「コロナ後遺症」って何?
いつまで続く?専門家に聞きました

2022年6月16日

新型コロナウイルスに感染した人は、2022年6月中旬の時点で国内で900万人以上。コロナから回復したあともさまざまな体調不良に悩む人も多く、「後遺症」と考えられています。
どんな症状が後遺症なのか、いつまで続くのか、発症の仕組みは。分かってきたことについてまとめました。

コロナから回復したのに さまざまな症状が…

新型コロナから回復したあと、長期にわたって体調不良に悩まされた人がいます。
埼玉県内に住む20代の男性は、おととし7月下旬、コロナに感染しました。

社会人1年目で、IT関連会社で営業職として働いていた男性。39度を超える発熱に、頭痛やだるさ、そして、味やにおいを感じないといった症状が出ました。

ホテルで2週間療養したあとに回復し、発熱や呼吸ができないほどの苦しさは徐々になくなりましたが、けん怠感、嗅覚・味覚の異常などは続いたといいます。

その後、8月には会社に復帰。疲れやすい状態やせきは続き、味とにおいの感覚が戻らないため、食事も満足にとれなかったということです。

さらに9月には頭に“もや”がかかったようになって思考力が低下し、簡単なメールの文章も書けなくなったということです。ストレスからか、なかなか眠れず、気分が沈んだ状態が続くようになり、精神科で『コロナが原因のうつ』と診断されました。

この頃、コロナの後遺症を診る外来で、「後遺症」と診断されました。
男性はいったん休職して治療に専念しました。

(男性)
「これから先、会社員を続けられるのか。うつの症状まで出て、本当にこれが自分なのかと混乱もしていました」

その後、男性は症状がやや治まり、感染から9か月ほどたった2021年3月には仕事に復帰しました。

しかし、感染前のようには体力が戻らず、けん怠感も続き、日常生活の中で吐き気を感じることが多くなり、2021年10月には精神科で適応障害だと診断されました。

肉体的にも精神的にも限界を感じ、退職するに至りました。

(男性)
「僕が感染したあとで会社でも感染した人が結構出ましたが、ワクチンや薬があったことで後遺症が出ても早く治るケースがほとんどでした。なぜあなたは長く続いているのかと比べられ、治すために全力を尽くしていましたが、自分の気持ちが周囲とかみ合わなくて、ちょっときついなと感じることもありました。体力が続かなくて、以前のように働けないという申し訳なさもありました。気持ちと体がついてこず、精神的なダメージは大きかったです」。

“コロナ後遺症” 長期間続くことも

WHO=世界保健機関は「新型コロナの発症から通常3か月間以内に出て、少なくとも2か月以上続く、ほかの病気の症状としては説明がつかない症状」を「コロナ後遺症」としています。

長く続くこともあり、英語では「Long COVID」と呼ばれています。
主な症状としては、けん怠感や息切れ、記憶障害や集中力の低下、嗅覚や味覚の障害などがあるとされています。

どれだけの期間続くのか。

高知大学の横山彰仁教授を中心とした厚生労働省の研究班は、2021年9月までの1年ほどの間に入院した中等症以上の全国1000人余りを対象に、医師の問診や患者へのアンケートで、どのような症状が出ているか3か月ごとに調べました。

感染から3か月後の時点では、
▽筋力の低下があった人はおよそ50%、
▽呼吸困難が30%、
▽けん怠感が25%、
▽睡眠障害が20%余り、
▽思考力の低下と筋肉痛、せきが18%ほどでした。

複数の症状が出ていた人もいました。

症状を訴える人は時間の経過とともに減る傾向がみられ、1年後では
▽睡眠障害があった人は10.1%、
▽筋力低下が9.3%、
▽呼吸困難が6.0%、
▽思考力低下が5.3%、
▽せきが5.0%、
▽けん怠感が4.9%、
▽筋肉痛が4.6%となっていました。

