日銀短観 大企業製造業 4期連続改善
非製造業は改善も低水準

2021年7月1日

日銀が発表した短観=企業短期経済観測調査で、大企業製造業の景気判断を示す指数はプラス14ポイントと、前回調査を9ポイント上回り、4期連続で改善しました。一方、飲食や宿泊などの大企業の非製造業は5期ぶりにプラスに転じたものの、依然として低い水準にとどまっています。

日銀の短観は、国内の企業およそ9400社に3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気を判断します。

今回の調査は、2021年5月下旬から6月30日にかけて行われ、大企業の製造業はプラス14ポイントと、前回、3月の調査から9ポイント改善しました。これは、2018年12月の調査以来、2年半ぶりの高い水準となります。

改善は4期連続で、海外経済の回復にともなう輸出の増加などを背景に指数が改善した業種が多く、タービンなどの汎用機械がプラス34ポイント、電気機械がプラス28ポイントなどとなっています。自動車は半導体不足の影響で工場の生産停止などがあり、7ポイント悪化して、プラス3ポイントとなっています。

一方、大企業の非製造業はプラス1ポイントと、前回調査のマイナス1ポイントから小幅に改善し、2020年3月の調査以来、5期ぶりにプラスに転じました。

テレワークの普及などにともない、通信や情報サービスなどで大幅なプラスが続く一方、宿泊、飲食サービスがマイナス74ポイント、遊園地や劇場などの対個人サービスはマイナス31ポイントなどと依然として厳しい状況となっています。

原材料価格の上昇が重荷に

今回の短観では、海外経済の回復に伴う原材料価格の上昇が、新たな懸念材料として浮き彫りになりました。

製造業で仕入価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いた指数は、
▽大企業でプラス29ポイント、
▽中小企業でプラス43ポイントと、
いずれも前回調査から14ポイント高くなり、仕入れ価格が上昇傾向にあることを示しています。

一方、販売価格について「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いた指数は
▽大企業でプラス4ポイント、
▽中小企業でプラス5ポイントにとどまっていて、
仕入価格の上昇を販売価格に転嫁しきれていない苦しい状況がうかがえます。

板金加工の会社では

横浜市港北区にある創業39年の板金加工を手がける会社では、鉄やステンレス、アルミといった金属を通信機器や医療機械などの部品に加工しています。

会社によりますと、材料となる金属の仕入れ価格はこのところ数%から10%ほど上昇していますが、金属の調達先からは今後さらに上昇する見通しを伝えられていて、ステンレスではさらに2割から3割ほど上がる見込みだということです。

会社では、収益が圧迫されるのを防ごうと、部品の販売価格を引き上げるため出荷先との交渉を始めています。しかし、大口の出荷先などとの調整がなかなか進まず、仕入れ価格の上昇分を転嫁しきれていないということです。

板金加工会社、武蔵工業の小瀬公嗣 社長(41)は「今まで経験したことないほど材料費が上がる一方で、販売価格が据え置きになると、利益を確保できず、経営上難しくなってくる部分が非常に大きいと感じている。材料費以外のむだを省くなど、企業努力で利益を出していくしかないが、不安な部分はかなりある」と話しています。

原油価格の値上がりで漁業も痛手

国際的な原油価格の値上がりを受けて、漁業関係者は燃料費の高騰に苦しんでいます。

宮城県気仙沼市の漁業会社は、7隻の漁船を所有し、インド洋や大西洋などでマグロ漁を行っています。例年の1隻当たりの燃料費は年間5000万円ほどですが、原油価格の高騰を受け、燃料である重油の価格は6月、前の月に比べて1.5倍ほどに上昇したということです。この会社では、こうした状況が続けば年間の燃料費が2020年の2倍近くに増える見込みだとしています。

会社によりますと、新型コロナウイルスの影響で低迷していたマグロの販売価格は、このところ回復してきているということですが、燃料費の上昇分を賄うほどの売り上げを確保するのは難しいということです。

漁業会社「臼福本店」の臼井壯太朗 社長は「燃油の高騰に関してはどうすることもできないので、とにかく魚を獲って高く買ってもらうしかない。マグロの価格が戻り始め、これから経済もよくなると期待していたのに、また先行きが見えなくなってしまうのはつらい」と話していました。

仙台名物の牛タンも

中国などでの需要の高まりからアメリカ産の輸入牛肉の取引価格が高騰していて、仙台名物の牛タンを扱う専門店は値上げができず、苦境に立たされています。

牛タン専門店でつくる仙台牛タン振興会によりますと、2021年1月ごろから、中国の景気が回復傾向にあることなどを受けて、アメリカ産の牛タンの取引価格が大きく上昇していて、6月末は1キロおよそ3500円と2020年秋に比べて2.3倍に高騰しているということです。

宮城県富谷市に本社のある会社では、全国に16店舗の牛タン専門店を展開しています。会社では、新型コロナウイルスの影響で客足が例年の半分程度にとどまる中、値上げをすれば客がさらに減りかねないと、値上げをしないための新たなメニューを開発し、6月から提供を始めています。

2200円のメニューでは、牛タンを細くスライスすることで使う量を3分の2に減らす一方、牛タンを使ったつくねとソーセージを加えることで、ボリューム感を維持しているということです。

牛タン専門店を展開する「喜助」の小野博康 社長室長は「今後も仕入れ価格が上がると値上げに踏み切らざるをえない厳しい状況だ。できる工夫をしてこの苦境を乗り切りたい」と話していました。

専門家「コスト上昇を価格に転嫁しきれていない」

今回の日銀短観について、大和総研の久後翔太郎エコノミストは「製造業と非製造業の間に、回復の格差が依然存在していることが改めて示された。世界的な貿易量の拡大にともない、製造業が堅調な一方、非製造業は新型コロナウイルスの影響を大きく受けている状況が依然、続いている」と話しています。

また、原材料価格が上昇していることの影響については「製造業を中心に仕入れ価格が上昇している一方、販売価格の上昇幅は限定的で、コストの上昇を販売価格に転嫁しきれていないと考えられる」と述べたうえで「原材料価格の上昇は企業にとって大きな負担になっており、負担を減らすため、賃金や雇用を減らすことにもつながりかねない。それを避けるためには、現在の価格設定の在り方自体を変えていくことが重要で、今後の日本経済を占ううえで重要なポイントになってくる」と指摘しています。