外国人観光客受け入れ再開2か月
観光客は8000人余にとどまる

2022年8月10日

外国人観光客の受け入れ再開から8月10日で2か月となりますが、7月末までに入国した観光客は8000人余りにとどまったことが出入国在留管理庁のまとめで分かりました。円安を背景に観光客の増加に期待する声が出ていて、感染対策を徹底しながら経済の活性化をどのように進めていくのかが課題です。

政府は新型コロナの感染拡大の防止を目的に、受け入れを停止していた外国人観光客の受け入れを2022年6月に再開し、8月10日で2か月となります。

受け入れは、一日当たりの入国者数の上限2万人の範囲で行われ、入国の対象はアメリカや韓国、中国など102の国と地域です。感染拡大を防ぐために、添乗員付きのツアー客に限定されています。

出入国在留管理庁によりますと、7月末までに入国した外国人観光客は8000人余りにとどまりました。6月は252人で、7月はおよそ7900人となっています。

また、観光庁によりますと、8月5日から8月31日までに入国すると申請した外国人観光客は8500人余りで、一日平均でおよそ310人となっています。

その背景としては、訪日客が多かった中国で海外への渡航が厳しく制限されていることや、現在はすべての国や地域でビザの取得や新型コロナの陰性証明の提出が必要で手続きに時間がかかること、それにツアー客に限定されているため、個人旅行を好む欧米からの観光客の入国が低調なことなどが考えられるということです。

第7波の感染拡大が続く一方で、円安を背景に外国人観光客の増加による経済効果を期待する声が出ています。

訪日外国人の数が年間3000万人を超えていた感染拡大前の水準を大きく下回る中で、感染対策を徹底しながら経済の活性化をどのように進めていくのかが課題となっています。

外国人ツアーは感染対策を徹底

外国人観光客の受け入れにあたっては、感染対策の徹底が求められています。

このため、大手旅行会社「日本旅行」は、政府の定めたガイドラインの内容を詳細に説明するマニュアルを独自に作成し、海外の代理店の担当者向けに周知しています。

例えば、観光客の自由行動の範囲について「添乗員が定めた場所に限定」として、一日のツアーを終えてホテルに戻ったあとは、近隣の施設での食事以外、自由に観光できないことなどをあげています。

また感染した場合に備えて、民間の医療保険への加入が求められていることなども紹介されています。

日本旅行訪日旅行営業部の平野あやかさんは「感染者が出てしまっても、病院をどうするのかといった手順はあらかじめ決めている。慎重に準備をしてお出迎えをできるようにしている」と話しています。

この会社が手配したツアーでは、8月3日からイタリア人の団体客21人が日本を訪れていて、会社の作った手順に沿って12日間の日程で東京や京都を観光する予定です。

イタリアでは、最近では街なかでもマスクを外す人が多いということですが、ツアー中は添乗員の指示に従い、全員がマスクをつけて観光をしています。

さらに、多くの人が行き交う、東京 原宿の竹下通りを観光した際には、決められたスケジュールに沿って団体で移動するため、添乗員が自由に散策できる時間がおよそ1時間30分に限られていることを説明し、参加者らは決められた時間で都内の観光を楽しんでいました。

参加者の1人は、「イタリアでは公共交通機関に乗る時以外はマスクをつけないので、マスクを着けるのは久しぶりですが、他の国を訪れるときは喜んでつけます」と話していました。

また別の参加者は「私たちは日本を訪れている外国人であり、周囲のすべての人に安全であってほしいので最大限、注意をはらっています」と話していました。

一方、今回の受け入れ再開では、イタリアをはじめ、コロナ前には観光用ビザが必要なかった国の観光客にもビザの取得を求めています。

これについて参加者からは、「ビザを取得する必要がなくなれば、もっと簡単に、日本に来ることもできますし、観光客も増えると思う」といった意見も聞かれました。

日本への旅行 断念するケースも

日本が外国人観光客の受け入れを再開して以降、海外で日本向けの旅行などを手配する会社には、問い合わせは増えているものの、制限や手続きが多いことを知って旅行を取りやめるケースが大半だということです。

アメリカ・サンフランシスコにある日本の大手旅行会社の子会社では、日本が2022年6月10日に外国人観光客の受け入れを再開して以降、日本への旅行に関する問い合わせが数十件寄せられたということです。

