新型コロナ感染者数の
「定点把握」専門家は課題も指摘

2022年8月26日

新型コロナウイルスに関わる医療現場や保健所の負担を減らすため、事前に指定した医療機関から感染者数を報告してもらう「定点把握」に移行すべきだという意見が全国知事会などから出されています。
専門家は、定点把握でも全体の傾向は確認できるとしながらも、コロナ患者を診る医療機関が少ない場合は感染状況を正確にとらえるのが難しいおそれもあると課題を指摘しています。

定点把握は、事前に指定した医療機関から感染者数を定期的に報告してもらうことで病気の発生状況を探る調査で、季節性のインフルエンザやRSウイルス感染症などで行われています。

三重県では新型コロナの感染状況を把握する方法として、新規感染者の全数把握を行うとともに、厚生労働省の研究班がおととしから発熱などかぜの症状で受診した人数と、新型コロナの感染が確認された人数について、県内70か所の医療機関が毎週まとめて報告する定点把握も平行して行ってきました。

三重県ではインフルエンザの感染者数を報告してきたほぼすべての内科や小児科が新型コロナの定点把握に参加していて、研究班の中心となっている国立病院機構三重病院の谷口清州院長によりますと、これまでのところ、今の全数把握で分かる感染者数の推移と同じ傾向が確認できているということです。

ただ、谷口院長は、定点の医療機関のうち、コロナ患者を診る医療機関が少ない場合は、感染状況を正確にとらえることが難しくなるおそれもあると課題を指摘しています。

また、これまでの全数把握は、感染した本人を隔離して濃厚接触者を特定し、適切な医療につなげることが目的で、感染状況をとらえるための調査とは分けて考えるべきだとしています。

谷口院長は「三重県は多くの医療機関でコロナを診ているので、定点で確認したとしても代表性が保たれる。定点把握で全体状況をとらえるのは普遍的な疾患で、いろいろな医療機関で診ていることが前提だ。今後、新型コロナをどのように管理して治療し、感染動向をどう把握するのかといった点も含めた議論が必要だ」と話しています。

定点把握に協力する医療機関 “大きな負担にはなっていない”

三重県亀山市にある落合小児科医院は、三重県で行われている新型コロナウイルスの定点把握に協力する医療機関の1つです。

この医院では発熱外来を設けていて、落合仁院長は、発熱やのどの痛みなどを訴えて受診した患者をメモ帳にリストアップし、新型コロナの検査の結果を書き込んでいます。

そして、インフルエンザの定点把握の報告用紙に、▽かぜのような症状がある人と▽新型コロナの陽性者数などを書く欄が追加された用紙に1週間ごとに記入して、ファックスで県に報告しています。

8月20日までの1週間では、お盆休みを除いた4日間で発熱などを訴えて受診した200人余りのうち、136人を検査し、新型コロナの感染が確認されたのは74人だったということですが、報告そのものは簡単で、大きな負担にはなっていないとしています。

落合院長は「小児科医にとって定点把握の報告のハードルは高くはない。ほかの医療機関にとっても、それほど負担になることはないのではないか」と話していました。

専門家「きめ細かく分析し対策練ることが困難に」

新型コロナウイルスの感染者数の全数把握から定点把握に完全に移行すると感染状況の詳しい分析に支障が出るおそれがあると指摘する専門家もいます。

厚生労働省の専門家会合でデータ分析を行っている数理疫学が専門の京都大学の西浦博教授は「定点把握では、感染者が増えているかどうかの傾向をつかむことはできるが、毎日の増減といった微細な変化をつかむことは難しいうえ、データの更新が1週間に1回になるため今の全数把握とはスピード感も異なる」と指摘しています。

分析への影響について西浦教授は「今後、医療がひっ迫したり、新しい変異ウイルスが流行し始めたりして、何らかの対策が必要な場面は出てくると思う。そのとき定点把握に移行していると、1人が何人に感染を広げるかを示す実効再生産数の推定や、感染者数の推移の短期的な予測などをリアルタイムに分析するのは難しくなると考えられる。これまでの全数把握のデータにはワクチンの接種歴もあり、データを活用して免疫を持っている人の割合を推定してきたが、そうした分析も難しくなる。きめ細かく流行状況を分析して対策を練ることが難しくなる」と述べました。

そのうえで西浦教授は「今後、定点把握に移行するのであれば、データ不足を解決する方法を考えなければならない。重要なのは1つの調査に頼りすぎずに重層的にデータを取ることで、複数の調査を常に並行して行うといった対応が必要だ。イギリスで行われているような詳細な抽出調査なども含めて、今の時点から準備する必要がある」と指摘しました。