何らかの症状を訴えた人は、全体の13.6%に上りました。

呼吸器の症状が重かった人は後遺症がより強くなる傾向がみられたということです。

また、慶応大学の福永興壱教授を中心とする厚生労働省の研究班は、コロナで軽症だった患者から重症になった患者までの1000人余りを対象に、診断から1年間にどの程度、後遺症がみられたか患者に対するアンケートで調べました。

それによりますと、1年後の時点でも、
▽けん怠感を訴えた人が12.8%、
▽呼吸困難が8.6%、
▽筋力の低下と集中力の低下が7.5%、
▽記憶障害が7.2%、
▽睡眠障害が7.0%、
▽関節痛が6.4%、
▽筋肉痛が5.5%、
▽嗅覚障害が5.4%、
▽たんが5.2%、
▽脱毛が5.1%、
▽頭痛が5.0%、
▽味覚障害が4.7%、
▽せきが4.6%、
▽手足のしびれが3.9%、
▽眼科症状が3.6%だったとしています。

何らかの症状を訴えた人は全体の33%だったとしています。
(※文末に詳しいデータを掲載しています)

2つの研究班は研究の手法が異なっていて、高知大学の研究班では患者へのアンケートと医師の問診などを行ったのに対し、慶応大学の研究班は患者のアンケートに基づいていることから、症状の頻度に差が出ているとみられます。

また、どちらの研究班も感染していない人との比較などは行っていないため、個別の症状がコロナの後遺症なのかどうかは断定できないとしています。

こうした症状に対してさまざまな治療が試みられていますが、特異的なものはなく、症状に応じた対症療法で対応しています。

どこまでが後遺症?

しかし、WHOが定義する「コロナ後遺症」に含まれる症状は多様で、すべてコロナによって引き起こされたものなのかどうかについては、各国の専門家の間でも議論があります。

厚労省研究班で代表をつとめた、高知大学の横山彰仁教授はコロナの後遺症なのか、コロナの感染後に出た別の症状なのか、判断するのは現時点では難しいと指摘します。

(高知大学 横山彰仁 教授)
「われわれの研究でも、感染していない人でどれくらい症状が出るのかなどの比較対照がないので、コロナによる後遺症なのかどうか、非常にわかりにくいのが問題です。少なくとも肺の画像に異常があって、息苦しさを訴えている人は後遺症の可能性は高いですが、睡眠障害や精神的なものなどはどこまでがコロナによるものか、はっきり分からないのが現状です。実はほかに原因があることもあり、しっかり診断をしなければ患者さんも不利益をこうむることになります。コロナの後遺症と言われている中に、別の病気もあって治すことができることもあると思います。将来的には、健康な人たちやコロナ以外の肺炎にかかった人たちと、コロナにかかった人たちを比べて、実態をより正確に把握することが必要になると思います」

後遺症が出るメカニズムは?

コロナから回復したのに、さまざまな症状が長く続くメカニズムはどこまで分かっているのでしょうか。

免疫学が専門の、イエール大学の岩崎明子教授は4つの仮説が有力だとしています。

(1)せきや熱といった初期の症状がおさまっても、残ったウイルスやその断片が長期にわたって炎症を起こしている
(2)本来、体を守るはずの免疫が自分の体を攻撃している
(3)感染によってダメージを受けた臓器の修復が長引いている
(4)ヘルペスウイルスなど、以前から体内に存在していたウイルスが再活性化している

これらの要素が組み合わさって、さまざまな症状が引き起こされていると考えられるということです。

岩崎教授はこうした症状が出るのは、コロナで重症化した人に限らないことを懸念しています。

アメリカで行われた研究では、長期にわたって症状を訴えた人の75%が、コロナ感染時に入院治療を受けていない人で、無症状や軽症でも、コロナ後遺症になるリスクがあると考えられています。

(イエール大学 岩崎明子 教授)
「ウイルスがどこかに潜伏していて、それが炎症を起こして他の臓器にもいろいろな症状が出ているんじゃないかというのが、いちばん当たっているんじゃないかといまは考えています」「コロナの症状が全く出なかった人でも2、3か月すると、ロングコビッド(後遺症)のような症状が出始める人もいます。ワクチンを打った人では後遺症になる率が低いという報告も出ていますが、その率は報告によってばらつきがあります。ワクチンを打ったからと言って安心はできないと思っています」

思考力落ちる “ブレインフォグ” とは?

