えてきたいろんな環境にリベンジしていけばいいんだと思います。

「こんな蓄積してやったぜ、ざまあみろ」って言えるように、すごく意味のある、いろんな栄養を吸収できる時間だと思って。それがいつか誰かとの雑談に役立つかもしれない、誰かとの仕事に役立つかもしれない。何かの意味には絶対になると思うので、このひきこもっている時間に悩むだけじゃなくて、少しでも楽になれる好きな事を見つけていってほしい。そしてそのちょっとでも心に風が吹く、動こうと思える瞬間、チャンスを狙っててほしいですね。