市町村別のコロナ感染者数の公表
取りやめ?継続? 各地の動きは

2022年9月26日

9月26日から全国で始まった、新型コロナウイルス感染者数の全数把握の簡略化。
これにより、これまで各都道府県で行われてきた市町村別の感染者数の公表が難しくなります。

ただ、市町村別の公表をやめると地域の感染状況が見えにくくなるという指摘もあり、対応が分かれています。

今回の簡略化に伴う一部の自治体や保健所などの対応をまとめました。

【東京】新規感染者数の区市町村別の公表取りやめ

新型コロナの感染者の全数把握を簡略化し、詳しい報告の対象を重症化リスクが高い人に限定する運用が9月26日、全国一律で始まりました。

これに伴って、東京都は詳しい報告の対象外となった感染者の性別や住所、ワクチンの接種状況、都外検体、それに感染経路などについて把握できなくなったとしています。

このため都は、9月27日から新規感染者の
▽性別、
▽区市町村別、
▽ワクチンの接種回数別、
▽都外から持ち込まれた検体などの数、
▽施設や家庭といった感染経路などについて詳しい内訳の公表を取りやめることにしています。

一方、新規感染者の数、死亡者や重症者の数、それぞれの年代別の内訳については、これまでどおり、公表することにしています。

東京都は「陽性者登録センター」の態勢を拡充

新型コロナの全数把握の見直しを受け、東京都は報告の対象外となる軽症者などからのオンライン登録を受け付けるセンターの態勢を拡充し、健康観察を続けることにしています。

これにあわせて、軽症などでリスクの低い都民が陽性だった場合、みずからオンラインで登録する「陽性者登録センター」を利用できる対象がこれまでの20代から40代までから64歳以下に拡大されました。

都によりますと「陽性者登録センター」では、およそ60人で登録を受け付けていましたが、対象の拡大に伴い、9月26日からおよそ100人で対応にあたっているということです。

1日で8000人ほどの登録ができるようになるということで、都は健康観察を続けることで、体調が悪化した場合、都のフォローアップセンターと連携して対応するということです。

都福祉保健局の本間義崇・保健所連携支援担当課長は「若い人でも容体が急変することもあるので少しでも健康に不安がある人は登録をしてほしい」と呼びかけていました。

八王子市の保健所では負担軽減に期待する声

東京 八王子市の保健所では医療機関の代行で行っていた患者のデータの入力など、業務の負担が軽減されることを期待する声が聞かれました。

東京 八王子市の保健所は、これまで一部の医療機関の作業を代行し、FAXで送られてきた患者の名前や連絡先、発症日などのデータを「HERーSYS」と呼ばれるシステムに入力していました。

多い日で代行入力は300件ほどに上りましたが、今後は詳しい報告の対象者が、65歳以上や入院が必要な人などに限定されることで、業務の負担が軽減される見通しだとしています。

また、詳しい報告の対象外となると医療保険の請求などに必要だった「療養証明書」が発行されなくなるため、多い週で1500件ほど寄せられていた療養証明書の電子申請と、感染者のデータを照会する業務も減る見込みです。

保健所は、こうした業務が減った分、重症化しやすい患者への対応や、梅毒などほかの感染症を予防する業務に力を入れたいとしています。

八王子市保健所の鷹箸右子副所長は、「全数把握の簡略化で、入院調整などが必要な人に、適切かつ迅速に対応できるように取り組んでいきたい」と話していました。

【千葉】3つの市は継続 その他は取りやめ

千葉県は、新規感染者の性別と保健所を設置している千葉市、船橋市、柏市以外の市町村別の感染者の内訳の公表を、9月27日から取りやめます。

保健所を設置している3つの市は、市内の医療機関からの報告やオンラインで登録した感染者の住所をもとに新規の感染者数や年代別の人数の公表を行うとしています。

また、詳しい報告の対象から外れる人についてもその後の療養を支援するため、オンラインでの登録を呼びかけています。

【神奈川】取りやめも自宅療養者は市町村別に公表

神奈川県も、新規感染者の性別の公表を9月27日から取りやめるほか、医療機関から届け出があった感染者について、市町村別の居住地の内訳の公表を27日から取りやめます。

