【詳細】GDP 厳しい状態続く消費
知恵絞る現場では

2021年8月16日

前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してプラス1.3%となった2021年4月から6月のGDP。2期ぶりにプラスに転じましたが、緊急事態宣言を受けて個人消費が伸び悩んでいることで、景気の持ち直しの動きは力強さを欠いています。

この時期は新学期や大型連休などで本来は買い物や旅行などの消費が活発になる時期ですが、変異ウイルスによる感染拡大を受けて3回目の緊急事態宣言が出され、消費は厳しい状態が続いていました。経済指標や現場からの報告を交えて読み解きます。

個人消費

こちらのグラフは、クレジットカードの利用情報をもとに消費の動向をみた調査の結果です。

感染拡大前の2年前と比べて、交通や旅行、外食を含む、「サービス消費」が、落ち込んだ状態が続いていることが分かります。

いわゆる巣ごもり消費の追い風で「ネット通販」が大きく伸びているほか、「モノ消費」全体も2年前を上回っていますが、サービス消費の落ち込みを埋めることはできず、消費全体は依然、低迷したままです。

「サービス消費」の現状を詳しく見てみます。

「イズミ」 買い物客分散のため特売日を廃止

密を避けたいという買い物客の声に応えるため、スーパーの中には新たな集客方法に取り組むところもあります。

西日本で100店舗余りのスーパーを展開し、広島市に本社を置く「イズミ」は、特定の曜日にお買い得商品を集中させて集客を図る「特売日」を2020年9月に廃止しました。

特売日を廃止する代わりに、生鮮食品や加工食品など毎日、違ったお買い得商品を設定し、買い物客を分散させるのがねらいです。

これに合わせて広告の方法も常連客によりターゲットを絞った形に見直しました。

不特定多数に向けた新聞などの折り込みチラシを半分に減らし、アプリを通じたクーポン券などの配信に力を入れています。

そして広告費などの削減で浮いた費用を日替わりのお買い得商品や人気商品の値下げに充て、特売日を廃止しても、割安感を感じてもらえるようにしているということです。

こうした取り組みの結果、特売日廃止後も買い物客の数はほぼ横ばいとなり、1人当たりの購入金額は7%増加したということです。

30代の女性は「特売日は人が多く、買い物がしにくかったが、毎日、お買い得な商品があるのは、消費者としてはうれしい」と話していました。

このスーパーの田中寿喜営業企画部長は「買い物客の選択肢が価格の安さから、『安心安全に買い物ができるか』ということに変わってきている。お客様のニーズや世の中の変化にスピード感をもって対応できるかがポイントになっている」と話していました。

ホテルや旅館の宿泊者数

こちらは国内のホテルや旅館の宿泊者数。

コロナの影響を除くため、2019年と比較しました。4月から6月も厳しい状態が続いています。

仙台の旅館 アウトドア人気に活路

厳しい経営が続く温泉旅館の中には、コロナ禍で高まっているアウトドアの人気を取り込んで利用回復につなげようという動きが出ています。

宮城県のホテルや旅館で作る組合によりますと、県内の宿泊者数はことし5月以降、回復傾向にありますが、7月の1施設当たりの宿泊者数は、感染が広がる前のおととしの6割にとどまっています。

こうした中、仙台市郊外の秋保温泉にある旅館は密になりにくいアウトドアの人気が高まっていることを受けて、手軽にキャンプが楽しめる「グランピング」の宿泊施設をおよそ3000万円かけて3棟、整備しました。

7月から利用が始まっているこの施設は、ドーム型のテントでエアコンのほかベッドやソファーが備えられています。

テントの近くには専用の露天風呂があり、3棟のうち1棟はペットも一緒に宿泊できるということです。

価格は1人当たり1泊3万円以上しますが、30代から40代の人や家族連れなどに人気で、旅館全体の売り上げの15%ほどを占めるようになっています。旅館ではこうした需要は今後も続くとみて、テントの数を増やすことなどを検討しています。

