休園や登園自粛にモヤモヤ…
保育園 実はみんな悩んでます

2022年2月9日

「休園の理由がはっきりわからない」

「登園の自粛に協力したいけど仕事が…」

保育園の休園が過去最多となる中、SNSではこんな保護者のツイートが相次いでいます。

一方で、子どもの感染が急増し、園や行政の側も、保護者の協力なしには感染対策を徹底できない苦しい状況にあります。今回は、育児中のパパママ記者チームで、保護者や園、行政、それぞれの苦悩に耳を傾けました。

(ネットワーク報道部 村堀等 野田麻里子 廣岡千宇)

とうとう“我がこと”に

ついに、来た

2月6日夜、取材班の共働きの記者のもとに、4歳の子どもを預かってもらっている園からのお知らせメールが届きました。いや、届いてしまいました。

クラスメートの1人の感染が確認され、しばらく休園となるとの内容でした。

この感染状況だもの、仕方がない‥、と思いつつ、少し気になることが。

クラスメートの保護者は先にPCR検査で感染が確認されていて、結果が分かったその日もクラスメートは登園していたということでした。

あれ?

確か園からは文書で「検査を受ける時点で登園をすぐにやめてほしい」と周知されていたけど…。

でも、よく考えてみたら、保護者が検査の結果待ちの間って、子どもを休ませなきゃいけないルールでもあるんだっけ?

自分も共働き。園に言い出しにくい気持ちもわからないでもないな。ちょっと複雑な気持ちになりました。

休園に続く休校で…

保育園への登園の判断で、悩んでいる保護者はたくさんいるのでは?
そう考えた私たちはまずは2人のお母さんに話を聞かせてもらうことにしました。

小学3年生と6歳、3歳の3人のお子さんがいる美紀さん(仮名)。
このうち6歳と3歳の子はそれぞれ別の保育園に通っています。

1月、6歳の次男の通う保育園で別の園児が新型コロナに感染していることが分かったため1週間、休園となりました。

次男は濃厚接触者にはなりませんでしたが、大事をとって3歳の長女も登園を控えました。

休園中は100円ショップで粘土などの遊び道具を揃え、外に出たいと言われればお弁当を持って公園に連れ出しました。

粘土遊びに夢中

それでも‥。

いざ自宅で仕事に向かおうとすると、パソコンのコードを抜かれたり、オンラインの打ち合わせの間、相手にしてもらえないと怒って泣いたり‥

朝の早い時間や夜、子どもたちが寝てからメールの返信や資料の作成を集中的に進めるなど自分なりに工夫しましたが仕事は思うように進まず、追い詰められていったといいます。

ようやく登園再開となった日。さらなる試練が美紀さん一家を襲いました。

感染者の急増に伴い、市内の公立小学校・中学校は全面的にオンライン授業に切り替わり、保育園も「登園自粛」となりました。

もう、これ以上、自宅で子どもたちを見ながら仕事を進めることはできない‥。

保育園に相談すると「家庭ごとに協力できる範囲でお願いしたい」という答えが返ってきました。美紀さんは夫とも相談し、6歳と3歳の子どもたちは保育園に預けることにしました。

美紀さん(仮名)
「子どもたちを預けることに葛藤はありました。感染リスクを減らすために保育園に協力したいという思いもあります。でもこれ以上、仕事を遅らせる訳にもいかない。焦りの気持ちがイライラにつながってしまうので今回は登園の自粛はしないことにしました」

保育園は“命綱”

登園の自粛ひとつとっても、保護者にとっては綱渡りの判断を迫られる日々の連続なんだ‥。

次に話を聞いたのは、3歳の長男を子ども園に預ける加代さん(仮名)です。

まさに休園を経験したばかりでした。

2月7日から3日間の全面休園の連絡を子ども園から受けたのは前の週の金曜日。

ただ長男のクラスには陽性の子どもも濃厚接触者もいませんでした。

加代さん(仮名)
「突然の休園で最初に頭に浮かんだのは、やっぱり『預け先、どうしよう』ということでした」

加代さんは、夫が遠方で仕事をしていて週末しか自宅に帰ってくることができないため、平日の子育てはいわゆる“ワンオペ”。

近所に住む義理の母も、日中は仕事をしているため長男を預かってもらうこともできません。

加代さん(仮名)
「感染も濃厚接触者も確認されていない長男のクラスまで一律に休園になった理由がはっきり分からず、急な対応に戸惑いました。私にとって子ども園の存在は、仕事を続けていくうえでは“命綱”なんです。また、息子にとっても3歳という年齢は友達との関わりがとても楽しく貴重な時間になってくる年頃で、それが突然途絶えて一日中母親と二人きりという環境の変化に戸惑いや不安もありました」

その後、園では、当初は休園の予定だった3日間のうち、後半の2日間は職員の新たな感染もなかったことから登園自粛に切り替わりました。

母親たちの話を聞きながら、休園や登園自粛がいつまたわが身にふりかかってくるか分からない、そのときに自分だったらどうするか、あらためて思いをめぐらせました。

休園や登園自粛の対応、園によって違いませんか?

