新型コロナ“第6波”
感染者数下がりきらない理由は 今後は

2022年3月18日

新型コロナウイルスのオミクロン株が拡大した「第6波」はピークを越え、各地に適用されていたまん延防止等重点措置も2か月ぶりに解除に。しかし、感染の減少スピードは緩やかで、感染者数は2021年夏に緊急事態宣言が出されていたときのピーク時の2倍以上と、多い状態が続いています。

このまま感染が下がりきらないまま、次の「第7波」につながってしまうのではないか、懸念する声も出ています。

どうして感染が下がりきらないのか。

(科学文化部記者 水野雄太、三谷維摩、社会部記者 松尾幸明)

“第6波” 感染減少スピードは緩やか

2022年に入って感染が急激に拡大した第6波では、全国の一日の新規感染者数は2月5日のおよそ10万5600人がピークとなりました。

1週間平均でみると、2月10日前後に9万3000人を超えたあと、減少傾向となりましたが、1か月あまりたった3月17日の時点でもおよそ5万1000人で、およそ45%の減少と、半減には至っていません。

2021年夏の第5波のピークは、一日の新規感染者数では8月20日の2万5992人、1週間平均では8月25日頃の2万3000人あまりでした。

1か月あまりたった9月29日には、1週間平均はおよそ2190人と、90%あまり減少していました。

第5波では感染は急激に低いレベルにまで下がりましたが、第6波では減少スピードは緩やかです。

3月15日に開かれた厚生労働省の専門家会合のあとの記者会見で、脇田隆字 座長は「全国的に減少傾向ではあるが、その減少速度は相変わらず緩やかで、減少速度がどんどん速くなっていった2021年の第5波の収束局面とはかなり違う状況にある。これから連休や春休み、年度替わりなどで人の接触が増えることやより感染性の高い『BA.2』系統のウイルスに置き換わりが進むことなどで、再び感染者が増加傾向に転じる可能性もあり、十分注意をしていく必要がある」と話しています。

減少遅い理由

減少スピードが緩やかな理由として、専門家が挙げるのは

▽3回目のワクチン、追加接種が遅れたことで高齢者への感染が続いたこと

▽これまでにない規模での子どもたちへの感染が続いていること

が大きいと指摘しています。

ワクチン3回目接種の遅れ 高齢者に感染拡大

第5波では、感染が急速に拡大した2021年7月下旬の段階で65歳以上の高齢者で2回の接種を完了した人が70%を超えていて、若い世代で広がった感染が高齢者に移行することが少なかったため、急速な減少が見られたと分析されています。

一方、第6波の2022年1月上旬の段階では、2回目の接種から時間がたって感染を防ぐ効果が下がっていたうえ、65歳以上の高齢者で3回目の接種を受けた人は1%以下でした。

接種率は、感染者数が最も多かった2月5日の段階でもおよそ15%にとどまっていて、こうしたことから若い世代で感染が拡大したあと、高齢者に感染が移行したとみられます。

高齢者の感染は続いていて、厚生労働省のまとめでは、3月14日までの1週間でも全国の高齢者福祉施設で確認されたクラスターは341件と多い状態が続いています。

(感染制御学が専門 大阪大学 忽那賢志 教授)
「大阪府内では相当長い期間病床のひっ迫が続き、高齢者施設で感染者が出ても入院できずに、施設でケアを続けざるを得ないという状況があり、いまもそれに近い状態が続いている。施設内に感染者がとどまっているので周りに感染が広がる。医療のひっ迫で高齢者が入院できなくなり、施設内で感染者が増えるという悪循環が生まれている。いま、大阪府内で発生するクラスターの半分くらいが高齢者に関係するもので、感染が思ったように減少しない要因の1つになっている」

(厚生労働省の専門家会合にも参加 沖縄県立中部病院 高山義浩医師)
「沖縄では感染者数が底をうったあとで全体は増加に転じたが、3月上旬の段階ですでに高齢者の6割以上がワクチンの追加接種を終わらせていて、高齢者の感染は減少が続いている。全国でも、特に高齢者へのワクチンの追加接種を進め、高齢者施設などでのクラスター対策を支援していくことで感染のインパクトを減らしていける」

