“救急医療”ひっ迫続く
現場医師「限界が近い」

2022年2月22日

新型コロナの感染拡大で救急患者の受け入れ先がすぐに決まらない「搬送が困難な事例」は6000件を超えて6週連続で過去最多を更新し、依然として増加傾向が続いています。こうした中、救急医療の「最後の砦」とされる大学病院などでは緊急性が高い一般の病気やケガの患者の受け入れを断らざるを得なかったり、すぐに治療を行えなかったりするケースが続いています。現場の医師は「地域の救急医療は限界が近い」と訴えています。

救急医療ひっ迫 患者受け入れに数時間かかるケースも

大阪 吹田市にある大阪大学医学部附属病院の高度救命救急センターは新型コロナの重症患者に対応するとともに、脳卒中や交通事故のけがなど、それ以外の緊急性の高い患者を受け入れる地域の救急医療の「最後の砦」を担っています。

新型コロナの重症患者用の病床は2月22日の時点で14床のうち13床が埋まり、ひっ迫した状態が続いています。

織田順センター長によりますと、センターには2月に入って新型コロナ以外の緊急性が高い患者の受け入れ要請も増え続けていて、中には到着まで数時間かかるケースが出ているということです。

緊迫の現場 受け入れ先見つからず男性は一時心肺停止に

NHKが取材に入った2月17日、センターに搬送されてきた大阪市内の50代の男性は新型コロナには感染していませんでしたが、急性心筋梗塞のため緊急に治療が必要だとして対応した救急車の隊員が大阪市内を中心に近くの救急病院などに10回にわたり問い合わせをしましたが受け入れ先が見つからず、最終的にセンターに搬送されてきました。

男性がセンターに到着したのは救急車を要請してからおよそ2時間半後で、男性は容体が悪化して一時心肺停止となり、人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOを使った治療を受けました。

他府県からの要請も 1月上旬と比べ7倍近く増加

センターによりますと、緊急性が高い患者の受け入れ要請は京都や兵庫などの他府県を含め離れた地域からも相次ぎ、断らざるをえないケースが増えていて、現在は1日15件ほどと1月上旬と比べて7倍近くに増加しているということです。

背景には新型コロナの感染拡大で地域のほかの救急病院が対応できなくなり、患者の受け入れ要請そのものが増えているほか、医療スタッフの数にも限りがある中で緊急手術や搬送が重なるなどして対応が難しくなっていることがあります。

織田センター長は「現場でできる努力や工夫は最大限行っているが、すべての受け入れ要請には応え切れていないのが実情だ。治療の優先度を決めて受け入れの可否を判断せざるを得ないこともあり、患者の不利益が最小限になるよう細心の注意を払って対応しているが、非常に心苦しく思っている」と心情を語りました。

対応策としてセンターでは近くの病院と直接連絡を取り合いベッドやスタッフにわずかに余裕があるタイミングを見計らって緊急手術や患者の受け入れを互いに依頼し合っているということですが、織田センター長は「21日も40回以上病院へ問い合わせても受け入れ先が見つからずこのセンターに搬送されてきた患者がいて、地域の救急医療は限界が近いと感じている。新型コロナの重症者は感染者の増加がピークを迎えてもしばらく増え続けるので、この先、新型コロナの患者とそれ以外の救急患者への対応がどこまでもつのか非常に危惧している。一般の人には救急医療がこのような厳しい局面に立たされていることを知ってほしい」と訴えていました。

ドクターカーの出動も増加

新型コロナウイルスの感染拡大で救急医療で「最後の砦」とされる東京都内の大学病院では救急患者用の病床がひっ迫し、入院の受け入れが難しくなっていることもあり、医師らが「ドクターカー」で緊急を要する患者のもとに駆けつけて対応するケースが増えてきています。

東京 文京区にある3次救急の指定病院、日本医科大学付属病院はコロナ患者用とコロナ以外の緊急性の高いけがや病気の患者用の病床が現在合わせて24床あり治療を行っていますが、オミクロン株が急拡大した1月からは多くの医療機関でコロナ対応に注力するために一般の救急患者の受け入れを絞っている影響もあり、満床に近い状態が続いています。

先週からは治療に時間がかかるコロナの重症患者の入院も増え、病床のひっ迫の度合いが高まっていて、コロナとコロナ以外を含め患者の受け入れの要請を数十件断らざるを得ない日もあり、2月22日も午後3時ごろまでに10数件の要請に対して受け入れができたのは2件にとどまりました。

2日に1回ほどの出動が1日4回になることも

病院では患者の受け入れが厳しくなっている中で消防からの要請を受けて医師が車内で治療しながら患者を搬送する「ドクターカー」での対応も進めていて、病院によりますと、出動はふだんは2日に1回ほどだったのが先週からは1日に4回になることもあるということです。

ドクターカーには人工呼吸器やレントゲン検査の装置などが搭載されていて、今週には子どもがけいれんを起こしたケースでドクターカーで駆けつけ、医師が現場で処置をしたあと別の病院に搬送できたこともあったということです。

横堀將司高度救命救急センター長は「救急搬送の要請に応じるのも難しいが搬送先が決まらずに患者さんの状態が悪くなることだけは避けないといけない。医師がなんとか早く治療に介入し、病院に来るまでに患者さんの命が絶えないようにする必要がある」と話しています。

「搬送が困難な事例」 6000件超す

総務省消防庁は患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」として、県庁所在地の消防本部など全国の52の消防機関の報告をもとに毎週とりまとめています。

2月20日までの1週間では6064件で、過去最多となった前の週の5740件からさらに増加しました。

地域別では東京が2849件、大阪市が557件、横浜市が432件、札幌市が164件、北九州市が129件、仙台市が101件などとなっています。

新型コロナウイルスの感染拡大前にあたる令和2年の同じ時期に比べると、北九州市が63.5倍、東京が7.9倍、横浜市が4.68倍、大阪市が2.9倍、仙台市が2.61倍、札幌市が1.83倍など各地で大幅に増えています。

新型コロナウイルスの感染が疑われるケースは2032件で前の週に続き高い水準で、全体の34%となっています。

新型コロナウイルスの感染の疑いのないケースは4032件と前の週からおよそ350件増え、依然として全体のおよそ3分の2を占めています。

総務省消防庁は「新型コロナの新規感染者数は少しずつ減っているが必ずしも病床がすぐに空くわけではない。搬送が困難な事例は依然として多く、余談を許さない状況が続いているため危機感を持って今後の状況を注視したい」と話しています。