「奥州秋保温泉 蘭亭」の伊藤正治支配人は「想定以上の人気だ。温泉旅館とアウトドアの斬新な組み合わせが評価されたと受け止めている」と話していました。

外食

外食は二極化が進んでいます。

感染拡大前の2020年1月を100とするとことし6月の値は、持ち帰りや宅配が好調なファストフードが96と底堅かった一方、酒類の提供停止が要請されたパブ・居酒屋は16.3と大きく落ち込みました。20を下回るのは最初の緊急事態宣言が出ていた2020年5月と同様の水準です。

ススキノの居酒屋 店の個室をレンタルオフィスに

札幌市の繁華街・ススキノで50年以上、営業を続ける居酒屋は、新たな事業を展開し苦境を乗り越えようとしています。

この居酒屋は北海道からの休業や営業時間短縮の要請を受け入れ、ことしに入って営業したのは延べ2か月間ほどに限られていて、札幌市を対象にまん延防止等重点措置が適用されている今も、休業を続けています。

居酒屋には最大120人が収容できる宴会場がありますが、2020年の感染拡大以降、利用されたのは3回だけだということです。

従業員の雇用を維持するため現在は弁当を作って市内の商業施設で販売するなどしていますが、売り上げの維持は困難な状況です。

このため居酒屋は札幌市中心部のオフィス街に近いという立地を生かし、新たな事業を展開することにしました。日中の時間帯、店の個室をテレワーク用のレンタルオフィスとして貸し出すサービスです。

国の補助金も活用して1500万円を投資し、それぞれの部屋にモニターを設置するほか、宴会場には壁一面に大型のスクリーンを設け、リモートでの会議や商談会、講演会などにも対応できるようにする計画です。

店はことしの秋ごろからこのレンタルオフィスの事業を始める計画で、利用者には昼食や弁当も販売し、収益の確保につなげたい考えです。

居酒屋を経営する会社、「GIFカンパニー」の福田広社長は「感染が収束したとしても当面は売り上げが回復しないとみているので、減った分を新たな事業で確保したい。経営は非常に厳しい状況だが、『やれることはなんでもやる』という気持ちで前向きに取り組むしかない」と話していました。

輸出

一方、好調なのは輸出です。

アメリカ向けの自動車や中国向けの半導体製造装置が大きく伸び、6月の輸出額は7兆円を超え、コロナ前を上回りました。

企業の生産活動

生産も回復が続いています。

企業の生産活動を示す「鉱工業生産指数」は2020年5月に77.2まで低下しましたが、海外や国内需要の増加を背景に、6月には99.3になりコロナ前の水準に並びました。

経済産業省は「生産は持ち直している」と判断しています。

設備投資

生産の伸びは、設備投資に波及しています。

こちらは3か月ごとに発表される日銀短観の企業が計画する設備投資の額の推移です。コロナの影響を受けた2020年度(青のライン)は時間がたつにつれ設備投資計画は縮小。実績も前の年度のマイナス8.5%と大きく落ち込みました。

一方、今年度・2021年度(黄色のライン)は製造業やソフトウエアなどの投資が伸びて、ことし6月の時点で9.3%と大きく増加しています。

エコノミスト「回復にはほど遠い 力強さ乏しい『個人消費』」

今回のGDPについて、第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは、「プラスになったとはいえ、新型コロナの感染拡大前の水準と比べると回復にはほど遠い。海外経済の恩恵を受けやすい『輸出』や『設備投資』は回復したが、『個人消費』は力強さが乏しいものとなった」と述べました。

その上で、今後の見通しについて、「夏場の消費は旅行や帰省のウエイトが高いが、ここに緊急事態宣言に加えて災害も重なったので、個人消費を中心に厳しい状況が続くのではないか。状況次第では、7月から9月の3か月は個人消費の伸び率がマイナスに転じる可能性もある。行動制限が繰り返されるかぎり、経済は元に戻らないので、『変異株』の影響もある中、医療提供体制を拡充していかなければならない」としました。

そして、外食などのサービス業を巡って、永濱氏は「感染が拡大する中では、移動や接触を行わずに取り引きができるネット通販やテイクアウトなどでしのいでいくことが重要だ。政府には、こうした現場への支援ができるだけ迅速に進むような取り組みが求められる」と指摘しました。