問い合わせの多くは、何度も日本を訪れたことがあるリピーター客からのものですが、担当者が、ビザの取得が必要なことや、添乗員付きの旅行に制限され、個人での自由な時間が限られることを説明すると、日本への旅行を諦め、行き先をヨーロッパや中南米などに切り替えるケースが大半だということです。

「NTAアメリカサンフランシスコ・ベイ支店」の奥裕子支店長は、「円安が進んでいて、日本に行くチャンスだと思って待っていたのに、とりやめるという人が多い。感染対策を進めながらも規制を緩和したり、ビザの取得手続きを簡素化するなど、工夫をしたりすることが大切だと思う」と話していました。

岐阜 高山市ではキャンセル相次ぐ

古い町並みで知られる岐阜県高山市では、ツアー会社やホテルに外国人観光客からキャンセルの連絡が相次ぎ、インバウンド需要を期待どおりには取り込めていないのが現状です。

このうち、外国人観光客向けのオプショナルツアーなどを提供している高山市のツアー会社では、この2か月間、海外からの観光客は一度も来ず、9月に予約が入っていたオーストラリアからのおよそ30人の団体客もキャンセルとなりました。

会社では、日本国内で感染が拡大していることや、受け入れが添乗員付きのツアー客に限定され、自由な街歩きが難しいことなどが敬遠されたのではないかとみています。

ツアー会社「ハッピープラス」の山腰陽一郎社長は、「海外に住む個人のお客様からは自由に旅行がしたいという声が多く寄せられている。感染状況が落ち着いてきたら、なるべく早く以前のような受け入れに戻してほしい」と話していました。

また、290の客室がある高山市のホテルでは、感染拡大前は年間5万人の外国人観光客が宿泊していて、受け入れの再開に大きな期待をかけていましたが、8月はすでに100人以上の予約がキャンセルになったということです。

それでも、このホテルでは今後の需要の回復を見込んで、欧米からの宿泊客の要望に応えるため、幅2メートルのキングサイズのベッドを初めて導入したほか、ダイニングテーブルや大きめの冷蔵庫などを備え付けた部屋も新たに設けました。

「ホテルアソシア高山リゾート」の杉本篤史総支配人は、「国には早く受け入れの制限を緩和してもらい、高山を含めた日本全体の観光産業を活性化させてほしい」と話していました。

金沢市の金ぱく店 外国人観光客少なく

金沢市にある金ぱく製造の見学や体験ができる店では、外国からの観光客がほとんど来ない状態が続いています。

政府が外国人観光客の受け入れを再開して8月10日で2か月ですが、金沢市の観光地「ひがし茶屋街」でも、外国からの観光客は大幅に減少したままです。

金沢は金ぱくの生産で全国シェアの100%近くを占めていて、「ひがし茶屋街」近くにある金ぱくメーカーの店では、工芸品や土産物を販売するほか、職人の製造工程を間近で見て実際に金ぱくを貼る体験ができます。

このため、感染拡大前は世界130か国から観光客が訪れ、来店者全体の3割ほどを占めていたということです。

外国人観光客の受け入れ再開以降は、海外の旅行代理店などを通じて体験コーナーの予約が入るものの、キャンセルが続き、この2か月間、外国人観光客の来店はほとんどなかったということです。

「金銀箔工芸さくだ」の作田一則社長は、「9月と10月の外国人観光客の予約が入っていますが、実際にお見えになるかは不透明です。インバウンドが戻るにはあと1年はかかると覚悟していて、国内客への販売や商品情報の発信に力を入れて何とかしのぎたい」と話していました。

専門家「国民の理解が重要」

観光などの分野に詳しい日本総合研究所の高坂晶子主任研究員は、今後の受け入れについて「インバウンドは日本経済、特に地方にとって重要な活動のため、円滑に再開することは大変重要だ。しかし、あまり急ぎすぎると、地方の観光地などでは雇用や感染対策など受け入れ側の準備が十分に整っていないところもあるので、かえって、あつれきが生じることもある」と述べ、性急な受け入れの拡大は慎重にすべきだという考えを示しました。

そのうえで「一日当たりの入国者数など制約がなくなれば、観光客の数は自動的に回復する」として、日本への観光需要は底堅いという見通しを示したうえで、「国民が支持をして、歓迎するような観光でなければ長続きしない。外国人観光客を喜んで迎えられるような環境をいかに早く達成するかが政府に求められる」と述べ今後、受け入れの拡大を判断する際には国民の理解を得ることが重要だとしています。