新型コロナウイルス 感染者・家族 遺族の証言
オミクロン株に専門家が感染
初期症状から重症化 どう感じた?

2022年3月14日

新型コロナウイルスのオミクロン株は比較的重症化しにくいとされ、中には季節性のインフルエンザと変わらないのではないかという意見を述べる人もいます。

しかし、そのオミクロン株に感染して重症化し、人工呼吸器が必要になった専門家がいます。

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博 教授(61)です。

初期にはのどがむずむずするくらいで、高熱も出なかったのに、気づいたらせきがひどくなり、肺炎になっていました。

およそ3週間の入院治療を経て回復した舘田さんに話を聞きました。いつも感染対策を呼びかけてきた専門家自身が感染して感じたことは。

※以下「」は舘田さんのコメント

第6波のピーク時に感染

舘田さんが新型コロナウイルスに感染したのは、第6波がほぼピークの状態だった2月4日ごろ。

そのころ東京都では一日の新規感染者数が2万人を超え、全国では10万人を超えていました。

感染症学が専門で、2021年までは感染症学会の理事長もつとめた舘田さん。

大学で教えるだけでなく、厚生労働省の専門家会合や新型コロナ対策に当たる政府の分科会に出て意見を述べ、助言を行うなど、多忙な日々を送っていました。

初期症状は...

当初はのどがむずむずするくらいで高熱もなく、抗原検査を2日連続で受けても、いずれも陰性だったと言います。

しかし、2月9日ごろから強く乾いたせきが続き、38度以上の発熱も。

そして、病院でPCR検査を受けたところ、新型コロナへの感染が判明しました。

オミクロン株への感染でした。

「最初は、のどがむずむずするくらいで高い熱が出るわけでもない。花粉症か何か、ちょっと違和感があるという感じだった。いったん軽快するのかなと思うような兆候があって、何となく治るのかなと少し油断した部分もあったかもしれない」

「今、冷静に考えると、なぜもっと早め早めに、PCR検査をやらなかったのかと思う」

いきなり肺炎 即入院 そして人工呼吸器に

舘田さんは、血液中の酸素の値が低くなり、CT検査ではすりガラス状の白い影が映し出され、肺炎になっていることもわかりました。

その日から即、入院になりました。

主治医からは人工呼吸器を使った治療を行うと告げられました。

「PCR陽性とか、サチュレーション(血液中の酸素飽和度)が下がってるとか、CTで肺炎像があるとか、そのときは意識がもうろうとしているような状況でした。まともに自分の感染の状態とかリスクを評価できるような、そういった状態じゃなかったんじゃないかなと思います。どういう形で検査の結果が出て、どういう形で話を受けて、どうなっていったかというのはあまり記憶にないです」

重症化の要因は...

舘田さんが重症化したのには、1つ、要因があります。

実は、アレルギー体質で、新型コロナのワクチンを接種できていなかったのです。

このため舘田さんは日頃から、マスクの着用の徹底や人との距離をとること、接触する時間を短くすること、それに換気の徹底といった感染対策を取っていたと言います。

「アレルギーがある体質で、ワクチンを受けられてなかったんですね。ですから当然コロナにかかってしまうと、重症化してしまうリスクが高いとわかっていました。この後どういうふうな形で治療が行われて、その治療に(自分の体が)反応してくれるのか、やっぱり不安ですよね。不安な状況というのがありました」

「主治医の先生が提案してくれた挿管、人工呼吸器につなげましょうという選択肢を受け入れざるをえない、受け入れないという選択肢はないという、そういう状態だったと思います」

「ワクチンを受けていない人、そして新型コロナウイルス感染症の肺炎を合併して低酸素の状態になっている、そういう意味ではかなり厳しい状況になりつつあるんだろうなって思いました。その中で人工呼吸器につながるわけですから、さらに呼吸の状態が悪くなる、予期せぬ合併症を発症してしまうと、さらに厳しい状況になる。そういう可能性が高まってきてるんだろうなっていうことを感じました」

意識がほぼない10日間も...

舘田さんが人工呼吸器を使った治療を受け始めたのは2月10日。

その後、10日近くにわたってほぼ意識がありませんでした。

新型コロナで重症化した人では、免疫の仕組みが暴走し、体中に炎症を引き起こす「サイトカインストーム」が起きます。

この間、舘田さんは、人工呼吸器とともに免疫の過剰な働きを止める薬を使った治療を受けました。

そして舘田さんは、2月20日ごろになって意識が戻り、医療スタッフと話せるようになりました。

ただ、時間や日付の感覚はなくなっていました。

「いろいろ聞いてきましたけど、実際に自分で体感するのは初めてでしょ。挿管されるときは、麻酔がかかってる訳ですよね。意識がない中で、いつも夢を見てるような、そういった感じでした。それから現実になったり夢になったり、どこまでが本当なのか、幻覚を見ているみたいな状態になるわけですよ。だんだん意識が戻ってくるにしたがって現実の部分が多くなってきて、主治医の先生の顔が目の前に出てきたり、あるいはその先生とお話ししたりする時間が長くなってきて、だんだん意識が戻ってくるようなそういうイメージでした」

「ただ、死なずにすんだなということは何となくわかりました。あんまり冷静には考えてなかったかもしれないけれども、ああ意識が戻ってきたんだな、それで(人工呼吸器を)抜管するんだなっていうことはわかりました」

