ワクチンデマに不安感じた妊婦
考え変わり接種したきっかけは

2021年8月10日

“ワクチンを接種すると不妊になる、流産する”というデマがSNSなどで出回り、それを見て不安になる人が少なくありません。

今年5月に出産したマリさん(仮名・アメリカ在住)もその一人です。

一度は「ワクチンを打つのをやめよう」と思ったマリさんですが、ある医師の動画を見たことで考えを変え、出産前にワクチンを接種しました。

マリさんが「背中を押してもらった」という動画。制作した医師らのグループは、ワクチンの有効性や副反応などについて、科学的根拠に基づいた情報を毎日発信し続けています。

(フェイク・バスターズ 新型コロナワクチンと誤情報 取材班 / 総合テレビ 8月10日 午後10時 放送予定)番組詳細はこちら

世界中に拡散した誤情報 受け取った妊婦は…

アメリカに住むマリさんは、5月に第二子を出産しました。

アメリカでは去年12月からワクチンの接種が始まりましたが、妊娠中にワクチンを打つことにマリさんには迷いがありました。

去年12月ごろから、SNSを中心に、「ワクチンを製造するファイザー社の元職員が『ワクチンによって体内でつくられた抗体が胎盤のたんぱく質に悪影響を与え、不妊になる可能性がある』などと述べた」とする情報が広がっていたからです。

根拠のない誤情報にもかかわらず、ネット上では広く拡散し、最初は英語圏で、その後日本でも広まっていました。

マリさんは新型コロナウイルスの感染拡大以降、情報を求めてSNSを頻繁にチェックするようになっていました。

“ワクチンが不妊や流産の原因になる”とするデマも、Twitterのタイムラインにたびたび流れてきました。

マリさんがフォローしている人たちも「いいね」や「リツイート」をしていました。

デマだとは思うけど…

マリさん
「妊娠中っていうのはただでさえ不安なんですよね。本当に生まれてくるまで分からない。そこを突いてくる。赤ちゃんに悪い影響があるよっていうふうにささやかれると、え、本当かなって思っちゃいますよね」

その頃、マリさんはほぼ家の中で過ごしていたこともあり、自分が感染するリスクは低いと判断し「出産するまでは打たないでおこう」と考えました。

デマだと思っていても、早産や流産になるリスクはやはり怖く、感染リスクが低いのであれば「打たない方がいいのではないか」と思ったのです。

一緒に暮らす夫はワクチンを接種することにしましたが、妊娠中のマリさんの身を案じて「やめておこう」と話していたそうです。

届いた動画 “科学的根拠に基づいた”医師による発信

そんな時、マリさんのもとに友人からある動画が送られてきました。新型コロナウイルスの情報を発信している医師たちのグループ「こびナビ」の動画でした。

「こびナビ」は、感染症専門医やウイルス研究者、公衆衛生の専門家など30人ほどがボランティアで参加していて、ウェブサイトやSNSをフル活用し、ワクチンの有効性や副反応など、科学的根拠に基づいた情報を毎日発信し続けています。

マリさんが見たのは、「こびナビ」のメンバーのひとり、内田舞医師が、妊娠中の女性に向けて発信した動画でした。

内田医師はアメリカ在住でハーバード大学医学部助教授やマサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長を務めています。

自分自身が妊娠中に新型コロナワクチンを接種した経験から、女性たちの不安に寄り添いたいと、最新の論文や研究結果をわかりやすく紹介しています。

「“何もしない”ことも大きなリスク」

内田医師が解説する動画の中で、マリさんが特に気になった言葉がありました。

内田医師
「“なんとなく怖いから何もしない”、すなわち“ワクチンを接種しない”という選択にも、大きなリスクがあることを忘れてはなりません」

日本産科婦人科学会やアメリカ疾病対策センター(CDC)などによると、妊娠中に新型コロナに感染した場合、妊娠していない同年代の女性に比べて、重症化しやすくなるとされています。

内田医師はこうした研究結果をもとに、ワクチンを打つリスクと打たないリスクを天秤にかけて判断をしてほしいと呼びかけていました。

マリさん
「これまで“打たないことのリスク”はあまり考えたことがありませんでした。重症化してECMO につながれるかもしれないと考えたときに『あ、それは本当に怖いことだ』と。私が感染してしまったら『家族はどうなるんだろう』『赤ちゃんはどうなるんだろう』と思いました。ドンと背中を押してもらったような感じがしました」

この動画を見てから考えが変わったマリさんは、出産前にワクチンを接種。

その後、無事に女の子が生まれました。

“ワクチンで流産や不妊”には「科学的根拠がない」

ワクチン接種が不妊や流産の原因になるという情報は、世界中の公的機関が『科学的な根拠がない』と否定しています。

その詳しい理由を内田医師に改めて解説してもらいました。

「ワクチンが胎盤に悪影響与えることはない」

内田医師
「ワクチンを接種することによって、新型コロナウイルスの周りを囲む『スパイクたんぱく質』に対する抗体ができます。デマの元になったのは、この『スパイクたんぱく質』と『胎盤を構成しているたんぱく質』が似ているため、抗体が胎盤に対しても反応するのではという説でした。しかし、検証の結果、2つのたんぱく質は全く似ておらず、胎盤に悪影響を与えることはないことが分かっています」

「ワクチンで流産が増えていることはない」

内田医師
「流産については、アメリカでは妊娠中にワクチンを接種した人3万人以上を対象とした調査が行われ、コロナの流行以前の一般的な流産率15~20%に対して、ワクチン接種後の流産率は12.6%という結果が出ています(CDC・米疾病対策センターの最新の論文より)。実際にワクチンが原因で流産が増えていることはないと確認されています」

「臨床試験では、妊娠する確率は全く同じ」

内田医師
「また不妊については、ワクチンの臨床試験中にワクチンを接種したグループと、プラセボ(偽薬)を接種したグループを比較したところ、妊娠する確率は全く同じだったことが分かっています。新型コロナワクチンが流産や不妊を起こすという科学的根拠はありません」

「心の弱いところを突いてくる意地悪なデマ」

こうした情報を発信するようになってから、内田医師のもとには質問やコメントが数千件の単位で寄せられるようになったといいます。

その多くは不安を訴える女性たちの声で、それを読んだ内田医師は、改めてデマの悪質さを感じたと言います。

内田医師
「ほとんどの不妊や流産は、何かをしたり、しなかったりで確率が増えることはほとんどありません。それでも不妊や流産を経験された方々は、自分を責めることが非常に多いんですよね。私もその気持ちはすごくよくわかります。そうした心の弱いところを突いてくる意地悪なデマだなと思います」

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