自宅療養を「総力戦」で支える
東京 八王子市の取り組み

2021年8月25日

新型コロナウイルスの感染拡大で医療体制が危機的な状況になる中、地域の医療を結集して「総力戦」で対応に当たるにはどうすればいいのか。

東京 八王子市では、自宅療養者が症状が悪化したときにすぐに入院できない場合でも、取り急ぎ地域の診療所などで診察を受けられる体制づくりを進めています。

八王子市では、市内の病院で合わせて200床余りある新型コロナ患者の病床がほぼ満床の状況が続き、自宅療養者は1500人近くに上るなど、すぐに入院できないケースが相次いでいます。

こうした中、八王子の医療を結集して、「総力戦」で自宅療養者の対応に当たろうと、1週間前、市役所の一角に「支援拠点」を立ち上げました。

拠点では、専従職員や保健師、医師など10人ほどが対応に当たり、まず、保健所から自宅療養者の中で、基礎疾患があり、息苦しさが続いているなど、重症化のリスクがある患者の情報を集めます。

そして、コロナ患者の対応を行う6つの病院で空きベッドが出た際の情報を一元的に集め、「入院調整」を行うほか、空きベッドがなく、すぐに入院できなくても、取り急ぎ受診だけはできるように、市内に40余りある診療所やクリニックと連携し、患者を振り分ける「受診調整」を行っています。

調整がつけば、診療所の医師が患者の自宅に往診に行くか、患者宅に民間の救急サービスを手配し、診療所に患者を運びます。

8月24日、拠点には、保健所から状態が悪化した患者の情報が相次いで寄せられていました。

このうち、1週間近く高熱が続いている50代の男性について、呼吸の苦しさが出始めたものの、すぐに入院できる状況ではなかったため、市内の医療機関につなぎ、診察を受けてもらっていました。

支援拠点で指揮に当たる徳岡健太郎医師は「治療薬の投与など重症化を軽減するために患者を早めに医療に“タッチ”させて治療を始めることが重要です。非常事態で災害とも言われる状況の中で、限られた医療資源をどう有効に使っていくか、そのために“オール八王子”で頑張っていくしかない」と話しています。

息苦しさ続くも入院難しく自宅療養に

8月24日、医師の診察を受けた50代の男性は、8月中旬に新型コロナウイルスに感染し、1週間近く自宅で療養を続けていましたが、高熱に加えて、息苦しさや吐き気などが強くなったため、8月23日の夜、みずから救急搬送を依頼したということです。

しかし、救急隊員が駆けつけた時点では、血液中の酸素の数値が安定していたことなどから、夜間に受け入れ先を見つけるのは難しいとして、保健所から支援拠点に情報が寄せられました。

そこで、拠点で対応に当たる保健師が男性から話を聞いたところ、「息苦しさが続いている。解熱剤が効かない」などと話したことから、取り急ぎ近隣の医療機関に「受診調整」を行いました。

職員は医療機関や移動手段を確保し、男性と話をした1時間後に、診察を受けられることになりました。

診察では、軽い肺炎の所見がみられたため、治療薬が処方され、自宅で療養を続けることになりました。

診察に当たった医療機関は、認知症の高齢者などが療養していることなどから、これまで新型コロナの診察は行ってきませんでしたが、現在の感染状況もあり、対応に加わることを決めたということです。

診察に当たった医師は「今はなかなか入院できないので自宅療養中でも今回のように医療につながることで患者は安心していただけると思う。入院の必要性はあるものの在宅にいる患者がどんどん増えているが、自宅療養者が在宅で亡くなるようなことがあってはいけないので、もうこれは『総力戦』で当たらないといけないと思う」と話していました。

都知事ら「総力戦」強調も

新型コロナウイルスの第5波で医療体制が危機的な状況になる中、「総力戦で闘う」ということばが相次いで聞かれます。

8月23日、東京都の小池知事は、田村厚生大臣との意見交換を終えたあと「自宅療養者や重症者が増える中、必要な医療の施設において医療従事者の協力を強く求める。最大の危機を乗り越えるために、国、都、医療機関が連携して『総力戦』で闘っていく」と述べています。

政府の分科会の尾身茂会長は、8月17日の会合のあと「総理大臣や大臣、知事には、ワクチンや抗体カクテル療法など、1つのことだけですべてが解決するようなメッセージではなく、医療体制や検査体制の強化、人々への行動制限への協力、すべての手段をパッケージ、『総力戦』として使わないといけないんだというメッセージを出してほしい」と話しています。