あの子は障害を見ていなかった。1人の人間として見てくれた

ダニエル・ディアス

パラ競泳

それはまるで名物のカーニバルのような光景だった。パラ競泳の英雄、ダニエル・ディアス。2016年リオデジャネイロパラリンピックの会場に姿をあらわすと、黄色と緑のブラジルカラーで埋め尽くされた観客席が、大歓声とスタンディングオベーションで揺れた。

生まれた時から両腕と右足に障害があるディアスは、パラリンピック3大会で金メダル14個を獲得した英雄だ。地元ブラジルで開かれたパラリンピックで印象的だったエピソードがあるという。

「子どもたちが『ダニエル、あなたは私にとってのヒーローだ』と言ってくれた。あの子は僕の障害を見ていなかった。見ていたのは意志の強さ、ガッツ、信念。障害のあるなしに関係なく、1人の人間として見てくれた。これをブラジルでは『無形のレガシー』と呼んでいる」

ブラジルに残る「無形のレガシー」は社会の考え方を変えた貴重な遺産だ。新型コロナウイルスの感染拡大で、大会開催の意義が問われる今だからこそ、その価値は輝くはずだと語る。

「パラリンピックで選手たちが、みずからを乗り越え、偉大なことを成し遂げ、人間の可能性を披露する。みんなの中には、どんな限界も乗り越えられる力があることを信じてほしい」

ディアスが自国開催のパラリンピックで経験した社会の変化が、次は東京にもたらされることに疑問の余地はないという。

「パラリンピックは世の中を変える力を本当に持っている。それはつまり、人間の価値を見せる力だ。東京パラリンピックが開催されれば、間違いなく、この『無形のレガシー』も残るだろう」

ブラジルの英雄の言葉が、ここ日本で実現する、その瞬間を目の当たりにするのはもうすぐだ。

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