救急医療ひっ迫
「最後のとりで」の大学病院 受け入れ困難も

2022年2月8日

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、救急患者の受け入れ先がすぐに決まらない「搬送が困難な事例」は5400件余りと4週連続で過去最多を更新しました。

感染拡大で医療がひっ迫し、救急医療で「最後のとりで」とされる大学病院の中には緊急性の高いけがや病気の患者のうち6割ほどしか受け入れられない状態になっているところもあります。

救急患者の受け入れ“6割ほどに”

東京 文京区にある日本医科大学付属病院では例年、心臓病や脳卒中などでの搬送が多い冬場には1か月に300件近い緊急性の高い救急患者の受け入れ要請があり、新型コロナの感染が拡大する直前の2020年1月には9割以上に応じてきたということです。

しかし、オミクロン株が急拡大した2022年1月からは多くの医療機関が一般の救急患者の受け入れを絞っているため、この病院への患者の受け入れ要請が例年より増加しているほか、治療によって患者が緊急の状態を脱しても受け入れる病院がなく、緊急用の病床がなかなか空かないことから、6割ほどしか受け入れられなくなっています。

病院では職員が濃厚接触者になるなどして出勤できないケースも相次ぎ、医療スタッフや病床を確保することも難しくなってきているとしています。

横堀將司 高度救命救急センター長は「コロナ以外の救急患者の受け入れは、去年の夏の第5波の頃よりも厳しいうえ、今週に入ってコロナの重症者も増え、さらに厳しくなっている。救急病床を空けようと努力しているが難しい。病気や不用意なけがをしないよう気をつけてほしい」と話しています。

「搬送困難な事例」5400件余に

総務省消防庁は患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」として、県庁所在地の消防本部など全国の52の消防機関の報告をもとに毎週取りまとめています。

2月6日までの1週間では5469件で過去最多となった前の週の5303件からさらに増加しました。

このうち新型コロナウイルスの感染が疑われるケースは全体の36%にあたる1983件で、感染の疑いのないケースは3486件と全体の64%を占めています。

総務省消防庁は「過去最多が続き厳しい状況だ。引き続き厚生労働省などと連携して、搬送困難な事例を減らせるよう取り組んでいきたい」と話しています。

都内 “搬送までに5時間以上”も

都内では2022年に入ってから新型コロナウイルスに感染した患者の救急搬送が再び急増しています。

東京消防庁によりますと、感染が確認され、自宅で療養している患者の救急搬送は2月6日までの1週間で合わせて685件と前の週より19%増えました。

空き病床が見つからず搬送までに時間がかかるケースも増えていて、3時間以上が合わせて162件に上っています。このうち56件は5時間以上かかったということです。

救急搬送の件数は現在、第5波のピーク時の8割程度まで増えているということです。

搬送先決まらず 自宅で死亡も

こうした中、一刻も早い治療が必要な心筋梗塞の患者でも搬送先の病院が決まらずに自宅で死亡するケースが出ています。

東京都内に住む76歳の男性は、2月2日に自宅で血圧が低下して意識がもうろうとし、訪れていた訪問看護師が救急車を呼びました。救急隊は心筋梗塞を起こした可能性があるとして、東京都以外の病院も含めて受け入れ先を探しましたが、およそ3時間たっても見つからなかったということです。

救急隊はかかりつけの在宅医に連絡したうえで自宅に連れ帰り、駆けつけた医師が酸素投与などを行いましたが、翌朝、男性は亡くなりました。

死因は急性心筋梗塞と診断されたということです。

冬場は心筋梗塞が起きやすく、このうち急性心筋梗塞では発症から2時間以内にカテーテル治療を行えば救命率が上がるとされています。

男性の妻は「救急車に乗った以上は助けてもらえると考えていたのでこんなことになるとは夢にも思わずがく然としました。救急隊員は『ここもだめだ、あそこもだめだ』と言いながら一生懸命病院を探してくれて、どうしようもない状況だったと思っていますが、病院で治療してもらえればもう少し長く生きて一緒に孫の成長を見守ることができたのかと思うとコロナが憎いです」と話していました。

“搬送できないケースほかにも…”

救急隊から連絡を受けて治療にあたった医師が勤務する「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長は「男性は速やかに搬送されていれば回復していた可能性もあった。ほかにも、搬送先が見つからなかった腸閉塞の患者が死亡したほか、別の医療機関でもくも膜下出血の患者を搬送できなかったケースがあったと聞いている。一刻を争う状況なのに病院で治療さえ受けられないのは危機的な状況だ」と話しています。