“シルバーデモクラシー”に挑戦する若者たち
増加する有権者登録
今回のイギリスの総選挙では、ジョンソン首相率いる保守党が「離脱」、そして主な野党が「再び国民投票を」と訴えています。
ここで注目されるのが若者たちの投票動向です。昨年の調査では若者の実に8割もが離脱に反対しているからです。
その若者たちの勢いは有権者登録の申請数に表れています。前回の総選挙では議会が解散してから有権者登録の締め切り日までのおよそ1か月で新たに登録を申請した人は230万人余りでした。これに対して今回は310万人。このうち35才未満は3分の2を占めます。
3年前、投票できなかった
イギリスの離脱が決まった3年前の国民投票。しかしこの3年間で投票ができる年齢になった若者たちの間には、当時、選挙権がなく、投票できなかったことへの不満が広がっています。
イギリス南部のブライトン近郊に住むフランク・チェンバレンさんは現在大学1年生。イギリスはEUに残るべきだと考えていて、選挙では労働党を支持しています。
出会ったこの日も、朝から晩まで戸別訪問やビラ配りなどを手伝っていました。
活動はすぐにツイッターで写真付きで報告。SNSで全国の仲間たちと定期的に連絡を取り合います。
3年前の国民投票のときは15歳でした。投票日、「まさか大丈夫だよね」と友人たちと話していましたが、結果は離脱。「本当に信じられなかった。友人たちもみんな泣いていました」と振り返ります。
なぜここまで強いショックを受けたのか。チェンバレンさんは、フランス語教師だった祖父の影響を受け、大学でフランス語を専攻しています。将来はEU域内で、通訳や外交関係の仕事に就く夢を抱いていました。しかし、離脱すれば機会が失われてしまう可能性があります。また、イタリアやポーランドなどEUにルーツを持つ多くの友人たちが、今後イギリスでどのような立場に置かれるのかも心配です。
チェンバレンさんは、選挙結果をいわゆる“シルバーデモクラシー”によるものだと感じています。
チェンバレンさん
「僕よりもずっと年上の家族は、あれは民主主義の結果だったっていうけど僕にはそう思えない。EU離脱に投票したのは高齢者ばかりだった。高齢者は僕らよりもずっと社会から早く退場するわけで、この先、影響を受けるのは僕らの世代。若い世代には未来の様々な選択肢が与えられるべきだ」
実際に、3年前の国民投票を分析した調査機関(英調査機関ロード・アシュクロフト)によると、18歳から24歳のうち73%が残留を支持。しかし65歳以上では60%が離脱に票を投じるなど年齢が上がるにつれ離脱派が増えています。離脱問題は世代間闘争の様相を呈しているのです。
タクティカル・ボーティング
ただ、労働党は公約でEU離脱か残留か、立場を明確にしておらず、そうしたあいまいな姿勢が批判の的となってきました。
一方で、スコットランド民族党や自由民主党は残留を明確に打ち出していますが、政党の規模が小さく、離脱を推し進める保守党を追い詰めるだけの受け皿がありません。このままではいわゆる「離脱票」が分散するおそれがあるのです。
そこで広がっているのが「戦略的投票(タクティカル・ボーティング)」という戦術です。離脱を阻止するために、自らの支持政党でなくても「勝てる候補」に投票し、いわゆる「死票」を減らそうという取り組みです。
さらに学生たちには、大学がある場所と地元のどちらかの選挙区を選んで投票できるという利点があります。このため、保守党に野党が勝てる可能性がより高い選挙区を選ぼうという活動が活発に行われています。
インターネットには、郵便番号を入力すると自動的にどの党に入れれば保守党に勝てる可能性があるか表示されるサイトが次々に立ち上がっています。
今回の選挙では有権者の3分の1が、こうした「戦略的投票」を行うとする調査結果も出ています。
若者は風を吹かせられるか
昨今、温暖化対策デモや政府への抗議活動など、世界の様々なうねりのなかで「若者」の動向が注目されるようになってきています。
イギリスの若者たちは、選挙で風を起こす存在となるのか。12日の投票日まで学生たちの選挙戦は続きます。
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