1都3県の病床は9000床余
再拡大に備えた病床の上積みは

2021年3月19日

緊急事態宣言の解除後、私たちは次の感染拡大に備えなければなりません。

その最も重要な対策の1つが「医療体制の拡充」です。

1都3県で確保できた病床は9000床余りで、自治体は感染の再拡大に備えさらなる上積みを検討しています。

NHKが1都3県に取材したところ、現在、確保している病床は東京都が5048床、神奈川県が1555床、埼玉県が1469床、千葉県が1361床で合わせると9433床にのぼります。

これは、一般病床全体の(令和元年)3%から6%の割合にあたります。

いわゆる第3波では、病床の使用率が80%を超える地域も出て、入院できずに自宅での療養を余儀なくされる感染者が相次ぎました。

今後、この第3波を上回る感染拡大が起きる可能性も指摘されていて、各自治体は病床のさらなる拡大を検討しています。

このうち東京都では3月18日、今ある5048床に加えて再拡大時に転用する病床として400床余りを増やし、5474床確保できる見通しを発表しました。

埼玉県は3月末までに、今より40床増やして1509床まで確保できる見込みだということです。

神奈川県は、ことしに入って1555床を確保し、今のところ、これを増やす予定はないとしています

千葉県は、今後の具体的な目標は検討中としていますが、災害拠点病院では全病床の5%、200床以上の病床を持つ救急指定病院は3%以上などと病院の機能ごとに目標をたてて確保に努めていくとしています。

都内の病床の計画と今後の課題

現在、都内で確保している新型コロナウイルスの患者用の病床は5048床です。

これは、令和元年時点の国の調査でわかっている都内の一般病床全体の6.2%にあたります。

都内では感染の急拡大が懸念される中、専門家は「現在の医療提供体制では変異ウイルスなどによる急激な再拡大に対応できなくなる危険性がある」と指摘しています。

都によりますと、新型コロナウイルスの患者を受け入れることができる設備や環境が整った医療機関には、すでに多くの病床を確保してもらっている状態だということです。

また「通常の医療の維持を考えると、コロナ患者用の病床をこれ以上、確保することは限界に近い。今後、1000床単位などでの大きな確保は難しい」としています。

都は、感染が急拡大した時には、今は通常医療で使っている病床を新型コロナウイルスの患者用に転用することで追加で426床確保できるとしています。

しかし、病院によってはすぐに転用できるわけではなく、感染拡大のスピードによっては追加の確保が進まない事態も懸念されています。

都内の病床確保と使用率の推移

都内で確保した新型コロナウイルスの患者用の病床は、2020年11月1日時点で2640床、使用率は38.4%でした。

その後、都はさらに確保を進め、感染が急激に拡大した2020年12月に3500床まで増やしましたが、病床確保のペースを上回る患者の急増に伴い、使用率があがりました。

第3波では、最も高い時で年明け1月6日の88.3%まで上昇しました。

その後、1月28日には4700床まで、2月18日には5000床までそれぞれ増やす中で、感染確認は逆に減少しました。

3月18日時点では5048床に対して1293人が入院していて、使用率は25.6%となっています。

介護施設で回復者の受け入れ

感染拡大時に新型コロナウイルスによって病床がひっ迫することを軽減しようと、全国の介護老人保健施設では、回復した高齢の入院患者を受け入れる態勢の整備を進めていて、全国の半数近くにあたる1600余りの施設が受け入れる意向を示しています。

新型コロナに感染した高齢の入院患者の中には、治療が終わって回復しても、入院中に身体機能が低下するなどして、すぐに退院できない人もいて、病床がひっ迫する要因のひとつになっています。

こうした中、常勤の医師がいる介護老人保健施設が退院基準を満たした高齢者を受け入れることを決め、全国老人保健施設協会によりますと、3月11日の時点で、3500余りある施設のうち半数近くにあたる1600余りの施設が受け入れの意向を示しているということです。

129施設は、すでに受け入れを行っていて、このうち東京・文京区の施設では、2020年末からこれまでに9人の退院した高齢者を受け入れてきました。

退院基準を満たしているため、感染を広げるおそれはないとされていますが、施設では念のため最初の10日間は個室に入ってもらい、対応するスタッフは防護服を着て介護にあたっています。

