新型コロナ過去最多
感染急拡大の夏どうすれば 尾身会長に聞く

2022年7月20日

急速に感染拡大が進む新型コロナウイルス。7月20日、全国で15万人を超え、過去最多の感染者数を更新しました。30府県でこれまでで最も多い感染者数となりました。
その主な理由はオミクロン株の1つ「BA.5」。感染力が強いと言われています。

一方で政府は現時点ではこれまでのような行動制限を行う必要はないという考えを示しています。
繰り返される感染拡大の波に、どう対応していけばいいのか。
これから始まる夏休みはどう行動すれば。

政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長に聞きました。
(※インタビューは7月19日夜に行いました)

“第7波”「“第6波”の2倍のおそれも」

新型コロナウイルスの一日の感染者数は、7月20日、全国で15万人余りと、これまでの最も多かった7月16日より4万人以上上回り、過去最多となりました。
東京や大阪では2万人を超えています。30府県でこれまでで最も多い感染者数となっています。
その背景にあると指摘されているのが、オミクロン株の「BA.5」です。

感染が拡大するスピードがこれまでの「BA.2」より30%程度速く、ワクチンや感染で得た免疫をかいくぐる“免疫逃避”の性質があるとされています。

さらに3回目のワクチン接種から時間がたって、免疫の効果が下がっている人が多くなっていることなども拡大に影響しているとみられています。

一方で、重症化しやすいかどうかについて、WHO=世界保健機関は「BA.2」と比べて変化しているという証拠はないとしています。

記者:
「第7波」の感染の波は、いま、どの地点にあると考えられますか。
ピークアウトはいつごろになると見られますか。

尾身茂会長(以下尾身会長):
感染の拡大はまだ続いているということで、ピークアウトは残念ながら起きていなくて、今回は、第6波のピークの2倍くらいに増えてもおかしくない勢いだと考えています。ピークアウトするためには(感染者数の前週比が)1を切らないといけないのですが、まだ2倍ですね。
減少傾向になるには少し時間がかかって、この1週間で減少になるということはないのではないかと思っています。
いま、実際に報告されている数が実態を正確に表しているかどうかは疑問があって、過小評価している可能性があると思います。
ここまで感染者の数が増えてくると検査のキャパシティを超えるという側面と、普通なら検査を受けるべき人が必ずしも検査を受けていないという側面があると思います。

行動制限なくても、基本的な“5つの対策”は必要

記者:
国は「今のところ一律の行動制限をしない」と先週表明しています。こうした方針の背景には何があるのでしょうか。

尾身会長:
多くの人がこの感染症について学んで、どうしたら感染するか、どうしたら感染を防げるかがわかってきたということがあります。感染しても多くの人が軽症で終わることもわかってきた。
ワクチン接種率が徐々に上昇し、検査のキャパシティーも今までに比べて強化されてきた。医療の体制も前回の経験もあって、少しずつ強化されてきている。
そうしたなかで、社会全体が少しずつ社会経済を普通に戻そうという意向が強くなっていることも関係していると思います。

記者:
対策の必要がないとも受け止められています。

尾身会長:
国が先週の時点で「今のところ行動制限が必要ない」としたのは、これまで出してきたような緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を出す時期ではまだないということだと思います。しかし、出さないかわりに、私は、感染のレベルを一定程度に抑えるために必要な対策はすべてやる必要があると思っています。

※5つの対策(7月15日緊急提言)
1 ワクチン接種の加速化
2 検査のさらなる活用
3 効率的な換気
4 国・自治体による効率的な医療機能の確保
5 基本的な感染対策の再点検と徹底

前回行われた分科会でも5つの対策を徹底して実行していただきたいと申し上げました。
いくつかの都道府県では「感染リスクの高い場面、大声を出す、3密、たくさんの人数が集まる混雑する場面は、なるべく避けてください」「特に高齢者、高齢者の家族などは注意してください」ということは知事などが県民に要請している。
私はそういう対応が重要だと思います。

