自宅療養で感じた
不安と疑問を調べてみた

2021年9月1日

「自分は、そして家族は、これからどうなってしまうんだろう。自宅療養は医療や情報から隔離され不安しかなかった」

私(NHK職員 50歳)は8月、家族全員が新型コロナに感染し、自宅療養しました。 “軽症”ということばからは想像できないような症状に苦しみながら、家族だけで、不安な日々を過ごしました。

「あのタイミングではこういうことが知りたかった」

体調が回復した今、経験者だからこそ感じた自宅療養中の疑問、不安を専門家に聞くことにしました。

子どもから家族全員感染…そして自宅療養へ

国見太郎(NHKチーフプロデューサー)

夫婦(ともに50)と大学生の息子(19)の3人暮らしのわが家。

初めに感染がわかったのは息子でした。

8月7日に38度台の熱が出て、2日後にPCR検査で陽性が確認されました。

私たちは、息子が発熱した日から生活する場所を完全に分け、家の中でも
・マスクの着用
・アルコール消毒
・換気

などを徹底し、できるかぎり感染対策をしたつもりでした。

しかし、息子の発熱から3日後、妻が発熱、さらにその2日後に私も発熱。

検査の結果、2人とも陽性が判明し、家族全員で自宅療養が始まったのです。

疑問1 夫婦が感染したのはいつ?

あれほど対策をしたのに全員が感染。
いったいどうすれば防げたのでしょうか。

感染症に詳しい大阪大学・忽那賢志教授に聞きました。

(大阪大学・忽那賢志教授)
「このウイルスのやっかいなところは、発症する前から感染を広げるおそれがあるということです。今回の事例では息子さんが発症する前にすでにほかの家族に感染していた可能性が高いと考えられます。

日頃から家の中でもマスクをして家族どうしの距離をとるなどしていれば、あるいは感染は防げたのかもしれませんがそのような対策をとり続けることもなかなか難しいことです。それでも今回のように家族が発症したらすぐさま隔離などの対応をとることは、感染予防の有効な手だてです。

以前は大人が感染して家庭へと持ち込むケースが多かったのが、デルタ株の広がりによって子どもが家庭に持ち込み家族に感染させるケースが目立ってきています。家庭内での感染を広げないために、そのときにできることをやってもらいたいと思います」

“容体急変”への不安にさいなまれる

症状は3人3様でした。

息子の発熱は2日で治まり、嗅覚障害が2週間ほど続きました。

私は発熱したその日から38度台~39度台の熱が5日間。

起き上がることができないほどの全身の倦怠感、せきに頭痛。

さらにトイレに行くと大量の冷や汗をかいて意識が遠のくこともありました。

妻は2週間ほど高熱が続き、中等症にまで症状が悪化しました。

経験したことのない症状が次から次へと現れるのに加えて、きつかったのが自分と家族の体がどうなっていくのかという不安。

特に、体調が“急変”することへの不安にさいなまれ続けることになりました。

パルスオキシメーター1分おきに…

「手遅れになる前に…」

そう考えて私はパルスオキシメーターで血液中の酸素飽和度を測り続けました。

気が付くと1分おきに測ってしまうほど“依存”していました。

測定結果はずっと正常値の範囲内で安定していたにもかかわらずです。

一方、妻はトイレなどでちょっと体を動かしただけでも90%を下回るなど数値にムラが出ていました。

不安から一晩中ひたすら測り続け、ほとんど眠れていなかったと思います。

この酸素飽和度、厚生労働省の「診療の手引き」では93%を下回ると酸素吸入が必要とされています。

保健所からも「こまめに計測し、93%以下になった場合」連絡するようにと説明がありました。

妻の数値にはムラがあり、93%を下回っていない時もありましたが「胸と背中を締めつけられるような痛みがある」と訴えていたこともあり、肺炎が心配で専用の相談窓口「コロナ119番」に連絡しました。

しかし「座って苦しくないなら90%を下回らなければ大丈夫ですよ」と言われました。

疑問2 パルスオキシメーターの数値どう見ればいい?

なぜ対応が必要になる目安に93%、90%と異なる数値があるの?

新型コロナ患者の往診にあたるロコクリニック中目黒 嘉村洋志医師

(ロコクリニック中目黒 嘉村洋志医師)
「医学的には、もともと肺が健康な人であれば95%を下回ってくるのは異常な状態であると言えます。自治体によって病床の空き状況をみながら入院を判断しないといけないため、基準となる値の表現に差が出ていると考えます。ただ、心配な方は、自治体の示す値にかかわらず保健所に連絡したり、医師に相談したほうがいいと思います」

どのくらいの頻度で測定し、どのような状態になれば連絡すればよかった?肺炎かどうかは見分けられる?

