コロナ AIで予測 東京
8月上旬に4万人近く 医療現場でいま何が

2022年7月26日

感染が急拡大している新型コロナウイルス。
今後の感染状況について名古屋工業大学のグループがAI=人工知能を使って予測したところ、東京都内の感染者数は、8月上旬に1日あたり4万人近くまで増えてピークを迎えるという計算結果となりました。

名古屋工業大学の平田晃正教授らのグループは、過去の感染者数の推移やワクチンの効果、それに人流などのデータをもとにAIを使って今後の感染状況を予測しました。

予測では、置き換わりが進むオミクロン株の「BA.5」の感染力を「BA.2」の1.3倍などと想定しました。その結果、東京都内の感染者数は、8月6日に1週間平均で1日あたり約3万9000人となり、ピークを迎えるという結果になったということです。

多くの人が感染するなどして免疫を持つ人が増えると、その後は減少傾向になりますが、減り方は緩やかで8月末の時点でも、感染者数は約2万6000人という予測となりました。

一方、死亡する人の数は感染者より遅れて8月下旬にピークを迎え、1日あたり約36人と予測されるということです。

平田教授は「感染への警戒心が薄くなっている可能性がある。多くの人が感染して、やや弱い集団免疫のような形にならないと、感染が収まらない状況だ。換気をしっかり行うなど、感染者数の増加を少しでも和らげてほしい」と話していました。

東京都 病床使用率が50%に迫る

感染の急拡大で病床使用率も上昇しています。
東京都によりますと、都内では、感染して入院している人は、7月26日の時点で速報値で3497人でした。7月1日には955人だったので、約3.7倍に増えています。
病床使用率は7月1日時点で18.9%でしたが、7月26日では速報値で49.6%となり50%に迫っています。

自宅療養者が急増 入院できないケース相次ぐ

こうした状況の中で、東京では自宅療養者が急増しています。

東京・渋谷区を中心に自宅療養者の往診を行うクリニックでは、保健所からの往診依頼が相次いでいて、当初は若い世代の患者が多くいましたが、7月下旬から中等症の高齢者など入院が必要な患者が増え始めているということです。

このうち一人暮らしの90歳の男性は、感染後も食事がとれ、会話もできる状態でしたが、少し歩くと血液中の酸素の値が91%まで低下し、酸素吸入が必要な中等症と診断されました。

また、寝たきりの状態の77歳のがんの男性は、39度の熱が出て酸素の値も92%前後まで低下していたため、中等症と診断され、自宅に酸素濃縮装置を運びこんで治療にあたりました。

さらに基礎疾患のある子どももいて、「熱性けいれん」の疾患がある1歳7か月の幼児は感染後にけいれんを起こし、その後も40度の発熱が続いているということです。

クリニックによりますと、こうした入院が必要な患者が増えつつあるものの、病床のひっ迫で、すぐには入院できず、自宅療養を続けざるを得ないケースが相次いでいるということです。

「Green Forest代官山クリニック」の関谷宏祐院長は「高齢者や基礎疾患があり重症化のリスクのある人は、本来は入院が望ましいが、病床が限られる状況では自宅で酸素や薬で治療する以外の選択肢がない状況です。今後、患者が増えるほど入院が難しくなると懸念しています」と話しています。

自宅療養 感染対策のポイントは

自宅療養者は全国でも増えていて、厚生労働省によりますと、7月20日時点で過去最多の61万2000人あまりにのぼっています。

これに対して、どのような対策が必要になるのか、感染対策に詳しい聖路加国際病院QIセンター感染管理室の坂本史衣マネジャーに聞きました。

【自宅療養の際は】
新型コロナに感染して自宅療養している人が家庭にいるときには、感染をできるだけ広げないために大事なこととして、
▽症状のある人と無い人の部屋を分けるなど、可能な範囲で生活スペースを分ける。
▽家の中でも感染者の近くにいる場合はお互いにマスクをつける。
▽冷房を使用して熱中症に注意しながらも窓を開け、換気扇を使って換気を徹底する。
▽共用部分で手に触れる場所をアルコール消毒し、手洗いを徹底することが大事だとしています。

坂本さんは「オミクロン株は検査して感染が分かったときには、すでに同居者が感染している可能性がある。けん怠感や、のどの違和感などコロナが疑われる症状が出たタイミングで家庭での対策を始め、同居者は感染している可能性があると考えて症状が出ないか数日様子をみながら、可能な範囲でほかの人との接触を避けてほしい」と話しています。

【事前の備えも】
また、いまの感染拡大で、すぐに医療機関にかかれない状況になってきているため、
▽薬局で買える解熱鎮痛剤や、▽水分補給のためのスポーツドリンク、それに▽ゼリー飲料などの手軽に口にできる食品を用意しておくほか、
▽生活に必要な日用品や、▽持病のある人は、ふだんもらっている薬などを少し多めに確保しておくことが必要だとしています。

さらに、感染する前の対策として
▽感染した場合にもウイルスの排出量を減らすことが期待できるため、ワクチンを接種すること、
▽事前に自宅療養時の相談窓口を自治体のホームページで調べてメモして置くことも大事だと話しています。

坂本さんは「いったんウイルスが家の中に持ち込まれると対策はとても難しくなる。同僚とのランチの場面や、マスクをつけていても近距離で長時間話し込むことなど感染する可能性のある機会をなるべく減らしてほしい。家の外で感染しないようにすることが家庭内での対策の第一歩だ」と訴えています。

