自信を本物にしたかった

田中希実

陸上

2020年夏、陸上の女子中長距離の2種目で日本記録を更新した田中希実。10月には日本選手権の女子1500mで悲願の初優勝を果たした。そのレースぶりは鮮やかだった。

序盤、スローペースで進むと600m付近からロングスパートを仕掛ける。ライバルたちは、田中の突然のスピードアップについていけず、最後まで一人旅。2位に5秒以上の差をつける圧勝劇だった。

「日本記録を出して自信がついたが、その自信を本物にしたかった。自分の持ちタイムに恥じないような堂々としたレースをしたいと考えていた」

田中は、両親がともに元陸上選手。とりわけ母親の千洋さんは、北海道マラソンで2回の優勝経験がある。幼い頃から身近に陸上があり、中学時代から序盤からハイペースで飛ばすレーススタイルで頭角を現してきた。 その一方で、最後までスピードを持続できず悔しい思いを続けてきた。

そんな田中を変えたのが、2019年の世界選手権。女子5000mに出場し、当時、日本歴代2位の15分0秒01の好タイムをマークしたが、結果は14位だった。

田中は世界で勝負することを念頭に厳しい練習に向き合い始めた。新型コロナウイルスの影響で、実戦の機会が失われるなかでも練習の強度をあげた。本番さながらの厳しいタイム設定で走ったあと、ジョグでつないで再び全力疾走。ハードな練習を繰り返したことで、心肺機能が高まり、終盤もスピードを維持できるようになった。

「自分がずっと理想としてきたようなレースができるようになってきている。走れる機会だけが輝いている。練習もすごくきついし、苦しい日々が続いている。だからこそ報われたいという思いを持って、しっかりこういう機会を無駄にせずに走れているのかなと思う」

次の大きな目標は2020年12月に行われる5000mの日本一を決めるレース。優勝すれば、東京オリンピックの代表にも内定する。世界の舞台で強くなった姿を見せるために、田中は走る。

陸上