重点措置、緊急事態宣言を出さないのであれば、その代わりに、基本的な対策の5つの柱を中心に、しっかりやっていただくことが社会全体で求められると考えています。

夏休みも感染リスクの高い場面を避けて

記者:
「行動制限の必要はない」とされる中で、夏休みをどう過ごせばいいかと思っている人も多くいます。旅行や帰省、何に気をつければいいのでしょうか。

尾身会長:
今回「BA.5」という非常に感染力の強いウイルスに直面しているわけですが、感染がしやすい場面、状況は今までと変わらない。
3密、あるいは多くの人が集まる混雑する場面、大声を出す場面、こういう場面にはなるべく行かないようにしてください。
おじいちゃん、おばあちゃんに会う場合にはなるべく検査をしてください。
われわれは今までいろんなことを学んできたので、学んだ知見を活用して、それぞれの人が工夫していただくことがいちばん求められているのではないかと思います。
検査の体制を充実させるとか、ワクチン接種を促進する、これらは政府や自治体がやることです。
市民もいろいろ学んできたので、学んだものをもとにそれぞれが工夫することで、自分を守り、人を守る、ここが強調されるべきだと思います。
人々の判断工夫がいま非常に求められている。それを国や自治体がサポートする。医療機関も弾力的に機能的なキャパシティーを増やしていくということではないかと思います。

記者:
オミクロン株は重症化しにくいとも言われていますが。

尾身会長:
いま、感染者数は第6波のピークを超えています。しかし、重症化率や致死率はそれほど高くないこともわかっている。特に重症化するのは高齢者など、もともと体のぜい弱な方で、必ずしも新型コロナウイルスで肺炎を起こさなくても、感染そのものが体力を奪ったり嚥下(えんげ)障害を起こしたりということがあるので、高齢者をいかに守るかが重要です。

高齢者施設での感染対策を行う、あるいは一般の若い方も高齢者を守る意識を持ってもらう。
高齢者自身も4回目接種をしていない人は接種を行うなど、全体の努力で高齢者が重症化しないようにするということが重要なポイントの1つだと思います。
この病気は、残念ながら現段階ではゼロにすることはできません。
強調したいのは、オミクロン株になって、確かに重症化率や致死率が低くなっているけれども、今回のウイルスは非常に感染の伝ぱ力が強いことです。

重症化率が低いということだけに注目すると「医療のひっ迫は起きないのではないか」ということになるけど、そうではない。
どんどん感染が広がっていけば、当然、一定の割合で重症者数、あるいは死亡者数が出ます。
感染の拡大で医療のひっ迫が起きないように、基本的な対策をする、ワクチンを打つ、同時に医療もできるだけ柔軟なキャパシティーを増やしていく、そういったことが必要だと思います。

「コロナを“一疾病”に」の意味は

記者:
分科会の緊急提言では「コロナを一疾病とする議論を今からでも始めるべき」とされました。どんな議論があったのでしょうか?。

尾身会長:
新型コロナの感染が始まった2年半前には情報が限られていました。
この間、日本人の生命をなんとか守りたいということで、かなり厳格な対応をしてきたと思います。
しかし、オミクロン株になって、感染の伝ぱの速度は非常に速いですが、感染しても多くの人が軽症であることもわかってきた。
感染がどのようにして起こるかも含めて、この病気に対する理解が深まりました。完璧ではないけれどもワクチン接種率も上がってきた。
当初、情報が限られていたので、人々の生命を守るために厳格にやる方向になってきましたが、いろんなことがわかってきて少し弾力的にやる必要が出てきた。
今のオミクロン株の実態と、求められる対応が少しかい離してきているので、そこを埋める必要がある。

社会経済のいろんなところに無理がきて、人々に不必要な負担をかけることもあるので、少しそのギャップを埋めるということで、普通の疾患になる方向に少しずつ変化したほうがいいのではないかということです。

記者:
仮にコロナが“一疾病”という位置付けになると、医療体制はどう変わっていくと思いますか。

尾身会長:
重症度に応じて、しかるべき対応をするということが1つだと思います。
ここまでくると、なるべく多くの医療機関に感染対策に関与してもらう、参画してもらうことが必要だと思います。
ただ、すべての診療所にやっていただくのは、あまり現実的ではない。診療所の方も一般の患者さんを診ているわけです。
それを全部やめてコロナに対応するというわけにはいかない。
地域の医療のなかで役割分担もあります。診療所でも一般の患者さんも診るけれども、コロナの患者さんもできるだけ診ていただくという、なるべく多くの医療機関に参加してもらうことが、これから求められると思います。
もう1つは健康観察です。
感染者は保健所がすべて把握する、健康観察をするということになっていますが、重症度に応じて、むしろ患者さんのほうから相談する窓口をしっかり作っていくような、柔軟な方向の体制に変えていけばいいのではないかと思います。

