大阪「医療現場が追い詰められている」
受け入れ困難 次々拡大

2021年4月30日

感染の急拡大で医療体制が危機的な状況となっている大阪。新型コロナウイルスの重症患者の中には中等症の病床で治療を受けている人がいます。

この影響で、中等症の病院では、中等症患者の受け入れも困難になるなど、大阪の医療現場では、影響が連鎖的に広がる事態となっています。

専門家は、大阪の状況について「医療現場が追い詰められている」と指摘しています。

中等症の病院で治療を続ける重症患者が58人に

大阪の重症患者用の病床の運用率は4月29日の時点で98.2%とほぼ満床です。

重症病床で診られない重症患者は中等症の病院で治療を続けていて、その人数は4月29日の時点で58人にのぼります。しかしこのことで、中等症の病院では、本来担うべき中等症の患者の受け入れ体制に影響がおよんでいます。

中等症の病院の実態は

大阪・茨木市にある民間の病院、北大阪ほうせんか病院。病棟1つをまるごと、新型コロナの「軽症・中等症の患者用」に改修して、48床を確保し、2021年2月末から、患者を受け入れています。

当初、患者は多いときでも6人ほどでしたが、3月末から、受け入れ要請が急増しています。

北大阪ほうせんか病院 田原祐子副看護部長
「社会の状況を見ていて、状況が悪化することは予測していましたが、ここまでになるとは思っていませんでした。日々、緊迫感と緊張感がすごく、いったいいつまでこの状態が続くのか…、というのが本心です」

重症者を転院できず、想定外の重症者対応続く

「ゆっくり息をしておいてくださいね」
「サチュレーション(血中の酸素の値)、耳につけてもらってもいいですかね」

病院が想定していなかったのが、重症患者への対応です。

4月中旬に入院した患者の場合、当初は会話もできる状態でした。ところが、入院から2日後、容体が急変し、自力で呼吸するのが難しくなり、重症病床への転院を府に要請しました。

しかし、転院を断られ、病院は急きょ、人工呼吸器を装着して治療を続けました。

北大阪ほうせんか病院 吉川昌平内科部長
「現時点では重症病床がひっ迫してますので、当院で治療を続けざるを得ない状況になってますね」

重症者に多くの人手、その影響で中等症の受け入れ困難に

重症患者の治療を担うという想定外の事態は、中等症の患者の受け入れにも影響を及ぼしています。

重症患者は容体が急変するリスクが高いため、つきっきりで看護しなければならず、より多くの人手がかかります。

看護師の数は変わらないため、重症患者が転院できないと、対応できる中等症の患者の数が減ってしまうのです。

この日は病床が7つ、空いていましたが、新たに中等症の患者を受け入れるのは難しいといいます。

北大阪ほうせんか病院 吉川昌平内科部長
「重症患者は想定した以上にマンパワーがかかります。本当に重症者が増えてくるのはこれからだと思っていますので、すごく不安ですし、正直なところ脅威を感じています」

これ以上、重症患者が増えると、現状のスタッフの数では対応が難しく、軽症・中等症の患者の受け入れの制限も検討せざるを得ないとしています。

この病院では、コロナ病棟のスタッフの増員が必要になるとみて、医師や看護師の新規採用も試みていますが、一般診療を行っている医療スタッフの配置の変更も検討しなければならなくなるため、コロナ以外の患者の治療にも影響が出てしまうのではないかと懸念しています。

専門家「大阪では医療現場が追い詰められている」

こうした大阪の状況について、新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は「人工呼吸器は装置の扱いに習熟した看護師や技師、医師などのスタッフがいなければ治療としては十分な効果が見込めないので、本来は、重症患者を受け入れられない医療機関がこうした患者の治療に当たるべきではない。ただ、ここまで感染者数が増え医療崩壊の危機まで指摘される中ではやむをえない面もある。大阪府で起きていることはそれだけ医療現場が追い詰められていることを端的に示す事例だ」と指摘しています。

その上で、舘田教授は「感染状況が深刻になり、医療現場が厳しくなってしまった場合は限られた人員や資材の中でできることをやって乗り切っていくしかないという部分がある。重症患者が急増した場合に備え、ふだんから自治体などで話し合い、病院間で柔軟に患者を受け入れるようにするなど、広い範囲で医療体制を整えておくことも必要だ」と話しています。