日銀短観
2期連続改善も厳しい状況続く

2020年12月14日

日銀が発表した短観=企業短期経済観測調査で、大企業製造業の景気判断を示す指数はマイナス10ポイントと、前回・9月の調査に続いて2期連続で改善しました。 指数は大きく改善しましたが、新型コロナウイルスの影響で大企業の景気に対する見方は依然として厳しい状況が続いています。

景気判断 2期連続で改善

短観=企業短期経済観測調査は、国内の企業およそ9500社に3か月ごとに景気の現状などを尋ねる調査。景気が「良い」と答えた企業の割合から、「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた指数で景気の動きを見る統計です。

大企業・製造業の指数は6月に-34ポイントに急落し、リーマンショック以来の落ち込みを記録。その後、9月に-27、12月に-10と連続して改善しました。12月の改善幅17ポイントは、2002年6月調査以来、18年半ぶりの大きさとなりました。大企業・非製造業の指数は、-5と、7ポイント改善しました。

しかし、コロナ前には及ばず

先行きについては、大企業・製造業で、2ポイントの改善にとどまりー8。大企業・非製造業では、逆に1ポイント悪化して-6。

感染の「第3波」とされる、今の感染拡大を背景に、企業の景気に対する見方は依然、厳しい状況が続いています。

自動車 V字の改善がけん引

業種別に指数を見ると、景気判断に開きがあることもはっきりします。

たとえばオレンジ色の「自動車」。グラフは「V字」に近い回復です。

12月は48ポイント改善して-13ポイント。改善幅は2011年9月の調査以来、およそ9年ぶりの大きさとなりました。

コロナの影響で一時大きく落ち込んだ車の需要は、海外を中心に持ち直しが鮮明になっています。トヨタ自動車やスズキの10月の国内外の生産台数は、10月として過去最高でした。自動車がけん引する形で「鉄鋼」「非鉄金属」「生産用機械」も改善しました。

低迷際立つ 宿泊・飲食

それに比べると、黄緑色の「宿泊・飲食サービス」は、改善したとはいえ、-66と大きなマイナス。新型コロナウイルスの感染拡大前の去年12月の水準を、大きく下回っています。

「Go Toトラベル」キャンペーンの需要喚起の効果が見られるものの、感染拡大で一部地域が割り引き対象から除外されています。

また飲食店にとって12月は忘年会シーズン。しかし「第3波」の影響で、各地で営業時間の短縮が要請されています。

民泊事業の嘆き

11月に「Go Toトラベル」の対象から外された札幌市。市内の民泊事業者はキャンペーンの効果で売り上げが持ち直してきましたが、除外直後から、予約の半数がキャンセルされ、新たな予約も途絶えました。民泊事業者「TAKE」の武山眞路会長は、こう嘆いています。

TAKE 武山会長
「年末にかけていよいよ決戦という段階で対象除外となった。必死にこらえて頑張ってきましたが…」

居酒屋でイタリアン

夜の宴会が大きく落ち込む居酒屋チェーンの中には、なんとか売り上げをカバーしようとランチに力を入れるところも。

居酒屋風の定食に加えて、同じグループのイタリアンレストランのパスタやピザの提供を始め、これまで店に来たことがなかった女性客や家族連れを取り込もうとしています。

レインズインターナショナル コロワイドカンパニー 松田篤史さん
「厳しい状況だが外食の需要がなくなったわけではない。居酒屋店舗を利用して最大限対応したい」

ボーナスゼロ、副収入でしのぐ

働く人たちも、感染の第3波に不安を感じています。

大阪市に住む旅行会社の社員、じゅんさん(仮名・28歳)。学生などに中国への留学を仲介する業務を担当しています。じゅんさんは、元地方公務員で、ことし3月に今の仕事に転職して、すぐコロナの影響を受けました。仕事は激減し、年に2回のボーナスはゼロ。

ことしの収入は去年に比べ130万円余りのマイナスになり、節約のため、食事の回数を減らしているそうです。

なんとか副収入を得ようと、公務員時代の経験をもとに「住民税の基礎知識」という解説動画をYouTubeに投稿し、月に数千円から数万円の広告収入を得て、しのいでいます。

じゅんさん
「新型コロナウイルスの影響が長引くほど、会社への影響が大きくなります。いつまで節約の生活が続くのか不安です。毎月、家計簿をつけて、赤字にならないか、貯金できるかと心配ばかりしています。心理的な負担はかなり大きいです」

雇用に弱さが

新型コロナウイルスの影響で、有効求人倍率が低下するなど、すでに雇用情勢に厳しさが見えていますが、今回の短観からも、それが見えています。

従業員が「過剰」か「不足」しているかを聞く調査。グラフが上に向かうほど過剰感が強まっていることを示します。2019年まで「人手不足」が進む一方でしたが、コロナで状況は転換。

短観は、新卒の採用計画についても聞いていますが、2020年度の計画は、前年度に比べ-2.6%。実際にマイナスになれば、リーマン・ショックの影響で採用を絞り込んだ2010年度以来になります。2021年度(来年4月以降入社)は、-6.1%と、さらに採用を抑える計画になっています。

短観から見えるリスクは

みずほ証券 小林俊介チーフエコノミスト

今回の短観の結果を、専門家はどうみているのでしょうか。

小林 チーフエコノミスト
「2期連続の改善は、いい内容だったと言えるが、大きく落ち込んだところから半分戻した程度にすぎない。企業が回答した日よりも、今の方が感染の状況はひどくなっている。今回の短観で示された数字よりも、企業のマインドは悪くなっていると思う」

そのうえで、こう指摘しました。

小林 チーフエコノミスト
「一番の懸念は、感染が収束しても、経済活動がそれほど強くならないことだ。もとの状態に戻すには相当のバネが必要になるが、成長のけん引役が見当たらない。低水準の経済活動が続くと、新しい投資や雇用を抑制するリスクが高まる。雇用の減少は、日本全体の所得が減る可能性が出ることにほかならないので、今後の内需の回復速度にも暗雲が立ちこめている」

企業の採用計画から見える雇用の厳しさを、今後の大きな懸念にあげています。