一方、県が独自に設けていた「自主療養届出制度」に応じて抗原検査などの結果をもとにオンラインで登録し自宅療養していた人は、感染症法上の患者の位置づけが変わったことに伴い27日から、医療機関から報告された患者の数と、あわせて公表します。

また、自宅で療養している人については市町村別に公表されます。

この結果、神奈川県全体の感染者数はこれまでより増える可能性もあるとしています。

また、これまで10歳未満は1つの区分として発表していましたが、0歳、1歳から4歳、5歳から9歳の3つの区分に分けて発表するということです。

【埼玉】市町村別の感染者数と性別を公表

埼玉県は新規の感染者数、年代別の人数を発表した翌日に市町村別の感染者数と性別を公表することにしています。

高齢者など、詳しい報告の対象にならない人にはオンラインで個別に住所などを登録してもらうということです。

埼玉県は「オンラインで登録される感染者の数はすべてではないと見られるので、これまでのように感染者数すべての数は公表できないが、感染傾向を把握するため、市町村別の感染者数の公表を続けることにした」としています。

【三重】県独自システムで市町ごとの感染者数の把握継続

三重県は、独自のシステムを使って市や町ごとの感染者数などの把握を継続することにしていて、医療機関の負担軽減と感染者情報の把握の両立を図ることにしています。

三重県では、先行して9月9日から全数把握を見直し、詳しい報告の対象を、
▽65歳以上の人や
▽入院が必要な人、
▽妊娠中の女性など重症化のリスクが高い人に限定しています。

これにあわせて県は、県独自のシステムを構築し、詳しい報告の対象外の感染者について、「氏名」や「生年月日」それに「居住する市町名」の3項目を登録するよう医療機関に求めていて、26日以降もこのシステムを使って個別の感染者の把握を継続することにしています。

三重県は、こうした対応により医療機関の負担軽減と感染者情報の把握の両立を図ることにしていて、感染者が適切な医療を継続して受けられるよう適切に対応したいとしています。

県患者情報プロジェクトチーム鈴木一司担当課長は「県が情報を持っていれば、素早く支援につなげられるメリットもあるので、作業として必要だと考えている」と話しています。

【大分】重症化リスクの高い人のみ市町村別で公表

新型コロナウイルス感染者の全数把握の見直しが9月26日から全国で始まり、大分県でも詳しい報告の対象が重症化リスクの高い人に限定されます。これに伴って、これまで発表していた感染者の情報提供の内容が27日から見直されます。

新型コロナ感染者の全数把握は26日から全国一律で見直され、大分県でも医療機関に求める詳しい報告の対象が
▽65歳以上の人や、
▽65歳未満で入院が必要と判断された人など重症化リスクの高い人に限定されます。

これに伴い、県がこれまで情報を提供してきた新規感染者の市町村ごとの数や症状の区分は届け出の対象者を除いて、9月27日以降は公表されなくなるほか、性別や職業、それに感染経路も公表されなくなります。

また、療養状況について、入院している人の数はこれまでどおり公表されるものの、宿泊施設や自宅で療養している人の数、それに退院した人の数などは対象から外れます。

このほか、1日の新規感染者数については、年齢がこれまでよりもより細かく発表されるほか、病床使用率や療養中に亡くなった人の数、それにクラスターの発生件数などはこれまでどおり発表されます。

【福岡】 簡略化に伴い相談窓口の体制を拡充

詳しい報告の対象外になる人から健康相談が増えることが予想されるため、福岡県では相談窓口の体制を拡充して対応にあたっています。

福岡県は全数把握の簡略化に伴って、詳しい報告の対象外になる人も適切な支援を受けられるよう健康フォローアップセンターを整備しました。

このうち、自宅療養者などのための夜間や休日の健康相談ダイヤルでは、詳しい報告の対象外になる人から相談が増えることを想定して、9月から対応する看護師の数を増やしています。

