保険各社 コロナ入院給付金支払い見直し
早ければ9月下旬から

2022年9月1日

保険各社は、医療保険の加入者が新型コロナに感染した場合に支払っている入院給付金について、支払い対象を見直します。現在は、自宅などで療養するいわゆる「みなし入院」も含めて原則、全員に支払っていますが、早ければ9月下旬から、高齢者など重症化リスクが高い人などに限定することにしています。

医療保険の加入者が新型コロナに感染した場合、保険各社は、自宅やホテルなどで療養するいわゆる「みなし入院」の場合でも、保健所や医療機関が発行する療養を証明する書類などがあれば、原則として入院給付金の支払いに応じてきました。

これについて9月1日、金融庁から業界団体に対して、新型コロナ感染者の全数把握などの見直しに伴い、「みなし入院」による入院給付金の取り扱いについて、支払い対象も含めてできるだけ早く検討してほしいと要請がありました。

これを受けて保険各社は、入院給付金の支払いの対象を見直すことにしています。

具体的には、
▽65歳以上の高齢者や、
▽入院が必要な患者、
▽妊婦、
それに
▽新型コロナの治療薬や酸素の投与が必要な患者など、重症化リスクが高い人などに、
支払いを限定することにしています。

具体的な運用については保険会社によって異なる場合がありますが、早ければ9月下旬から対象が見直される見通しです。

「みなし入院」の給付金支給を受けるには

医療保険の入院給付金をめぐっては、新型コロナの感染拡大で医療現場がひっ迫し、患者が入院できないケースが相次いだことから、保険各社では自宅やホテルなどで療養した契約者にも特例で入院給付金の請求に応じています。

保険会社によって必要な書類は異なりますが、自宅などで療養した人が入院給付金を請求する場合は、患者自身がスマートフォンやパソコンで健康状態などを入力するシステム「My HER-SYS」で、保険会社から指定された画面をスマホなどで撮影するか、医療機関や保健所が発行する「療養証明書」などの提出が求められます。

ただ一部の保健所では療養証明書を発行するための業務に追われ、重症化リスクが高い人たちへの対応が十分にできない事態も生じています。

このため保健所では、療養証明書の発行には患者自身がスマートフォンやパソコンで入力するシステム「My HER-SYS」の利用を呼びかけています。

また保険各社は、療養証明書にかわる確認書類として、医療機関などで実施されたPCR検査や抗原検査の結果が分かる書類のほか、保健所とのやり取りが分かるメール、それに新型コロナの治療薬の処方箋を利用するなどして、医療現場に負担がかからないような仕組みづくりを進めるとしています。

「みなし入院」患者への支払いは急増

「みなし入院」の患者に対する保険各社の支払いは、このところ急増しています。

生命保険協会によりますと、協会に加盟している42社がコロナ禍でことし7月末までに入院給付金を支払った件数は合わせて351万5966件で、このうち93%の329万2091件が「みなし入院」の契約者でした。

「みなし入院」の患者への支払い件数は、2021年10月に11万件を超えましたが、その後減少し、2022年1月には1万件程度まで減少しました。

しかし、第6波の感染者の請求が増えた2022年3月には40万件に急増し、4月には52万件、5月には64万件、6月には70万件と増加を続けました。

これにともなって、保険会社が支払う保険金の額も急増し、コロナ禍で2022年7月末までに支払った「みなし入院」の契約者への支払いは、3046億6853万円に上りました。

支給額は2021年までは多い月でも100億円程度でしたが、2022年3月には380億円に増加。4月は492億円、5月は577億円、6月には620億円と増え続けました。7月は395億円となっています。

保険各社は2022年の春以降、給付金の支払い業務にあたる職員の数を大幅に増やして対応していますが、想定を上回る件数となったことで、ふだんよりも支払い手続きに時間がかかるケースが相次いでいるということです。

給付金目的の不適切なケースも

支払いが増加した要因は、感染者数の増加ですが、保険各社によりますと、中には入院給付金の受け取りを目あてにした不適切な契約が疑われるケースも見られるということです。

例えば、発熱などの症状があったり、同居する家族などの感染が分かったあとに、高額な保障が受けられる保険に加入し、PCR検査で陰性が確認されるとすぐに解約するといったケースなどが見られるということです。

保険各社では、短期間に高額な医療保険の加入や解約を繰り返すなど、本来の保険の主旨とはそぐわない契約が疑われる場合には、本人への確認作業を強化するなど、対応をとっています。

専門家「保険会社は丁寧な説明を」

保険業界に詳しい福岡大学の植村信保教授は「保険会社が『みなし入院』でも入院給付金を払うと決めたときは、まだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されたらそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきてしまっている」と指摘しています。

そのうえで「そもそも入院給付金の原資は加入者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れており、不公平な状況だ。今回の見直しは妥当で、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」と述べました。

一方で、今後については「『みなし入院』ということで給付金を支払うのもイレギュラーなことだが、それをやめるというのもやはりイレギュラーなことだ。したがって、どうしてこういう対応になるのか知ってもらわなければ、加入者は納得できない。また、見直しの移行期に関しては混乱をきたす可能性があり、保険会社はあらかじめ支払いの条件を明らかにしておくなど、丁寧な説明が求められる」と述べました。

また「保険の加入者は、どういった対応が必要なのか、自分が加入している保険会社と連絡をとったり、発表される内容を確認するなど、情報を入手することが重要だ」と指摘しています。