かけられたハシゴを外された時。その人の本当の力が試される時

佐藤美弥

バレーボール

その人のことばは、いつも選手の心を揺り動かす。バレーボール女子日本代表のセッター、佐藤美弥は持ち歩いているノートの最初のページに中田久美監督のことばを書き込んでいた。

「かけられたハシゴを外された時 その人の本当の力が試される時」

「自分の中で迷いが出たとき、心が折れそうなときにノートを開いてはっとします。ここからが本当の自分の力だと思って」

2018年4月、佐藤は右肩のけがに苦しんでいた。国際大会を前に臨んだ代表合宿中に負ったけが。「せっかく選んでもらったのに申し訳ない」。責任感の強い佐藤がチームから離脱せざるを得ない状況を受け止めきれずにいた時、中田監督からメッセージを受け取った。

「しっかり乗り越えなさい。かけられたハシゴを外された時がその人の本当の力が試される時だから」

2020年。新型コロナウイルスの影響で東京オリンピックの延期が決まると、佐藤の心の糸は切れそうになっていた。ことし30歳の自分よりポジションを争う若い選手たちにとっては成長のチャンスとなる1年の延期。「すごく長いな」。現役引退もよぎった。
その時、中田監督のことばが、また、佐藤の心を動かした。

「かけられたハシゴを外された時。その人の本当の力が試される時」
「自分は何がしたいんだろうと振り返ったら、オリンピックに執着しすぎて見失っていた。それは、本当に自分が目指す選手に近づくということ。絶対に負けないという気持ちや、相手を揺さぶる遊び心。自分自身のプレーに可能性を感じてワクワクする選手になるという原点に立ち返ることができた」

原点に立ち再び、オリンピックに向けて歩み始めるこれからの時間。それが、佐藤の『本当の力が試される時』だ。

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