「コロナを5類に」ありきではない

記者:
感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に変えていくということでしょうか。

尾身会長:
本来厳格な対応をしていたけど、これまでやってきた対応と、オミクロン株の実情に合わせて求められる対策とのあいだにかい離があると申し上げました。
私は、そのかい離を少しずつ埋めるために、どんな変更が必要か、どんな新たな対応が求められるか、十分議論する必要があると思います。どのようなギャップの埋め方をすれば、いちばん適切な対応になるかという議論をしっかりすべきです。
「2類相当か5類か」を最初に決めるのではなくて、どのようなギャップの埋め方をすれば、いちばん適切な対応になるかという議論をしっかりすべきです。全数報告するかどうか、健康観察をするかどうかなど、法律の実態的な運用という意味では徐々に5類に少しずつ近づいていることは現実にあると思います。
今ただちに、5類にすると断定的に決めた場合、「すべて個人の責任で対処してくださいよ」ということになる。
たとえば、いま、感染してもいろんな費用は個人負担はないわけですね。
しかし、5類になると、自分で費用を捻出することになる。そういうこともあるので、しっかりと、法律はどういうことか、何がそのギャップを埋めるために求められるかの議論をみんなでしっかりすることが大事だと思います。
例えば定点のサーベイランスなど、国でも考えていると思いますが、考えていく必要があると思います。

記者:
コロナを“一疾病”として扱うために必要な条件は。

尾身会長:
“一疾病”になるためには、医療体制も少しずつアジャスト(調整)しなければいけないので急にはできません。きょう決めて、あすできるわけではない。
やや中・長期のスパンで見ると、文字どおり本当の意味で“普通の疾患”になるために必要なのは、インフルエンザと同じように、ワクチンがあるだけではなくて、感染した場合、すぐにでも一般の人がアクセスできる治療薬、安価で、簡単にアクセスできる治療薬が出てくることが重要な条件の1つだと私は思います。

「1か0か」の対応ではない 死亡者数を減らすために

記者:
欧米では緩和が進んでいてマスクをしていませんし、感染者数の全数を調べてもいません。

尾身会長:
大きな方向でいえば欧米も日本も、だんだんと社会経済を回していこうという方向には行っていると思います。
日本社会でも「社会経済を元に戻したい」これが社会の全体の意向です。私自身もそうだと思います。
そのうえで、欧米のやり方をそのまま踏襲するのか、日本のやり方があるのかということです。
ずっと厳しい対策をやってきたのが、急にここにきて、社会経済を回そうと、マスクの着用含めて、急激に対策を緩和したところがあります。
こうしたところでは、ワクチン接種率は日本と同じようにかなり高いのですが、人口当たりの死亡者数や入院者数は今まで日本より少なかったのが、日本よりもずっと多くなってしまっています。

私は日本でも少しずつ社会を解放していくことには大賛成です。
しかし、例えば急に室内でもマスクはいらないということにはしないほうがいいと思います。
室内で換気が悪い、あるいは人と人の距離が近いと、しばらく少し注意してマスクを着用する。
緩和は少しずつ慎重にやっていくのが、死亡者の数を減らすということにつながると思います。
対策はしっかりやりながら社会を少しずつ動かすという方向。バランスのとれたかじ取りが必要です。
「1か0か」ではなくて、そういう方法が日本では求められるのではないかという気が私はしています。

記者:
「いったい、いつまでワクチンを打ち続ければいいのか?」という疑問も出ています。

尾身会長:
このウイルスは普通のインフルエンザのような一般の病気に変わっていくという傾向を、今のところたどっていません。
ある専門家は「ヨーヨー現象」と言っていますが、ウイルスの性質そのものが、少しインフルエンザに近くなったと思ったら、今度は遠くなったりということを繰り返している。
まだ、変化が進行中のウイルスだということです。
特に「BA.5」に対するワクチンの開発はいままさに進行中で、そうしたことを考えると、今の4回目接種が、最後のワクチン接種にはすぐにはならないのではないかというのがわれわれの感じ方です。