頑張りすぎず、今は貯める時

大野将平

柔道

日本柔道界の期待を背負いオリンピック2連覇を狙う大野将平。2020年春、東京オリンピック延期のニュースが世界を駆け巡り、すでに決定していた代表内定が維持されるか議論のさなかにあっても泰然自若としていた。

「自分でコントロールできないことにエネルギーを注ぐよりも、今できる稽古、トレーニングをひたむきにするだけ」

相手を圧倒する柔道で、2016年のリオデジャネイロオリンピックを制した大野。この年からみずからに課してきた、ただひとつの決まりごとは、「1日1回、体を動かす」。日本男子の井上康生監督から授けられたものだ。オリンピック金メダリストの先輩は、“背負いすぎず、気負いすぎず”と次のオリンピックまでの4年間の過ごし方を説いた。

大野は2017年には、大学院での研究でおよそ1年間、競技から離れたものの、この言葉を心に留め、1日1回のトレーニングを欠かさなかった。
2018年のアジア大会で本格的に復帰して以降、国内外の大会を6大会続けて制し、休養期間を経たあとも王者の強さに陰りはなかった。

「体さえ動かしていれば、ちょっとやそっとで力が落ちることは無いと。そういう経験が財産になっているので、これを生かしてこの時間を過ごしていきたい」

新型コロナウイルスの影響で、2020年4月以降は、稽古ができない日々が続いた。
対人競技ゆえに感染防止対策の難しさもあり、相手と組み合っての稽古は当面、自粛が求められている。大野は、活動拠点の奈良県天理市内にこもって自己啓発のリポート作成や試合映像の分析など、みずからを見つめなす時間に充てる。
その一方で階段を一気に駆け上がるダッシュなどで1日1回、汗をかくことを忘れていない。

「オリンピックが来年開催されるかはわからないですが、直近の目標は2連覇と混合団体の優勝、これは変わらない。でも、これがもし無くなった場合は、次の目標を立てるだけ。柔道を辞めることはない」

大会再開のメドが立たない状況でも己の心の持ちようにブレはない。
唯一、気にかけているのは、柔道を志す子どもたちや後輩のことだ。有志たちとともに1人でできる得意技の打ち込みやトレーニング方法をSNSにアップしたほか、小学生を相手にオンラインの柔道教室も開いた。
誰もが予想すらしなかったであろうウイルスの感染拡大が続く中、柔道選手、そして柔道家として今、大切なことは何か。

「何か1つ継続すること。あとは頑張りすぎないこと。人間、毎日頑張れるわけではない。
来るべき時に向けて今は貯める、エネルギーを貯める。そういう感覚でいいんじゃないかな」

多くを欲張らず時を待つという王者の心構えが、ウイルスの終息と本格的な柔道再開に向けた道しるべとなる。

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