重症者の数え方
8都府県で国と異なる基準で集計

2020年8月20日

新型コロナウイルスに感染した重症者について国の基準とは異なる集計を行っている自治体が、8つの都府県に上ることがNHKの取材でわかりました。新型コロナウイルスの感染状況を判断する上で重要な指標とされる重症者の数え方が、地域によって差が生じていることが浮き彫りとなり、今後、集計の在り方をめぐって議論となりそうです。

新型コロナウイルスに感染し重症となった人の集計について、厚生労働省は、ことし4月、全国の都道府県などに通知を出し、集中治療室(ICU)などに入っているかや、人工呼吸器や、「ECMO」と呼ばれる人工心肺装置が必要な状態となっているかの、いずれかに当てはまる人を報告するよう求めました。

NHKが各地の放送局を通じて都道府県などに重症者の集計方法を聞いたところ、8つの都府県で国の基準とは異なる方法で集計していることがわかりました。

このうち、静岡県、滋賀県、京都府、高知県、福岡県の5つの府県では、集中治療室に入っているだけでは重症者に数えず、人工呼吸器か「ECMO」を使っている人などを重症者として報告しています。

その理由については、集中治療室に入っている患者が必ずしも重症とは限らないことなどをあげています。

東京都も集中治療室の患者すべてが必ずしも重症ではないなどとして人工呼吸器か「ECMO」を使っている人のみを集計していましたが、今後はこれに加えて国の基準でも集計し、報告することにしています。

このほか、茨城県と和歌山県も国の基準と異なる集計を行い、公表していますが、これ以外に国の基準に沿った集計も行い報告しているということです。

厚生労働省「国の基準で報告を」

新型コロナウイルスに感染し、重症となった人の数を、一部の都府県が、国と異なる基準で集計していたことを受けて厚生労働省は、都道府県などの担当者に対し、国の基準にのっとって報告するよう8月20日中に改めて周知することにしています。都道府県ごとの最新の「重症者」の数は、8月21日に公表される見通しです。

東京都 ICUの患者全員が必ずしも重症とはいえない

東京都は都内で集中治療室に入っている新型コロナウイルスに感染した患者全員が、必ずしも重症とはいえないと説明しています。

その理由として、その時の病床の空き具合や運用方法の違いから重症ではない患者を集中治療室で診るケースや、重症でなくても今後、重症化するリスクが高い患者をあらかじめ集中治療室で診る病院があるためだとしています。

また、流行の拡大によってそもそも集中治療室を症状の重さにかかわらず新型コロナウイルスに感染した患者専用とする病院もあるということです。

さらに、別の病気を患っている人が新型コロナウイルスに感染した場合、症状は軽くても、別の病気の症状が重くなって集中治療室に入るケースもあるということです。

また、人工呼吸器をつけていても集中治療室ではなく一般の病床で治療をうける患者もいるということです。

このため、都としては、集中治療室に入っているかいないかにかかわらず、人工呼吸器か「ECMO」と呼ばれる人工心肺装置を使っている患者のみを「重症者」として集計しているということです。

また、都は、重症の患者が人工呼吸器や「ECMO」を使用しなくなったならば、客観的にみても回復傾向にあるといえるとしています。

このため、都は、医療機器の導入の状況に基づいた都の基準は客観的で明確だとしています。

小池都知事「国の基準に基づいて情報を提供」

国の基準に基づいて都内の新型コロナウイルスの重症者を報告するよう求められていることについて、小池知事は、「国がそのようにおっしゃるので国へはその方向で情報を提供する」と述べました。

一方で、都は、これまでの都の基準は変更せず、モニタリングを行う指標として引き続き使用し、都内の重症者として毎日、公表することにしています。

これについて小池知事は「現場の医療施設を最も戦略的に生かせる方法として、集中治療室という場所よりも、むしろ医療器具やそれぞれの患者の状況などを専門家が分析してこれまでもモニタリングを進めてきた。国への情報提供は1週間に1回だが、都のモニタリングは毎日やっている。現場の状況を最優先した形でのモニタリングは引き続き進めていく姿勢だ」と述べました。

東京都医師会「見ようとしているものが違う」

東京都医師会の猪口正孝副会長は、「東京都の指標は、都内の医療提供体制の状況を見ていくために決めたものだ。本当にシビアな重症の患者さんたちに対して、都は今後、どういう医療提供体制を構築していくべきか、それを予想し、それに合わせた作戦を作っていくために利用するものだ」と説明しました。

そして、国の基準のようにICUに入っている患者を重症者に含めることについては「都内のICUの患者数は、重症の患者をカウントしているとは限らない状況だ。本当に助けなくてはいけない、命の危険が迫っている患者をカウントするためには、東京の指標で重症者数を捉えて、将来の推計を図ることが必要だと考える」と述べました。

その上で、国の基準については「国が全国をフォローしてその医療体制が非常に切迫していくときに、ほかの自治体と比べてどこを支援するか決めるために使うものだ。どっちがいいとか悪いとかではなく、見ようとしているものが違うと思う」と指摘しました。

専門家「統一基準で重症者数出すことは必要」

感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎教授は、「国は重症者の病床のひっ迫具合を流行段階の指標にしているので、都道府県で統一された基準で重症者の人数を出していくということは必要ではないか。基準が異なることはあまり望ましくないのではないか」と指摘しています。

そのうえで「ICUに入っているというのがどういう意味で必要なのか。どういう定義なのか、もう少し明確にしたほうが各都道府県が人数を正確に出していける。重症者数を示す数値の意味づけや、詳しい定義を国としても出していったほうがいいと思う」と話しています。

厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスへの感染が確認された人で、人工呼吸器や集中治療室などで治療を受けるなどしている重症者は、8月20日時点で237人となっています。

この人数は、国が、自治体が公表した情報をもとに集計しているということです。

一方、症状が改善して退院した人などは国内で感染した人が4万5266人、クルーズ船の乗客・乗員が659人のあわせて4万5925人となっています。

また、8月18日には速報値で1日に1万8957件のPCR検査が行われました。