7-9月 GDP 伸び率最大も
項目別では明暗分かれる

2020年11月16日

内閣府が発表した2020年7月から9月までのGDP=国内総生産は、実質の伸び率が年率に換算してプラス21.4%となり、比較可能な1980年以降で最大の伸び率となりました。ただ、新型コロナウイルスの影響で、前の3か月が歴史的な急落になったことの反動という側面が大きく、GDPの規模は感染拡大前の水準には戻っていません。

内閣府が発表した2020年7月から9月までのGDPの速報値によりますと、物価の変動を除いた実質の伸び率は、前の3か月と比べてプラス5.0%となり、4期ぶりのプラスとなりました。

年率換算 +21.4% バブル期抜いて最大の伸び

これが1年間続いた場合の年率に換算すると、プラス21.4%となり、比較可能な1980年以降では、バブル経済まっただ中の1989年10月から12月までに記録したプラス12.0%を超えて、最大の伸びとなりました。

期待されていた「V字回復」にならず

ただ、新型コロナウイルスの影響で前の3か月がマイナス28.8%と歴史的な急落となったことの反動という側面が大きいうえ、GDPは感染拡大前の水準には遠く、日本経済は回復途上にあることを示した形です。GDPの規模は、足もと、実質で507兆円余りと去年の実績をおよそ30兆円も下回る状況にとどまり、当初、期待されていた「V字回復」にはなっていません。

項目ごと 明暗分かれる

全体的にみると今回のGDPは大幅に改善しましたが、項目ごとに詳しく見ると、明暗が分かれた内容となっています。

改善けん引の「個人消費」「輸出」 再び冷え込むおそれ

明暗の「明」、GDPの改善をけん引したのは、「個人消費」と「輸出」です。

GDPの半分以上を占める「個人消費」は、前期・4月から6月までのマイナス8.1%から、今回はプラス4.7%と大幅に改善しました。外食や宿泊のほか、スポーツ観戦や遊園地などの娯楽サービスの利用、それに自動車の購入が増えました。Go Toキャンペーンなどの政府の需要喚起策によって持ち上げられた側面が大きいのが実情です。

「輸出」は前期のマイナス17.4%から今回はプラス7.0%となりました。アメリカや中国向けの自動車や自動車部品、半導体製造装置などが増えました。

ただ、個人消費と輸出ともに、今後、新型コロナウイルスの影響で“下振れ”するリスクに注意が必要です。

国内で感染が一段と広がれば、ようやく持ち直してきた「個人消費」は、再び冷え込むおそれがあります。「輸出」も、欧米で感染拡大の勢いが増したり、それに伴って、アメリカ大統領選挙で勝利を宣言したバイデン氏が経済活動の制限に乗り出したりすれば、日本の輸出産業への影響は避けられません。

「企業の設備投資」「住宅投資」 落ち込み続く

一方、明暗の「暗」。今回も落ち込みが続いたのが、「企業の設備投資」と「住宅投資」です。

「企業の設備投資」は、前期のマイナス4.5%につづいて、今回もマイナス3.4%となりました。工場の建設や生産用機械の購入が減っています。

「住宅投資」は前期のマイナス0.5%から今回はマイナス7.9%と一気に落ち込みの幅が拡大しました。賃貸アパートや分譲住宅、それに注文住宅の着工が減ったことによるものです。

物価の変動を反映させた名目のGDPの伸び率も、前の3か月と比べてプラス5.2%、年率に換算するとプラス22.7%と大幅な改善となりました。

専門家「感染対策と経済活動の両立試される正念場」

今回のGDPについて、日本総合研究所の成瀬道紀副主任研究員は「過去最大の落ち込みになった前の3か月の反動で、自動車の販売台数が国内外で急速に回復したことなどから、最大の成長となったが、経済活動はもとの水準に戻っていない」と評価しました。

今後の見通しについては「7月から9月は、緊急事態宣言の解除で大幅に押し上げられたが、今後は急激に伸びが鈍化すると思う。Go Toキャンペーンで宿泊施設や飲食店はかなり客足が戻ってきたが、もとの水準には戻っておらず、今後の感染状況に大きく影響する」と分析しました。

そして「今回の景気の悪化は循環的なものではなく、新型コロナウイルスによるものなので、対策をとって感染者数を減らし、通常の経済活動に戻すことが経済回復の一番の要因だ」としたうえで、「“ウィズコロナ”による需要の変化に対応できたところと、対応できなかったところで大きな差が出てくる。感染対策と経済活動の両立をいかに図るかが試される正念場だ」と述べ、各企業や社会全体が感染症の存在を前提とした“新しい日常”に対応できるかが、経済回復のカギを握るという認識を示しました。

海外との比較では回復の勢い鈍いとの指摘も

今回のGDPは大きく改善しましたが、海外と比べると、回復の勢いが鈍いのではないかという指摘もあります。

アメリカは、2020年4月から6月までの実質GDPの伸び率が、年率換算でマイナス31.4%と大きく落ち込んだあと、7月から9月はプラス33.1%でした。

ドイツやフランスなどユーロ圏19か国では、4月から6月までが年率換算でマイナス39.5%となったあと、7月から9月はプラス60.5%でした。

一方、中国は去年の同じ時期との比較で、2020年1月から3月まではマイナス6.8%となったあと、4月から6月はプラス3.2%、7月から9月はプラス4.9%となっています。

西村経済再生相「マインド まだ守りの状態」

今回のGDPについて、西村経済再生担当大臣は記者会見で「経済は回復途上にある。特にマインド=心理はまだ守りの状態で、攻めのマインドにはなっていないことが、企業の設備投資の弱さに表れている」と述べました。

新型コロナウイルスの今後の影響については、「欧米での感染再拡大が輸出や生産に、国内の感染拡大が個人消費に影響を与える可能性があり、下振れリスクにも十分な注意が必要だ」と述べました。

そのうえで、12月取りまとめる予定の追加の経済対策について、「デジタルやグリーン、イノベーション=技術革新など成長力を確かなものにするために必要な対策を積み上げ、強力な経済対策を作っていきたい」と述べました。

加藤官房長官「下振れリスクに注意」

加藤官房長官は午前の記者会見で、「4月、5月を底として、景気の持ち直しの動きが続いていることを確認できたと思う。他方で、経済は、依然としてコロナ前の水準を下回っており、欧米を中心とする感染再拡大や足元における国内の感染者数の増加の影響など、下振れリスクについて十分注意していくことが必要だ」と述べました。

そのうえで「政府としては、雇用と事業を支えていくとともに、ポストコロナに向けて、経済の持ち直しの動きを確たるものとし、民需主導の経済軌道に戻していくため、各省庁が一体となって、新たな経済対策を速やかに取りまとめていく」と述べました。

自民党の二階幹事長は、政府与党連絡会議のあとの記者会見で「国民の協力や関係者の力添え、それに自民党の政策がすべてうまくいった。これからも今の調子で経済が推移できるようしっかり見守っていきたい」と述べました。

公明党の山口代表は、政府与党連絡会議のあと記者団に対し「前期との比較で上昇軌道となっていることは評価したいが、その前は激しい落ち込みをしていて、まだ足りない部分や不十分な部分があると思う。これから今年度の第3次補正予算案に盛り込む対応策をしっかり考え、公明党としても今月中に政府に提言したい」と述べました。