クラスター発生の学校 中傷に懸念

2020年9月3日

各地で学校が再開したことし6月以降、新型コロナウイルスに感染した児童や生徒は1166人で、学校現場では18件のクラスターが起きていたことが、文部科学省の調査で分かりました。発生した学校への誹謗中傷があとを絶たないことから、文部科学省は、地域や社会に改めて理解を呼びかけています。

調査は、文部科学省が全国の教育委員会などを通じて行ったもので、ことし6月から8月末にかけ、新型コロナウイルスの感染が確認された、小中学生と高校生、それに特別支援学校の生徒は合わせて1166人、教職員は194人、幼稚園児や職員は83人となっています。

2人以上の感染は68件で、このうち5人以上の集団感染=クラスターは18件でした。

いずれも地域への感染拡大は確認されていない一方で、発生した学校の児童生徒や教職員に対する誹謗中傷や、差別があとを絶たないということで、文部科学省は改めて全国の教育委員会などに感染対策を通知するとともに、地域や社会に理解を呼びかけています。

文部科学省の平山直子健康教育・食育課長は「社会全体のクラスターの中では、数は少ないと感じており、地域に広がる原因にもなっておらず、現場の努力を感じる。にもかかわらず、窓を開けるだけで苦情が入るなど、科学的根拠に乏しい誹謗中傷や差別が報告されている。不安は分かるが改めて冷静な対応を求めたい」と話しています。

学校名の公表 判断分かれる

新型コロナウイルスへの感染をめぐってデマやひぼう中傷が相次ぐ中、感染が確認された学校の名前の公表をめぐって、判断が分かれています。

NHKは、全国の20の政令指定都市と東京23区を対象に、小学校や中学校などに通う児童・生徒や教職員が新型コロナウイルスに感染した場合、学校名を公表するか、また、その判断の理由についてアンケート調査を行いました。

その結果、「公表しない」と回答した自治体が27で、臨時休校の措置を取ったりクラスターが発生したりした場合など条件付きを含めて「公表する」と回答した自治体が16と、対応が分かれる結果となりました。

判断の理由について、「公表しない」と答えた自治体のほとんどが「個人のプライバシーに関わるから」「デマや誹謗中傷が加熱するおそれがあるから」の2つを挙げています。

一方、「公表する」と答えた自治体では「感染予防に役立てる観点から」が最も多く、「デマや誹謗中傷が加熱するおおそれがあるから」という理由が続きました。

具体的な理由として、非公表の浜松市は「学校は不特定多数が出入りする場所ではなく、公表することで特定行為が始まり、誹謗中傷のおそれがある」としています。

原則、公表の新潟市は、「学校は伏せていても休校すれば地域の人には分かるので、間違った情報やデマが飛び交うリスクを考慮すれば、公表するほうがいい」などとしています。

川崎市教委 学校名を公表する対応に

川崎市教育委員会は、児童生徒や教職員が新型コロナウイルスに感染した場合、感染者の特定などを避けるため、公表するのは学校がある区までとし、学校名は非公表にしていました。

しかし、ことし7月に児童や教員に感染者が出て、非公表で発表すると、保護者や地域住民から学校名や感染した児童の学年を問い合わせる電話が市などに相次いだということです。

また、「誰が濃厚接触者かわからず不安なので、子どもを外で遊ばせないようにしてほしい」という意見が寄せられたり、学校名を特定した人がそれを暴露するような、「このマンションには感染者が出た学校に通う児童が多く住んでいる」という文書が貼られたりしたということです。

さらに、SNSでも感染した人を特定しようとする動きが起きたり、間違ったデマも広がったりしたため、市では、かえって風評被害や地域の混乱を招いているとして、7月20日から学校名を公表する対応に切り替えました。

ただ、すべてのケースで学校名を公表するわけではなく、濃厚接触者がいる可能性が高く学校を休校にする場合に公表するとしています。

また、公表すると個人が特定されてしまう可能性が高い場合も非公表とするなど、個別のケースに応じて判断するとしています。

川崎市教育委員会 指導課の猫橋則文 担当課長は、「感染者をめぐる差別的な言動やひぼう中傷が起きることはある程度、想定していたが、予想以上だった。対応には苦慮したが、間違った情報が地域社会に出回ると、かえって子どもたちが傷つき、地域の不信感を招いてしまうと考え学校名の公表に踏み切った。この判断がよかったのかいまも悩んでいるが、今後も周囲への影響の大きさや混乱を収束させる上で効果があるかどうかなどを考えて、総合的に判断したい」と話しています。

「周囲の保護者はパニックのようになっていた」

川崎市では、7月に宮前区の小学校で教員1人の感染が確認されましたが、このときの状況について、区内の別の小学校に子どもを通わせている母親がNHKの取材に応じました。

川崎市では、7月11日に宮前区の小学校で教員1人の感染が確認され、7月13日から休校しましたが、市は学校名を公表しませんでした。

しかし、母親によりますと、数日でどこの学校で感染者が出たか特定され、保護者の間で話が広がったということです。

母親は当時の状況について、「周囲の保護者はパニックのようになっていて、感染した人が誰なのか詮索が始まったほか、その小学校に通う児童のきょうだいがどこの幼稚園や保育園に通っているかなど知りたくない情報まで流れてきた。あやふやな情報も飛び交っていて、自分の子どもが感染するかもしれないという不安を抱える中で、人の心の闇を見たような気持ちになりました」と話していました。

有識者「丁寧な説明が大切 冷静に受け止めを」

学校名の公表について、情報開示の在り方に関する国の検討会で座長を務める、国立感染症研究所ウイルス第一部の西條政幸部長は「私自身は感染拡大の予防が公表によって一層高まるとは考えておらず、非公表の判断は理解できるし、地域の理解を得るという目的で公表するという判断も受け入れられる」としています。

そのうえで「行政は公表の方法や範囲などを細かく検討したうえで、その判断の理由も説明するとともに、感染の事実だけを公表するのではなく、この病気の特徴をあわせて伝え、無用な心配、差別、迫害は必要ないということも丁寧に説明することが大切だ」と指摘しています。

また、地域や社会も冷静に受け止める必要があるとして、「不安になることは理解できるが、日常生活の中で感染してしまう病気で、決して特別なことではない。私たちは、差別やいじめなどはあってはならないということを繰り返し、考える必要がある」と呼びかけています。