また、コロナの後遺症の1つとして、頭にもやがかかったように感じて、思考力が低下する「ブレインフォグ」と呼ばれる症状があるとされています。

脳神経内科が専門で、後遺症に関する厚生労働省の「診療の手引き」の作成にも携わった岐阜大学の下畑享良教授は、「ブレインフォグ」はMRIや血液検査でも異常が出ないことが多く、診療現場でも判断が難しいと指摘します。

一方で、どうして引き起こされるのかについては研究が進んできているということです。

(岐阜大学 下畑享良 教授)
「海外の動物実験などから分かってきたことは、新型コロナに感染して全身に炎症が起き、自分の体を攻撃してしまう自己抗体や、炎症を引き起こすサイトカインと呼ばれる物質ができるということです。それが血流に乗って脳までいって、炎症を引き起こすことが原因ではないかと考えられています。いまは対症療法しかないため、仕組みを理解して治療面でも改善を図っていくことが重要です」

オミクロン株 後遺症は少ないが…

2022年に入って以降、オミクロン株の感染が拡大し、2021年までの感染拡大とは桁違いの人が感染しました。

オミクロン株による後遺症はどの程度分かっているのでしょうか。
東京都は、都立病院などに設けた新型コロナの後遺症に関する相談窓口に、4月までの4か月間に寄せられた2000人余りの症状をまとめています。

それによりますと、
▽せきを訴える人が38.6%、
▽けん怠感が34.0%、
▽味覚の異常が10.6%、
▽嗅覚の異常が9.5%でした。
(※文末に詳しいデータを掲載しています)

味覚や嗅覚の異常、脱毛は、デルタ株などに感染した人と比べると大きく減少していると分析しています。

また、国立国際医療研究センターのグループは、オミクロン株に感染した人と、以前に広がったウイルスに感染した人と年齢や性別、ワクチン接種歴などの条件を合わせて比較した研究結果を発表しました。

その結果、後遺症とみられる症状が出たのはオミクロン株では10分の1ほどにとどまったとしています。ただ、オミクロン株は感染者数が格段に多いため、今後、後遺症に悩む人は多くなるおそれがあると指摘しています。

イギリス政府のデータでは、後遺症を訴える人の頻度は、ワクチンを2回接種していた場合、オミクロン株ではデルタ株の半分程度としています。この中では、これまでのところ、オミクロン株のほうが症状が長く続くという報告は出されていません。

後遺症患者のケアを

冒頭に紹介した20代の男性は、感染してから1年半近く、けん怠感や吐き気などの症状が続きました。

2022年1月ごろになって、症状がおおむね治まったあと、職業訓練校でプログラミングの基礎を学び、将来はシステムエンジニアとして働こうと考えているということです。

(男性)
「体調がようやく元に戻って本当によかったです。ただ、体力は以前の8割程度と完全には戻っていないので、無理せずに働ける道を模索しています」

現在のところ、どこまでがコロナ後遺症なのか、どのように引き起こされるのか、まだ解明されていない部分は大きいですが、患者を診ている専門家2人は、症状が出ている人たちに対するケアの重要性を指摘しています。

(高知大学 横山彰仁 教授)
「原因が何であるにしろ、症状で苦しんでいる人がいるのは事実で、患者にきちんと対応することが必要です」

(岐阜大学 下畑享良 教授)
「実際に脳に炎症が起こっている人がいる一方で、自分の症状に悩んでメンタル面でさらに症状を悪化させていることもあり、実態はかなり複雑ではないでしょうか。原因は何であろうと、患者さんをしっかりと支えていくことが大事だと思います。新たに出てきた症状なので、研究にもきちんとお金をかけ、専門の診療センターを作るなどして、患者さんを精神的に支援したり、社会がきちんとその実態を理解することも必要です」

★★記事で紹介したデータの詳細★★

慶応大学を中心とする厚生労働省研究班の調査

東京都のデータ