コロナ自宅療養で“入院保険”
これからどうなる?

2022年9月1日

単身赴任中の私(記者の金澤)の夫が6月中旬、新型コロナウイルスに感染し自宅療養に。発熱やのどの痛みがありましたが、幸い軽症で済んだということです。

私が上司に夫のコロナ感染を伝えると、返ってきたことばは「自宅療養でも入院保険がでるみたいだよ」「えっ、自宅で療養しているのに、入院?」2つのことばがかみ合わないので調べました。

そしてその給付の対象は9月下旬から大きく変わることになりました。

過去最多を記録した自宅療養

“第7波”による感染急拡大で自宅療養者は過去最多を記録しました。

自宅療養となった場合、これまでは加入している医療保険の契約内容によって入院給付金が受け取れました。

これについてSNS上では「うちの従業員が、子供からの連鎖で3週間休んだ後に30万円貰ってました」とか「念の為加入してたコロナ保険と生命保険で20万以上入る。夫が濃厚接触で仕事行けないから助かる」といった投稿が。

また「陽性と判定されたら入院給付金が出るタイプの医療保険に加入してから、即PCRを受けに行く契約者が激増しとるらしい」とか「陽性になるまで何度でも検査しそう」という投稿がありました。

給付を受けるにはそもそも何が必要?

保険会社が加盟している生命保険協会などによると、保険会社によって必要な書類は若干異なりますが、自宅療養や宿泊療養の場合は原則として医療機関から陽性の診断を受け、“みなし入院”を証明することが求められます。

患者がスマートフォンやパソコンで自身の健康状態を入力する国のシステム「My HERーSYS」(マイ ハーシス)。

自宅療養などをした時に保健所や医療機関からの連絡で登録し、体調を報告するために使います。

My HERーSYSのスクリーンショット

各保険会社から送られてくる療養期間などを記載する用紙への記入とこのスクリーンショットの印刷の計2枚で入院給付金が支給されるケースもあります。

「My HERーSYS」の画面が利用できない時には医療機関や保健所などが発行する「宿泊・自宅療養証明書」で代用することができますが、発行する事務作業の負担を軽減するため、生命保険協会は各保険会社に代替書類で対応するよう周知しています。

代替書類の例
▽医療機関等で実施のPCR検査・抗原検査の結果がわかるもの
▽診療明細書
▽コロナ治療薬が記載された処方箋・服用説明書
▽自治体設置の健康フォローアップセンター受付結果(LINE等)
▽保健所と陽性者がやり取りしたメールの写し
▽保健所から陽性者への案内文(健康観察や生活支援の留意点が記載)
▽PCR・抗原検査実施の検査センターの結果(市販検査キット除く)

協会は扱う代替書類について、各保険会社で異なるため、確認してほしいとしています。

協会に加盟している約40社が自宅療養や宿泊療養で支払った昨年度の入院給付金は、91万3685件で約889億7000万円。

それが今年度は6月末までのわずか3か月間で186万7550件で約1691億2121万円。

すでに昨年度の件数と額を上回っています。

支払い対象見直し、重症化リスクの高い人などに限定へ

こうした中、新型コロナ感染者の全数把握などの見直しに伴い、保険各社は「みなし入院」による入院給付金の支払いの対象を見直すことになりました。

具体的には、▽65歳以上の高齢者▽入院が必要な患者▽妊婦▽新型コロナの治療薬や酸素の投与が必要な患者など重症化リスクが高い人などに支払いを限定することにしています。

運用については保険会社によって異なる場合がありますが、早ければ9月下旬から対象が見直される見通しです。

専門家“背景に社会情勢の変化と誤算”

保険に詳しい福岡大学の植村信保教授は政府の全数把握の見直しと合わせて、入院保険の対象見直しを行うことは妥当だと考えています。

「保険の取り決めについて拡大解釈をしてあえて支払っていたものをふつうの状態に近づける話だと考えています。コロナは未知の病気で、どうなってしまうか分からないという当初の状況とは社会情勢がずいぶん変わってきています。見直しをすること自体は必要なのではないかと思っていました」

加えて今回の背景には、保険会社側の誤算があったとも指摘します。

「保険会社にとって誤算は2つあります。1つは陽性者がこれほど増えると思わなかった。もう1つは『みなし入院』の保険金の請求がこれほど来ると思わなかったということです」

一方で対象の年齢を65歳以上としたことについては「政府の方針通りということだと思うが、65歳以上だから重症化リスクが高いという割り切りがそれでいいのか公平性という観点からやや疑問がある」と述べました。

そして今後混乱が予想されるとして保険会社には丁寧な説明が求められるとしています。

「お客さんは情報が錯そうしているので、それを念頭に接してほしいです。問い合わせが相当あると思うので、分かる形でできるだけ最新情報を伝えるきめ細かな対応をしてもらいたいです」

生命保険協会に取材をすると各社で対象を見直す時期や必要な書類については異なるということです。

加入している保険会社のホームページなどでこまめに確認する必要がありそうです。

(取材記者:金澤志江、鈴木 有、伊藤 奨、矢野裕一朗)