普通の“かぜ”とは大違い
新型コロナの「真の脅威」

2020年11月8日

世界中の新型コロナウイルスに関係する論文およそ20万本をNHKがAI=人工知能を使って分析したところ、新型コロナウイルスの感染で、これまでに合わせて100種類以上の症状が報告されていることが分かりました。肺炎や発熱、せきなどの症状にとどまらず、全身でさまざまな症状が報告されていて、中でも論文での報告が多かったのが脳や神経に関する症状でした。新型コロナでは、なぜこれほど多くの症状が現れるのでしょうか?

アメリカの俳優、アリッサ・ミラノさんがSNSに投稿した衝撃的な動画が注目を集めています。髪の毛をブラシでとかすだけで、大量の「抜け毛」です。

アリッサさんは、今年4月に新型コロナに感染。その後、ウイルスが消えてからも、様々な 症状に苦しめられたといいます 。

アリッサ・ミラノさん
「めまい、胃の痛み、生理不順などの症状が、4か月以上も続きました。新型コロナは本当に大変な病気です」

新型コロナの長く続く奇妙な症状。全論文AIで関連する論文を洗い出すと驚きの事実が見えてきました。

報告されている症状は、全身のいたるところに現れており、その数、実に100以上。下痢、不整脈、目の充血、脳に関わる脳卒中、幻覚など、普通のかぜでは考えられないような症状も多く含まれています。

なかでも、いま、研究者の注目が急速に高まっていると、AIが指摘する症状があります。「ブレインフォグ」=「脳の霧」です。

「脳の霧」とは、一体どんな症状なのか。今年4月に新型コロナに感染したこちらの大学生は、まさに「脳の霧」のような症状を経験したといいます。

3か月以上も発熱を繰り返し、めまいや頭痛、激しい倦怠感に襲めまいや頭痛、激しい倦怠感に襲われてきました。

大学生
「すごい倦怠感でおしつぶされそう。眠れないくらい頭痛とかもある。(授業を)集中して聞くということは難しい」

不可解だったのは、「頭にモヤ」がかかったようにボーッとなる症状で、授業を受けていても、その内容を記憶することや、文字を書くことが難しくなってしまったといいます。

大学生
「症状がいつまで続くのかもわからない状況なので怖いと思います」

脳の中では、何が起きているのか? そのメカニズムを大阪市立大学の倉恒弘彦客員教授が探っています。

これは認知機能に大幅な低下が見られた新型コロナ患者の脳の画像です。詳しく分析したところ、脳の中心部、記憶力や感情などを司る場所に炎症が起きていることがわかりました。

「脳の霧」でも、こうした炎症が、弱く長く続いているのではないかと、倉恒さんは考えています。

では、なぜ炎症は起きるのか? そのメカニズムに迫る最新の論文が見つかりました。

口や鼻から肺の奥へと侵入した新型コロナウイルス。

肺の細胞の表面にある「ACE2(エース・ツー)」と呼ばれる「小さな突起」に到達します。

新型コロナはこの「ACE2」の突起にくっつくことで、細胞に侵入し、感染することが分かっています。

厄介なことに、新型コロナが狙うこの「ACE2の突起」が、脳にも存在していることが突き止められました。

その場所は、脳の中心部。よく見ると、壁の表面にモコモコした赤いものが。「脈絡叢(みゃくらくそう)」と呼ばれる場所です。そこに、新型コロナがくっつく「ACE2」の突起がたくさん存在していたのです。

これは患者から採取された脈絡叢の顕微鏡画像です。青く光る細胞の内部に、緑色に光っている新型コロナが大量に感染しているのが分かります。

実は脈絡叢は、脳に異物が侵入するのを防ぐ大切なバリアの役割を果たしています。血液に乗って、ウイルスなどがやってきても、表面の細胞に阻まれて、脳の中に入ることはできません。

ところが、新型コロナは、表面の細胞にある「ACE2」の突起にくっついて感染し、バリアを破壊してしまいます。

すると、そこからウイルスや異物が脳に侵入。炎症が引き起こされ、ウイルスが消えたあとも長く続くと考えられています。

大阪市立大学 倉恒弘彦客員教授
「バリアが壊れてしまって炎症が起きてくると、新型コロナの呼吸器症状は治まったのに、なぜか、けん怠感が続く、思考力、集中力が落ちてしまう。今後、感染した人たちがどのように回復していくのかみていく必要がある」

普通のかぜのウイルスは、多くの場合、呼吸器にしか感染しません。ところが、新型コロナが狙う「ACE2」は、全身に存在するため、腎臓や心臓、血管など、さまざまな場所に感染することができます。その結果、100以上もの全身症状を引き起こすと考えられます。

これこそが、ただのかぜとはまるで違う、新型コロナウイルスの本当の脅威だったのです。