その後、一般の利用者と一緒に専門職の立ち会いのもとでリハビリを受けます。

入院中に衰えた身体機能や認知機能の回復を図り、自宅やもともといた施設に帰ることを目指します。

国も、こうした退院患者を介護施設で受け入れた場合、1日5000円相当の介護報酬を加算しています。

全国老人保健施設協会の平川博之副会長は「第3波では、介護施設で感染者が出ても入院できず、クラスターにつながるケースがあった。介護施設が後方支援をすることで病床の回転につなげたい。第4波に備え、医療と介護の連携を進めることが重要だ」と話していました。

一方で「退院した患者を受け入れた施設が風評被害にあえば介護職員の心が折れてしまう。日本全体で心を1つにしてコロナに立ち向かえるよう理解を求めたい」と訴えています。

「5月末までに計画見直しを」 国が都道府県に要求へ

国は都道府県に対し、5月末までに病床の確保に向けた計画を見直すよう求めることにしています。

いわゆる第3波では、思うように病床の確保が進まなかったのに加え、治療が一段落した患者の退院が進まなかったり、確保していたはずの病床もすぐには使えなかったりしたことなどから病床がひっ迫しました。

このため厚生労働省は、都道府県と地域の医療機関の間で患者の受け入れについて協議し、病床の確保の計画を5月末までに見直すよう求めることにしています。

具体的には、新型コロナの患者とその他の患者の診療、急性期の新型コロナの患者と治療で症状が改善した患者の受け入れについて役割分担を協議するとともに、感染者が短期間に急増する場合についても病床の確保の計画を立てて、実際に病床が使えるかどうか確認してもらう方針です。

厚生労働省は2月、感染症法を改正し、都道府県が医療機関に協力を求めた際に、正当な理由なく応じなかった場合などには医療機関名を公表できる規定も盛り込んでいますが、基本的には都道府県と医療機関との協議に委ねたいとしています。

一方で、病床を確保するため緊急支援として行われてきた1床当たり最大1950万円の補助金は、3月末で終わることになっていて、どのように病床確保の実効性を保つかが課題となりそうです。

田村厚労相「病床確保などの計画 速やかに見直しを」

新型コロナウイルスの感染再拡大に備えるため、田村厚生労働大臣は、都道府県に対し、病床確保などの計画をできるだけ速やかに見直してもらいたいという考えを示しました。

1都3県に出されている緊急事態宣言が3月21日で解除されることについて、田村厚生労働大臣は、記者団に対し「コロナとの闘いが終わるわけではなく、また新たな闘いが始まる。継続して感染を最小限に封じ込めながら国民の生活を守っていく」と述べました。

そのうえで、政府が都道府県に求めている病床確保などの計画の見直しについて「今後の感染拡大に備えて、医療提供体制をしっかり整えてもらいたい。5月いっぱいをめどにお願いをしているが、何が起こるか分からないので、それ以前の緊急な対応も含めて各都道府県にはお願いをしたい」と述べ、できるだけ速やかに対応してもらいたいという考えを示しました。

専門家「最悪のケース想定し準備することが重要」

日本感染症学会の理事長で東邦大学の舘田一博教授は「まだ第3波が落ち着いたとはいえない状況だが、緊急事態宣言の解除による気の緩みから来る感染の再拡大や、感染力が高いとされる変異ウイルスの影響などで、再び病床の確保が課題になる可能性は十分にある。次の大きな感染の波が来るまでに時間的な余裕はあまりないだろうというのが個人的な見解だ。なるべく早めに準備を進めることに大きな意義がある」と指摘しています。

そのうえで「病床がどれだけ必要かは不透明な部分も多いが、こうした場合は常に最悪のケースを想定して準備することが重要だ。病床の確保やスタッフの態勢を整えることのほかにも、地元の大学病院など基幹となる医療機関と医師会、それに自治体などが協議して重症患者の治療に当たる病院を決めたり、後方支援の仕組みを作ったりする取り組みも現場の負担軽減には有効だと考えられる。また、国や自治体も積極的に備えを進める医療機関に財政的な支援を怠らないなど、地域一丸となって態勢を作り上げていく必要がある」と話しています。