最初で最後の挑戦。悔いはありません

金井大旺

陸上

東京オリンピックの準決勝は誰も想像していなかった結末だった。オリンピックで57年ぶりに日本選手として準決勝に進出した金井大旺。史上初の決勝進出を目指し、持ち味である絶好のスタートでいい位置に出た。
しかし、海外の強敵たちがスピードを上げ横に並んだあたりでリズムが崩れる。
8台目のハードルで金井は転倒した。

それでもゆっくりと立ち上がった金井は再び走り始めた。残りのハードルを跳び越えフィニッシュした。タイムは26秒11。準決勝で敗退した。

「東京オリンピックは、ぼくにとっては最初で最後の挑戦なので」

金井は今シーズンを最後に、競技生活に区切りをつけることを公言してきた。
2021年4月の織田幹雄記念では、リオデジャネイロオリンピックで、銀メダルに相当する13秒16という当時の日本記録をマーク、旬を迎える中で終わりを見据えていた。

それは歯科医師の道へと進むためだ。小さいころから歯科医師の父の背中を見てあこがれを抱いてきた。

「歯科医師を目指すためにも、東京オリンピックは自分の中で最初で最後と決めている。次がないと決めているからこそ、日々のトレーニングからやっぱり自分の限界までできている。競技生活の最後を決めているのが、プラスになっている」

そもそも金井は歯科医師の夢もあり、大学の4年間で競技から退く考えだった。その後も競技を続けてきたのは、東京オリンピックを目指せる可能性をみずからに見いだしたからだ。

「東京オリンピックは選手としては一生に間違いなく1度しかない。いい年齢で迎えられる選手はごくわすかだと思うので、この20代の時に開催されるチャンスを絶対逃したくなかった」

延長した競技生活は新型コロナウイルスの影響でさらに延びた。
延びた1年もむだにはしなかった。冬場には筋力を強化するため徹底的にみずからを追い込んだ。スプリント力は伸び持ち前のハードリング技術を適応させた。そして、ことし4月、13秒16までタイムを縮めた。

「競技を続けてこの道に進んでよかったと思う。東京オリンピックは、ぼくにとっては最初で最後の挑戦。集大成として、悔いなく終わりたい」

最後の挑戦の舞台。金井は転倒しても立ち上がって再び走り始めた。
自己ベストより10秒以上遅いタイムだったが、フィニッシュラインを越えることが必要だった。レース後、金井は競技場に一礼した。

「悔しいですが悔いはありません」

終わりを見据えてみずからの限界に挑んだ時間。
そしてオリンピックの舞台で見せた姿は、決して色あせない。

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