この場所で希望の炎が輝いていてほしい

池江璃花子

競泳

新型コロナウイルスの感染拡大で延期された東京オリンピックの開幕まで1年となった2020年7月23日。開会式の会場となる国立競技場。1人ピッチに立った池江璃花子が、世界に向けてメッセージを送った。

「池江璃花子です。きょうは、1人のアスリートとして、そして1人の人間として少しお話しさせてください。本当なら、あすの今ごろ、この国立競技場では、TOKYO2020の開会式が華やかに行われているはずでした。

私も、この大会に出るのが夢でした。

オリンピックやパラリンピックはアスリートにとって、特別なものです。その大きな目標が目の前から、突然消えてしまったことは、アスリートたちにとって、言葉にできないほどの喪失感だったと思います。

私も、白血病という大きな病気をしたから、よく分かります。

思っていた未来が、一夜にして、別世界のように変わる。それは、とてもきつい経験でした。そんな中でも、救いになったのは、お医者さん、看護師さんなど、たくさんの医療従事者の方に、支えていただいたことです。

身近で見ていて、いかに大変なお仕事をされているのか、実感しました。しかも今は、コロナという新たな敵とも戦っている。本当に感謝しかありません。ありがとうございます。

2020年という、特別な年を経験したことでスポーツが、決してアスリートだけでできるものではない、ということを学びました。

さまざまな人の支えの上に、スポーツは存在する。本当に、そう思います。今から、1年後。オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなに素敵だろうと思います。

今は、一喜一憂することも多い毎日ですが、一日でも早く、平和な日常が戻ってきて欲しいと、心から願っています。

スポーツは、人に勇気や、絆をくれるものだと思います。

私も闘病中、仲間のアスリートの頑張りにたくさんの力をもらいました。今だって、そうです。練習でみんなに追いつけない。悔しい。そういう思いも含めて、前に進む力になっています。

TOKYO2020

きょう、ここから始まる1年を単なる1年の延期ではなく、『+1(プラスワン)』と考える。それはとても、未来志向で前向きな考え方だと思いました。

もちろん、世の中がこんな大変な時期に、スポーツの話をすること自体、否定的な声があることもよく分かります。

ただ、一方で思うのは、逆境からはい上がっていく時には、どうしても、希望の力が必要だということです。

希望が、遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても、前を向いて頑張れる。

私の場合、もう一度プールに戻りたい。その一心でつらい治療を乗り越えることができました。

世界中のアスリートと、そのアスリートから勇気をもらっているすべての人のために。

1年後のきょう、この場所で希望の炎が、輝いていてほしいと思います。

競泳選手 池江璃花子」

競泳