足がつっても相手に向かっていく

宮路早恵子

剣道

40歳で競技の第一線に復帰した女性剣士が京都にいる。

「剣道が好きなんですよ」

そう笑って話すのが15年前の世界選手権、個人戦で優勝を果たした宮路早恵子だ。その活躍は豊富な練習量に支えられてきた。

京都市内の高校で教師をしている宮路は、若いころは仕事を終えた夜に警察学校や地元の剣道連盟の練習に出向くなどして剣を磨いてきた。疲労骨折をしても練習を続けようとして、周りから止められるほどの“練習の虫”だった。

「いろいろな人たちに『稽古させてください』とお願いをして稽古をつけてもらって、今の自分があると感じている。自分なりに稽古を積んできたことが自信となって、今の自分の剣道が確立されている」

宮路は2018年の世界選手権で女子日本代表のコーチを務めたのをきっかけに、一度、競技の第一線から退いた。さらに左ひざの前十字じん帯を損傷していたことが分かり、以前のように練習ができなくなった。

「稽古しているうちに(じん帯が)すり減ったのではないか、という診断だった。年齢とともに筋力が落ちてきてたことも原因だったと思う」

そうした中、2021年の全日本選手権を前に宮路は再び、競技の第一線を目指すことを決める。そこには教え子たちへの“ある思い”があった。

新型コロナウイルスの影響で、かつて日本代表で指導した警察官の選手たちが、全日本選手権への出場を自粛せざるをえなかった。宮路は大会に出場して必死な姿を見せることで試合に出られない後輩たちを勇気づけたいと考えたのだ。

「稽古ができない中でもがいている選手がたくさんいる。自分が思い切って剣道をすることで何か刺激を受けて、がんばってもらえるいい機会になったらいい」

宮路が予選会に向けて本格的に取り組んだのが体のケアだった。毎週欠かさず、接骨院に通って、ひざを中心にマッサージ。練習も徐々にできるようになり、基本技の稽古を積み重ねて大会に出場できるまでに回復した。

2021年1月の予選会。宮路は決勝まで勝ち上がり、強豪校に通う大学生と対戦した。宮路はけがを感じさせない動きで相手の素早い技を交わすなど、機会をうかがった。延長に入り、最後は相手が打ち込んできたすきを逃さず、得意のメンを決めて一本勝ち。世界を制した勝負勘で6大会ぶりの全日本選手権の切符をつかんだ。

「基本負けず嫌いなんで、目の前にいる相手に負けないということを考えて、やっていた。試合で優勝したのは久しぶりだったので、“勝ったんだな”って喜びがわいてきた」

コロナの影響で試合に出場できないなど、苦境が続く剣道界。40歳にして第一線に復帰した不屈の精神で宮路は後輩たちを鼓舞していく。

「足がつっても相手に向かっていく。『先生、がんばっているな』『粘っているな』と感じてもらえるように粘って粘って自分らしい試合をしたい」

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