チーム最年少が“4番目”
2位に順位を上げて永井選手につないだ。
日本はリレハンメル大会以来、28年ぶりとなる団体でのメダルを目指して、24歳から38歳までの4人で臨んだ。
エースの渡部暁斗選手と、いずれも3大会連続出場の渡部善斗選手と永井秀昭選手、それに初出場の山本涼太選手だ。
日本がメダルをつかむために最大のライバルと見られていたのが
「ドイツ」「ノルウェー」「オーストリア」の3強。
日本が前半のジャンプでどれだけの差をつけられるかが、大きなポイントだった。
1人目、渡部暁斗選手は風がめまぐるしく変わり、飛距離を伸ばせず4位。
それでも2人目の善斗選手がほかの選手が飛距離を伸ばせない中、133メートル50をマークし、この時点でトップに立った。
しかし、3人目の永井選手は128メートル50。
日本は3位も、この時点で後半のクロスカントリーのスタートは、トップのノルウェーとは6秒差。
差を広げられず、最後の山本選手に任された。
“先輩方と一緒 大きく胸を借りるつもりで”
チーム最年少の山本選手はその日の昼食、牛肉のしぐれ煮を食べながら「4番目かぁ」と緊張が高まってくるのを感じていた。
山本選手の飛距離次第で後半のクロスカントリーのタイム差が決まるからだ。
3人を終え3位で迎えた4人目。
山本選手はジャンプ台でのスタート直前に気持ちを切り替えていた。
山本涼太選手
「先輩方と一緒なので大きく胸を借りるつもりで。リラックスして飛べる状態になった」
飛距離は135メートル。
4人目の中では3番目となり、日本は4位で後半のクロスカントリーに進むことになった。
狙いどおりにクロスカントリーのタイム差は広げられなかったが、3位のドイツとはわずか1秒差、トップのオーストリアまでも12秒差と最小限に食い止めることができた。
【ジャンプ終了時点の順位】
1位 オーストリア
2位 ノルウェー(+8秒)
3位 ドイツ(+11秒)
4位 日本(+12秒)
ジャンプを飛び終えて取材エリアに姿を見せた山本選手に、大混戦の中でメダル獲得のカギを聞くと即答した。
山本涼太選手
「僕の走力でしょうね。どれだけ粘れるかだと思う。集団でどうこうより“自分らしさ”を出せたら」
この自分らしさとは「ぱっとしない割には、飛んでいく、走れること」。
山本選手の説明を借りれば、あまり目立っていないが、何となく周りが気付いたらジャンプを飛べているし、クロスカントリーも滑れているという意味だ。
日本の戦略 “山本の走力は成長している”
後半のクロスカントリー。リレー順が選手に伝えられたのは、ジャンプが終わったあとだった。
1人目:渡部善斗
2人目:永井秀昭
3人目:渡部暁斗
4人目:山本涼太
この狙いについて日本代表の河野孝典ヘッドコーチはー
「前回のピョンチャン大会では、4位だったが、最後までメダル争いができなかった。今回は最後までトップ集団から遅れたくなかったので、3番目を走力のある渡部暁斗選手に任せた。山本選手も個人のレースでは苦しい状況が続いたが、走力は成長している」
メダルへ 3強との争い
後半のクロスカントリー。
1人目の渡部善斗選手は、トップを走るオーストリアを3位のドイツと協力して捉えようと考えていた。
渡部善斗選手
「今回のような展開で遅れて終わってしまったことを何十回も何百回もやってきている。きょうだけは、しっかりメダルを取りに行くぞという気持ちで滑った」
これまで世界選手権やオリンピックでの苦い経験が善斗選手を滑らせていた。2.5キロ付近でともに集団で走っていたノルウェーが遅れ「調子がよさそうで、すぐに反応していた」というドイツに食らいついていった。
最後の直線、力を振り絞って勝負を仕掛けた。
渡部善斗選手
「少しは成長した姿を見せられた」
2位に順位を上げて永井選手につないだ。
最後のオリンピックと臨んだ38歳の永井選手。
滑り出した時からただ1つのことを思っていた。
永井秀昭選手
「集団から絶対に離れない。(次の)暁斗に託すことだけ」
クロスカントリーで圧倒的な力を持つドイツやオーストリアの選手たちがペースを上げ下げして揺さぶってきたものの、最後まで粘りの滑りを見せて集団から離れずに渡部暁斗選手につないだ。
渡部暁斗選手
「誰かを離して(最後の)涼太につなぐことが僕の仕事」
渡部暁斗選手は4秒余り先をトップで走るオーストリアの選手に追いつくことを目指した。
しかし、すぐに差を詰めたものの思ったよりも体力を使ってしまった。
フィニッシュ前のノルウェーのスパートに対応できなかったと悔やんだが、それでも2位で走り終えた。
渡部暁斗選手
「走りも精彩を欠いてしまったんで、本当にチームのみんなに助けてもらった。涼太もいい滑りをしてたので、何とかしてくれるだろう」
勝負時はラスト200m とにかく“自分らしく”
最終、4人目の山本選手。
ジャンプを終えたあとに“4人目”と聞かされ、率直に「マジですか」と思ったという。
それでもコーチからことばをかけられて少し気持ちがらくになった。
「最後はみんながつないできてくれるから、自分の思うようにやったらいい」
“自分らしさ”を出そうと決めた山本選手。
トップを走るノルウェーはかなり先を行き、2位から4位の3人で2つのメダルを争う状況だった。
目の前にはずっと、今大会個人ノーマルヒル金メダリスト、ドイツのビンツェンツ・ガイガー選手がいた。
山本選手はガイガー選手の滑りを見て「すごくためている」とどこかで仕掛けようとしている様子を感じ取るなど冷静に分析していた。
さらに真後ろについていれば、どんな状況になっても対応できると考えた。
目立つような走りはできないが、自分らしくとにかく粘り強くトップについていった。
そして、勝負の時を“最後の200メートル”と読んだ。
その時に向けて、周囲のスピードが遅くなった時はしっかりと体力を温存し、虎視たんたんとその時を待った。
そして残り200メートル。
ついに4位を引き離した。まさに作戦どおりだった。
冷静にレース展開を見極め、初めてのオリンピックで団体の最終走者という役割を果たした山本選手。
彼が“自分らしさ”を貫いたことがメダル獲得につながった。
そしてフィニッシュ。
経験豊富なベテランたちに抱きしめられた。
ようやくホッとした瞬間だった。
最後まで競り合ったオーストリアの選手は「日本が集団から遅れる状況を望んでいた。きょうは最後まで強かった」とこれまでとは段違いのレースを見せた日本をたたえた。
ノルディック複合団体 日本の新たなスタイル
4年間かけてベテランと若手が強化してきたクロスカントリーで、圧倒的な走力を持つヨーロッパの国々との戦いに一歩も譲らずもぎ取った銅メダル。
ジャンプで差をつけてクロスカントリーで逃げきるこれまでの日本の勝利の方程式ではない“クロスカントリーで競り勝つ”という新たな形は未来へつながる大きな1歩となった。
渡部暁斗選手
「団体のメダルの喜びは、これまで僕だけしか体感していなかった。そこから長い時間がかかってしまったが、この瞬間をみんなで共有できてすごくうれしいし、こういう気持ちがあとに続いていく日本の未来にとっていいメダルになった。競技が長く続いていく中で低迷期が来ないためには、そういう経験を1人1人がしていくことが重要だ」
今大会、一番の笑顔とともに少しだけ誇らしげに語っていた。