そしてまた、新たなモヤモヤが‥。

ひとりでも感染者が出たら園全体を休園にするというところもあれば、クラス単位で部分的に休園するところも。あるいは、濃厚接触者だけを休ませるところもあったり。

どうやら登園の自粛についても場所によって対応が異なっているようです。

なぜなんでしょうか?直接、保育園にうかがいました。

千葉県八千代市にある認可保育園です。1月下旬、1歳児のクラスで園児の感染が確認されました。

この保育園では1年前にクラスターが起き、そのときは保健所の職員が園に入り濃厚接触者の特定が進められたということです。

ところがいま、感染者の増加により保健所の業務はひっ迫しています。今回、保健所は濃厚接触者の調査に来ませんでした。

そうなると園は、自治体の職員に相談しながら自分たちの判断で濃厚接触者や休園の範囲を決めざるを得ません。

休園の判断にあたっては葛藤もありました。

感染を広げないことはもちろん最優先にしつつも、それでも休園の範囲を広くとりすぎてしまえば、子どもを預けざるを得ない家庭を追い込むことになってしまうからです。

ただ、そうは言っても、じっとはしていられない園児たち。

感染者が出た1歳児のクラスではマスクの着用も難しい状況で、このときはクラス全体を休園にせざるを得ませんでした。

“感染の防止”と“保育所としての使命”。その間で、難しい判断を迫られていました。

第二勝田保育園 丸山純 園長
「感染者がでてしまった場合に、休園の範囲をどの程度にするか、どのような基準で再開するか、自治体によってもまちまちでその判断は非常に難しいです。どのような場合に登園の自粛を求めたらいいか統一された基準もありません。保育園によって対応もばらばらになっていて保護者も混乱しているように感じます」

自治体ごとの自主的な“要請”

登園の自粛を求められる状況は、いったいどんなものがあるのか、改めて確認してみました。

厚生労働省の通知

厚生労働省が「登園を避けるよう要請する」ケースとして自治体に示しているのは次の2つです。

(1)子どもが濃厚接触者に特定された場合
(2)子どもに発熱や咳などの風邪の症状が見られるとき

それ以外のケースでは、子どもと同居する家族の状況に応じて登園を自粛するようあくまで自治体が独自に協力を呼びかけているのです。

例えば東京・新宿区は次の場合に自主的に登園を控えてほしいとしています。

「家族の体調不良」
「家族がPCR検査を受診」
「家族が濃厚接触者に特定」

新宿区の保護者向け周知文

新宿区によりますと、こうした状況での登園自粛の協力によって園内の感染拡大を回避できた事例が多数あるとしています。

それでも休園になったら?

それでも休園になってしまった場合、子どもの預け先はあるのでしょうか。

新宿区では2月8日現在で、区内の96の保育施設のうち、全部休園が2施設、特定のクラスのみの一部休園が7施設となっています。

区では、休園やクラス閉鎖の範囲に含まれる子どもについては、濃厚接触者と特定されていなくても感染の可能性が否定できないとして、自宅で過ごすよう求めているということです。

新宿区 保育課・保育指導課
「休園の範囲を見極めたうえで、自宅で過ごしていただくことで、休園期間が最小限になって、保護者の方の負担を減らすことにつながると考えています。感染を理由に休園になった子どもを別の保育施設で預かるということにはなりにくいとも思いますので、保護者の方が保育の継続を希望される場合は、もとの施設で預かりを継続する対応を取っているところです」

厚生労働省は、休園とする場合でも保護者の必要に応じて可能な限り保育の受け皿を提供するよう自治体に求めています。

この対策の拡充に向けて、ほかの保育所や公民館、自宅訪問などで一時預かりを行う場合、自治体への補助を引き上げ、利用者の負担を軽減する対策を新たに2月8日発表しました。

“必要なもの”を途切れさせないために

子どもの通う園が休園となったことで感じた登園の是非をめぐる疑問を解こうと、保護者、保育園、行政の担当者に取材してきました。

何となく感じていたモヤモヤがすっきり解消したわけではありませんが、感染拡大を防ぎつつ、保育機能を継続しようと日々模索が続いていることはわかりました。

きょう、あすに新型コロナウイルスがなくなるようなことも期待できない中、子どもを持つ親としてどう向き合っていけばいいのか、保育園や行政には何が求められるのか、最後に聞いてみました。

話を聞いたのは、保護者の声に向き合っている「保育園を考える親の会」の普光院亜紀さん。普光院さんは、休園をめぐるいまの状況を、ひと言でこう表現しました。

『誰かが悪いというわけでは決してないけれども、みんなが困っている』

この難しい状況でも、ライフラインとも言える保育園などに子どもが通い続けられるよう、保護者と園、それに行政が手を携えながら考えていく必要があると訴えています。

保育園を考える親の会 普光院亜紀さん
「さまざまな保護者の声に触れていて感じるのは、家庭の状況だったり仕事が休めるかどうかとか、おのおのに向き合っている状況がまったく違っていて、いまはそれぞれがおかれている状況のもとで必死に持ちこたえているんだろうということ。感染症に対しての受け止め方、感じ方が人によって大きく異なるなかで“みんなが同じように行動しないといけない”というような考え方で対立や分断を生むのではなく、いまだからこそできる人ができることをして社会全体で感染のリスクを下げていくという姿勢が大切だと感じます。保護者も、園も、行政も、お互いがお互いにコミュニケーションとって協力し合って感染症に立ち向かっていくかということがすごく問われているというふうに思います」

もうこれ以上、感染を広げたくないという気持ちは誰にとっても同じです。

ただ、そのために何ができるかは、人それぞれに違います。

普光院さんが指摘するように「できる人ができることをして社会全体で感染のリスクを下げていくという姿勢」を忘れずに考え、行動していかなければこの危機は乗り越えられない。今回の取材を通じて、その思いを強くしました。