子どもの感染 これまでになく増加 感染継続

厚生労働省によりますと、10歳未満の感染した子どもは、第5波では2021年8月31日までの1週間が最も多く1万380人でしたが、第6波では感染が減少局面になっている2022年3月15日までの1週間でも6万5000人あまりと多い状態が続いています。

感染者全体に占める10歳未満の子どもの割合は2022年1月上旬には5%ほどにとどまっていましたが、2月中旬以降は全体の感染者数が減少する中、3月15日までの1週間ではすべての年代で最も高く、全体の21%を占めています。

子どもに関係するクラスターも多くなっていて、3月14日までの1週間で、保育所などの「児童福祉施設」は229件と前の週から56件増え、過去最多となったほか、「学校・教育施設等」も前の週から59件増え、318件となりました。

専門家は、オミクロン株はデルタ株などに比べると、子どもでも学校や幼稚園など、集団で生活する環境で広がりやすくなっていて、子どもはほかの年代と比べてワクチンを接種している人の割合が低いことがあると指摘しています。

(厚生労働省専門家会合 脇田隆字 座長)
「オミクロン株は感染力が強いので、これまであまり広がらなかった子どもたちへの感染が割合としては高くなっている。12歳未満はワクチンを十分に接種されていないこともあり、他の世代よりも感染が下がっていないことが、年代別の感染状況を見ても言うことができる。現在、感染が下げ止まっていたり横ばいだったりする地域が複数あるが、10代以下の感染割合が多いところでは、感染者数がなかなか下がっていない。子どもの感染が影響しているのは間違いない。インフルエンザのように子どもたちの爆発的な感染から広がっているわけではないが、子どもから大人へ緩やかに広がる状況があり、なかなか減少につながっていない」

(沖縄県立中部病院 高山義浩医師)
「飲食店の制限といった対策の結果、若者世代での感染は大きく減った一方で、子ども同士の感染や家庭内で広がる感染には対策の効果はあまり届かなかった。オミクロン株は、上気道感染を起こしやすく、子どもたちでも感染しやすくなっている。また、のどの痛みを訴える子どもが検査にもアクセスしやすくなっていることから、これまでより子どもの感染を検出しやすくなっていることも要因に挙げられるのではないか」

(厚生労働省専門家会合メンバー 国際医療福祉大学 和田耕治 教授)
「日本では12歳未満の子どもたちがワクチン接種が進んでいない『ポケット』と呼ばれる年代になっている。特に0歳から5歳はまだ接種を受けられる見通しがないので、感染が広がりやすくなっている。今後、子どもたちの感染が残ってしまうことは十分に考えられるので、特に新学期から夏ごろまでは、子どもたちに感染が広がらないようにしなければいけない。保育園や幼稚園、学校を閉めることはなるべく避けて、学びの機会もしっかりと確保されなければいけない。症状がある人は休まなければいけないが、症状がない場合は感染対策をしながら運営できる支援が重要になってくる」

減りきらないまま再拡大おそれも

3月19日からの3連休や、年度末の卒業式や歓送迎会などで人との接触機会が増えると、感染が下がりきらないまま、再拡大するおそれがあります。

名古屋工業大学の平田晃正教授の研究グループがAI=人工知能を使って予測したところ、東京都内の感染者数は4月上旬に1日5400人余りまで下がったあとはほぼ横ばいになるという結果になりました。

平田教授のグループは、人流や過去の感染状況、それにワクチンの効果などのデータをもとに、AIを使って予測。

▽まん延防止等重点措置の解除後、人流が2021年の同じ時期の水準まで回復したと想定すると、東京都の新規感染者数は4月上旬に1日5400人余りまで減少したあと、やや上昇してほぼ横ばいとなり、4月下旬でも1日5600人余りになると予測されたということです。

▽人流が2021年の同じ時期より20%増えた場合は、4月の上旬以降、ゆっくりと増加し、中旬には1日7700人余りという予測になりました。

▽人流の増加に加えて飲み会などが年末年始並に増えた場合は、3月末には新規感染者数が増加に転じ、4月中旬には1日1万3000人余りと予測されたということです。

グループは、ワクチンの3回目接種などの効果を考えると重症者数が急増する可能性は低いものの、感染の再拡大を抑えるためには会食の人数制限などの対策が必要な可能性があるとしています。

(名古屋工業大学 平田晃正教授)
「この時期は人流や大人数での宴会などが増える傾向があり、感染者数が減りにくい時期と言える」

「BA.2」に置き換わる?