救急搬送困難 コロナ感染疑いが過去最多に

総務省消防庁は、患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」として、県庁所在地の消防本部など全国の52の消防機関の報告をもとに毎週、とりまとめています。

7月24日までの1週間は6035件と前の週(4139件)より1900件近く増え、1.5倍近くに急増していることがわかりました。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大前にあたる2019年の同じ時期(873件)の約7倍となっています。

このうち新型コロナウイルスの感染が疑われるケースは全体の44%の2676件で、第6波の時期の2022年2月の2067件を超えて過去最も多くなりました。

「搬送が困難な事例」は、地域別では▽東京が過去最多の3173件。
▽大阪市が516件、▽横浜市が424件、▽千葉市が254件、▽さいたま市が199件、▽札幌市が147件、▽福岡市が145件、▽仙台市が101件、▽京都市が93件、▽熊本市が78件、▽名古屋市が71件などとなっています。

新型コロナウイルスの感染拡大前にあたる2019年の同じ時期と比べると▽東京が9.39倍、▽大阪市が4倍、▽横浜市が12.47倍、▽千葉市が2.92倍、▽さいたま市が6.63倍、▽札幌市が5.25倍、▽福岡市が13.18倍、▽仙台市が2.89倍、▽京都市が13.29倍、▽熊本市が11.14倍、▽名古屋市が8.88倍などとなっています。

このほかにも大都市と比べると件数は多くないものの、各地で搬送困難な事例が感染拡大前に比べて急増しています。

総務省消防庁は「第6波に比べて新型コロナウイルスの感染が疑われるケースの割合が増えていて、今後の動向を注視したい」と話しています。

沖縄県「入院待機ステーション」 病床数上回る人数が療養

爆発的な感染拡大が続く沖縄県。
2022年4月から入院できる病院がすぐに見つからない人を一時的に受け入れる那覇市内の「入院待機ステーション」に25床を用意しました。

しかし、県内では入院が必要な感染者が増加する一方、感染するなどして勤務できなくなっている医療従事者が急増し、入院先の調整が難しい状況になっていることから「入院待機ステーション」は数日前から満床となり、7月25日現在で病床数を上回る34人が療養していることが県や関係者への取材で分かりました。

NHKが入手した、7月25日に施設内を撮影した写真では、通路などにもベッドが置かれ、防護服を着用した医療従事者が治療にあたっている様子が捉えられています。

県の対策本部で入院調整を担う医師によりますと、この施設での療養期間はほとんどが1日程度でしたが、7月に入って入院を制限する病院が相次ぐ中、1週間以上にわたって滞在せざるを得ないケースも出ているということです。また、施設では7月、療養していた患者1人が亡くなっています。

施設には国から最大30人の看護師が派遣される方向で調整が進められていますが、医療従事者の不足が改善されないかぎり、入院調整が困難な状況はしばらく続く見通しです。

県の新型コロナの対策本部で入院調整を担う医療コーディネーターの佐々木秀章医師は「体調が悪化して救急搬送となっても受け入れ先が見つからず、一時的な療養先であるはずの入院待機ステーションに長期で療養する人が出てきている。病床を増やす調整をしているが増やしても、現在の感染状況であれば、すぐに満床となることが予想される」と話しています。

神奈川 横須賀市の病院 軽症の入院患者が急増

神奈川県横須賀市にある横須賀共済病院は、がんや脳卒中など重症患者の治療にあたる地域の中核病院で、新型コロナウイルスについては主に重症と中等症の患者を受け入れています。

7月に入ってからは第6波を上回るペースで入院患者が急増しているため、病院では当初の想定より新型コロナの病床を増やしていて、7月25日時点で28人を受け入れています。
このうち22人は、高齢で重症化のリスクがあったり、ほかの病気で入院したあと感染が判明したりして入院していますが、いずれも軽症だということです。
このほか肺炎で重症の患者は1人で、残る入院患者は中等症1などの症状だいうことです。

病院によりますと、「第6波」では高齢者を中心に重症化する患者が相次ぎましたが、ワクチンの接種も進み、2022年4月以降は軽症の入院患者が増える傾向になっているということです。

この病院では今、医師や看護師などの感染も相次いでいるため、現在の状況が続けば、ほかの病気の重症患者への対応に影響が出るおそれがあると懸念しています。
病院では、症状が安定した患者は転院してもらうよう取り組んでいますが、新型コロナの患者を受け入れる病院は県内で数が限られ、発症から10日たたないと転院を受け入れてもらえないケースがほとんどだということです。

横須賀共済病院の長堀薫病院長は「ワクチン接種が進み、明らかに新型コロナは重症化しづらくなっているのが現場の実感だ。地域医療を崩壊させないためにインフルエンザのようにより多くの病院で患者を診る形になるとありがたい」と話しています。

神奈川県 中等症・軽症向け病床を増加へ

神奈川県によりますと、神奈川県内では感染者が急増する中、入院患者の数は7月25日の時点で1452人で、病床使用率は69.14%となっています。
神奈川県は7月26日、開かれた対策本部会議で、特に中等症と軽症の入院患者に増加傾向が見られるとして、中等症と軽症の病床確保フェーズを3から4に引き上げ、今よりも350床多い1890床に増やすことを決めました。

一方、重症患者については増加傾向にはないとして、100床を維持するとしています。

黒岩知事は「感染者数は増えていても病床はそれほどひっ迫していないと伝えてきたが、徐々にひっ迫してきている。今より強い行動制限を考えているわけではないが、ひとりひとりが感染対策を徹底してもらいたい」と話しています。