具体的には、午後5時すぎから午後11時にかけてこれまで4人で対応していたのを5人に増やしたほか、深夜から朝の時間帯は2人から3人に増やしたということです。

この窓口では、自宅療養中に症状が悪化した場合や医療機関を受診するか迷う場合などの相談を受け付けていて、8月は多い日で1日200件を超える相談が寄せられたということです。

県から委託を受けている「福岡県メディカルセンター」の中村豊さんは「相談ダイヤルがつながりにくくなることを危惧して県と話し合って体制を強化しました。どこに相談すればいいかわからない場合などの不安に応えていきたい」と話していました。

福岡市の診療所 報告の負担が大幅に軽減

福岡市中央区の診療所では、患者のおよそ9割が重症化リスクが低い若者などだということで、今回の見直しにより報告の負担が大幅に軽減されるということです。

一方、詳しい報告の対象から外れる人も適切な支援を受けられるよう、自宅療養中に症状が悪化した場合の相談への対応や、食料品などの入手が困難な人への生活支援などにあたる健康フォローアップセンターが整備され、診療所では検査を受けた人に連絡先が書かれたチラシを手渡していました。

「ふくろのクリニック」の袋野和義院長は「これまで発生届の入力に1人当たり5分以上かかっていたので、時間に余裕ができてありがたい。対象外になる人へのフォロー体制もしっかりしていて安心できる」と話していました。

札幌市保健所「市民が必要な時に相談する段階に」

札幌市保健所ではこれまでの対応が大きく変わることになります。

《重症化リスクのみに》
保健所は、これまで、新型コロナに感染したすべての患者の個人情報を「発生届」で、把握していました。

この「発生届」は、医療機関がそれぞれの患者ごとに氏名や住所、症状などの個人情報を入力して保健所に報告していたものですが、今回の簡略化で、報告が、重症化のリスクなどがある患者に限定されました。

この結果、札幌市保健所の場合、2022年7月と8月の感染状況をもとにすると、感染者の8割以上が「発生届」による報告の対象から外れるということです。

《責任は患者に》
これを受けて、対象から外れた患者は、自分で自分の容体を把握して、必要に応じて、かかりつけ医に相談したり陽性者サポートセンターに相談したりする必要があります。

札幌市保健所医療対策室長野彩子・業務調整担当課長は、「保健所がすべての個人情報や健康状態を把握していたところから少しずつだが市民の皆さんが必要なときに必要な相談をしていただく段階に移ってきている」と話しています。

《こびまるライト》

札幌市保健所は、患者の体調管理をサポートしようと、「こびまるライト」というインターネットサイトを提供しています。

このサイトに自分の体調を入力すると、コンピューターのプログラムが症状の深刻さを赤、黄色、緑の3段階で自動で判定して、陽性者サポートセンターに連絡することなどをすすめてくれます。

《チラシで支援を》
さらに、患者が、体調が悪化したときや生活支援物資がほしいときのため、保健所は新たなリーフレットを作成しました。

リーフレットは、医療機関で新型コロナの検査を受けた患者に手渡され、陽性になった場合、名前や発症日、それに検査結果などを記入すれば、保健所に報告する際に活用できます。

このリーフレットと、医療機関からの診療明細書を、リーフレットに書かれた指示などに従って保健所に送付すれば、生活支援物資の提供を受けることができます。

札幌市保健所医療対策室の長野彩子業務調整担当課長は、「保健所では体調悪化のときにしっかりとサポートできるよう、体制をつくりたい」と話しています。

静岡市内の医療関係者 業務ひっ迫の軽減に期待

静岡市内の医療関係者からは業務ひっ迫の軽減への期待の声が聞かれました。

静岡市駿河区にある内科医院「岩はし内科」では、発生届について事務職員と医師がオンラインのシステムに入力するなどして保健所に提出していて、これまで、患者が多いときには1日2時間ほどその作業に時間がかかり、負担となっていたということです。

県は発生届による報告の対象者はこれまでの2割ほどになると見込んでいて、この医院では9月26日午前、新たに5人の陽性が確認されましたが、対象者はこのうち1人でした。

岩はし内科医院の岩橋昌雄院長は「これまではどうしても患者を受け入れきれないことがあった。事務作業の負担が減り、患者1人1人により向き合う時間ができると期待している」と話していました。