もう1つ懸念されていることがあります。

オミクロン株の1つ、「BA.2」系統のウイルスです。

3月15日に開かれた厚生労働省の専門家会合では、今後の国内での「BA.2」の推移についての予測が示されました。

この中で京都大学の西浦博教授は、東京都の検査データをもとに、東京都内では4月1日時点でオミクロン株全体の82%が「BA.2」に置き換わるとする予測を示しました。

また、国立感染症研究所の鈴木基感染症疫学センター長が示した分析では、民間検査機関2社を対象にした抽出調査をもとに、全国の「BA.2」の割合が次のように予想されました。

4月第1週時点で70%。

5月第1週時点で97%。

「BA.2」は、現在主流となっている「BA.1」に比べ、感染性が20%程度、高まっていると考えられています。

「BA.2」への置き換わりが進めば、これまでと同じ対策では、十分に感染を押さえ込めなくなってしまうおそれがあるのです。

(厚生労働省専門家会合 脇田隆字 座長)
「『BA.1』系統のウイルスからより感染性の高い『BA.2』に置き換わりが進むことなどで、再び感染者が増加傾向に転じる可能性があり、十分注意する必要がある」

今後の対応はどうすれば良いのか

今後、大きな感染の波を起こさず、医療のひっ迫を防ぐために、私たちはどう対応すれば良いのか。

3月17日、重点措置の解除の方針を了承した基本的対処方針分科会の後、尾身茂会長は、「重点措置を解除すると、感染者数が増える可能性はあるが、重症者数をある程度抑え、医療のひっ迫を避けられるようにすることが大事だ。ワクチンの接種率が高いヨーロッパでも死亡者数が減る方向の国と増えている国があり、ワクチン以外の対策をしっかりしている国では比較的対応できている。ワクチンは必要だが十分ではなく、感染対策を続けないと、ヨーロッパの一部の国のように死亡者が増えることになる。ごく小さな飛まつ、エアロゾルによる感染も多くなっているので、マスクは自分や人を守るためにまだ着けた方が良く、私もやろうと思っている」と述べました。

ほかの専門家も、引き続き、感染対策に注意し、とくに、今後、人との接触が多い行事などが増える季節となる中、ワクチン接種を進めるとともに、感染リスクが高い行動をとる際には特に注意深く対策するよう呼びかけています。

(国際医療福祉大学 和田耕治教授)
「今後、感染する機会も増えるので、自分だけでなく家族や友人を守るためにも、若い人も含めてできるだけ早いタイミングで3回目の接種を受けてもらうことが重要だ。家族など少人数での花見や、食事や会話をしない卒業式であれば親の参加を認めるなど、感染対策をした上であれば実施できる。行政はまん延防止等重点措置が解除された後、市民と事業者に何を求めるのか伝えることが重要だ」

(大阪大学 忽那賢志教授)
「重点措置の解除後に東京都や大阪府でも再増加に向かう可能性があり、いままでの間隔より早いタイミングで次の流行がくるおそれがある。次の波が来るまでに高齢者へのワクチンの追加接種が行き渡るようにした上で、感染者が出た高齢者施設に早期に介入して治療を始め、感染対策の指導を早めに行えるようにするなど、支援体制を速やかに整える必要がある」

(沖縄県立中部病院 高山義浩医師)
「過去2年も春休みのあとに流行が起きており、第7波が起きる可能性が高いと考えて準備をしておく必要がある。高齢者施設で感染が見つかった場合、なるべく早く介入して拡大を防ぐこと、さらにワクチンの追加接種を進めることで社会全体に大きな制限をかけることなく、第7波を乗り越えることができたらいいと考えている」