声も出ず 歩けない 衰弱著しく

舘田さんはその後、一般病棟に移りリハビリを受けました。

しかし、10日間人工呼吸器の治療を受けた影響は大きく、声も出ず、足の筋肉も衰えて歩けない状態でした。

2、3日たってからは話すことや食事はできるようになりましたが、回復には想像していた以上に時間がかかると感じています。

「足腰が弱って、シャワーも自分で浴びられないし、疲れてしまって、髪の毛も自分で洗えないわけですよ。そういうふうな状態から、少しずつ行動範囲を広げていくような状況でした。僕ぐらいの年齢であっても10日間の人工呼吸器につながれるだけで、これだけ厳しい状況になってしまうわけですから、もう少しお年の方、あるいは基礎疾患のある方がもう少し長い期間人工呼吸器につながってしまったら、これはなかなか日常生活に戻るのは大変なんだろうなっていうことを改めて感じました」

舘田さんは3月2日、およそ3週間の入院治療を終え、退院しました。

しかし、自宅に帰ることはできたものの、通常の生活に戻るにはさらにリハビリが必要だと感じています。

<舘田さんの症状・治療の経過>

▽2/4ごろ
のどの違和感を覚える。37度5分前後の微熱。2日連続で抗原検査受けるも陰性。

▽2/9
せきが出始める。38度以上の発熱。解熱剤飲んで対処。

▽2/10
強く乾いたせきが止まらなくなる。血液中の酸素の値が83%、PCR検査で新型コロナ陽性が判明。
CT画像で「すりガラス状」のコロナの肺炎。ICUに移動し、夜に挿管、人工呼吸器使った治療開始。

▽2/10以降
人工呼吸器使った治療と並行して、免疫の過剰な働きを止める薬を使った治療。10日間にわたって、ほぼ意識なし。

▽2/20
肺の状態が改善し、人工呼吸器を外す。

▽2/21
一般病床に移動。個室でリハビリ。

▽3/2
退院。

▽3月上旬
少し速く歩くことや入浴でも息がすぐ苦しくなる状態。

感染を経験して感じたことは?

舘田さんは、この経験を通じて感染対策を呼びかける立場として感じたことがあると言います。

1.ワクチンと感染対策をとることの重要性

1つは、重症化を予防するワクチンと感染対策をとることの重要性です。

「ワクチンを受けていない高齢者が新型コロナウイルス感染症にかかってしまうと、重症化しやすいというのは明らかですから、受けられる人は3回目の接種までしっかりと受けられることをお勧めしたいと思います。ただ、(私のように)アレルギーがあったりとか、あるいは自分の信念で受けたくないっていう方もいますから、そういう人たちは自分たちは感染したら重症化しやすいんだということを改めて認識していただいて、感染を避けるような行動を普通の人たち以上に注意してとっていかれることが大事になると思います」

「ワクチンも(ファイザーやモデルナのような)メッセンジャーRNAワクチンだけじゃなくて、(アストラゼネカなどの)ウイルスベクターワクチンであったり、さまざまなものが開発されています。こちらのワクチンはアレルギー反応が起きるから使うべきじゃないけど、こっちのワクチンは使えるよねとか、そのときの量を減らす、あるいは間隔を空ける、そういった工夫を合わせるなどして、基礎疾患がある人たちや高齢者をいかに重症のコロナウイルス感染症から守るか、考えていかなければいけないだろうなと思います」

2.いったん回復したら終わりの病気ではない

また、今も本調子ではなく、すぐに息切れし、筋肉も戻っていないという舘田さんは、改めてコロナはいったん回復したら終わりの病気ではないと感じています。

「呼吸が苦しい状態が続くとか、そういった症状が残りやすい感染症の1つですから、高齢の方たちは、コロナ自体は治るかもしれないけれども、例えば人工呼吸器につながれている期間が長くなってしまうと、だんだん体の筋肉が萎縮してしまって治ったあと普通の生活に戻れない、戻るのに非常に時間がかかってしまう可能性が高くなると思います」

3.コロナはまだ危険な感染症

猛威を振るったオミクロン株による感染拡大の第6波は、今、ピークを越え、季節性インフルエンザと同様の扱いにすべきではないかという意見を言う人もいます。

舘田さんは自身の体験からも、まだ安心できないと考えています。

「60代前半で基礎疾患が特にない人が、こういう形で人工呼吸器を使わざるをえないような状況に追い込まれてしまう。そのくらい危険な感染症であるということは改めて感じました。ワクチンを打ってないということもありますけれど、これだけ肺炎を合併しやすくて重篤化しやすいことを、私自身の一例ですけれども、実感することができました。そういう意味では、まだまだ油断できるような感染症ではない」

「感染症を専門とする医師として、どうすれば感染を抑えることができるのか情報発信してきたわけですが、感染してしまいました。ただ、それがどこで感染したのか全く思い当たるものがありません」

「リスクを下げるよう注意してきましたが、たまたまどこかで感染のリスクを高めるような場面、シチュエーションが重なってしまうようなことが起きてしまう。そういうリスクが高まるような場面が生じてしまうと、それが一瞬であったとしても感染が起きる。それが、この感染症の非常に注意しなければいけないところだと感じました」

自分自身の経験 少しでも役立つなら

舘田さんは「自分自身の経験が、少しでも役立つなら」と、感染して重症化した経験について、初めてインタビューに答えたということです。

新型コロナウイルスは、誰が感染してもおかしくない状態が続いています。

感染対策を呼びかけてきた専門家が重症になったことからも、油断することなく、対策を続けることが改めて重要だと言えます。