(嘉村医師)
「症状から肺炎かどうかを見極めるのはなかなか難しく、そこで大切になるのはやはり酸素飽和度です。そうは言っても、24時間いつもその値を気にして計測をする必要はありません。ただ、息苦しさを感じたり、数値が急に下がってきたときは間隔を短くして測定するようにしてください。『就寝時もタイマーをセットして定期的に計測したほうがいいか』とよく聞かれるのですが、苦しくなれば自然に起きてしまうので眠れているのであれば夜中に起きて計測する必要はないと思います」

次々に疑問が…解熱剤は、水分補給は?

夫婦ともに高熱が続く中、悩んだのが解熱剤の服用のしかたでした。

中等症の妻は、解熱剤を飲んでも3回に1回は全く熱が下がりませんでした。

また薬の影響か、大量に汗をかく状況が続き体力も消耗していました。

保健所からは経口補水液などでこまめに水分補給をするよう指示がありましたが、市販のものは甘すぎると感じて飲み続けられませんでした。

そこで途中から市販のお茶に食塩を入れて代用しましたが、脱水になるのではないかという不安を感じました。

市販のお茶に食塩を入れて代用

疑問3 解熱剤の飲み方と脱水予防は

高熱の場合は解熱剤を飲み続けたほうがいい?1日、何回まで時間はどれくらい間隔をあければいい?

(嘉村医師)
「解熱剤をどういったタイミングで飲むかどうかは医師であっても判断が難しいのですが、熱が出てつらいときや、家事ができないときには服用をおすすめしたいです。1日、1回あたりで飲める量は薬の種類によって決まっています。処方箋薬の場合、服用する間隔は医師の判断ですが、市販薬は用法、用量を守って服用してください」

脱水を防ぐにはどのような飲み物がいい?

(嘉村医師)
「経口補水液は甘くないタイプのものもあって飲みやすいものを選択するといいと思います。必ずしも飲み物だけで水分をとる必要はありませんので、スープやゼリーなど口に入れやすいもので水分補給する方法も検討してみてください」

「軽症で自宅療養」参考になる情報がない

自宅療養は医療から隔絶された世界でした。

保健所とはすぐに連絡がとれない。

近所の病院に行くわけにもいきません。

「コロナ119番」も電話すると「混み合っているので看護師とつなぐには数日かかる」と言われました。

コロナ患者に電話で問診をしてくれる医療機関を見つけ、解熱剤と痛み止めを処方してもらえたことが医療との接点でした。

そうして、分からないことをネットで検索するうちに同じような人たちがたくさんいること気付きました。

自宅療養の人たちがツイッターで体験談を語り合っていたのです。

「#コロナ闘病中のみんなで話そう」

このハッシュタグのツイートはことし5月ごろから増え始め、自宅療養者が急増した8月には1か月で2万件を超えています。

「39.9℃。身体はもう限界…」
「朝起きたら悪化してるんじゃないか?と怖くて寝れません」

多くは不安な気持ちを吐露するものですが、中には症状や療養生活に関する疑問に元患者や医師が答えたツイートも。

「夜になると息苦しくなるのなんなんだろう。日中は平気なのに」
という投稿には、看護師を名乗る人が
「仰向けではなくうつ伏せ寝、高さのある枕を抱え込む感じの体勢のほうが楽だといわれています」
と答えていました。

わらにもすがる思いで見続けました。

疑問4 自宅療養についての正しい情報は?

(嘉村医師)
「自宅療養をする人たちの往診を続けてきて、皆さん、今の状態が回復につながる経過なのかどうか、それが分からないことが最も大きな不安の原因だと感じています。不安を軽減する意味では自宅療養をしている人どうしが体験を共有することはいいと思います。ただ、薬の効果など、はっきりしていないことも多くありますので、医療に関わることはできるかぎり医師などに相談をしてください。

自治体の保健所は業務に追われていて、自宅療養している人たちの不安や疑問に丁寧にこたえることが難しくなっているように感じています。周囲に話しづらかったり、外とのつながりが途絶えるなかでつらい気持ちを募らせる人も多くいます。必要以上に不安を抱え込むことなく、知りたいことがあればかかりつけ医や私たちのようなオンライン診療などの機会を利用してみてください」

自宅療養を経験して今思うこと

軽症と診断されたものの、新型コロナウイルスの症状はイメージしていたものとは全く違いました。

そして肺炎のリスクがあるウイルスと自力で闘うのは本来、異常なことだと感じました。

全国で自宅療養している人は8月末に10万人を超え、私と同じように不安の中でウイルスと闘っている人が大勢います。

自宅療養者向けの情報が足りない。

そうした人たちが必要としている情報をもっと伝えていかなければならないと強く感じています。

(メディア開発企画センター 国見太郎/ネットワーク報道部 目見田健/廣岡千宇/芋野達郎)