乗り越えた先に絶対何かいいことがある

嶋基宏

野球

東日本大震災の直後、2011年4月に行われたプロ野球の復興支援試合。
楽天の選手会長だった嶋基宏のことばは、多くのファンの心に響いた。

「見せましょう、野球の底力を」

しかし、そのことばは、次第に嶋自身を苦しめるようになっていったという。
被災地のために勝ちたい。その思いとはうらはらに、チームは苦しい戦いが続いたのだ。
震災1年目は5位。2年目は4位。

「おまえ口だけだなとか、底力を早く見せてくれよとか、結構ヤジられました。
正直自分にとってはかなりのプレッシャーであったり、このことばで苦しんだこともあったり嫌な思いもしました。
あのことばを発しなければよかったと思うときも正直ありました」

それでも2013年。チームは、エース田中将大の活躍もあって初のリーグ優勝を達成。
巨人との日本シリーズは、ともに3勝ずつで迎えた最終第7戦。
楽天のリードで迎えた9回。監督の星野仙一は前日の第6戦で160球を投げ負け投手になっていた田中をマウンドに送った。田中はランナー2人を出したが、最後のバッターを空振りの三振。
その瞬間、嶋は、両手を空に突き上げ、マウンドの田中のもとに駆け寄った。
球団創設9年目、震災から3年目でつかんだ悲願の日本一。
あの時誓った“底力”を、被災地のファンに見せることができた。

「誰でもつらい時、しんどい時はあると思うんですけど、それを乗り越えた先には絶対に何かいいことがあったりする。少しずつでも前を向いて、歩いていくことが結果的に最後には、自分の道につながっていくと思いますね」

2019年オフ。嶋は楽天を退団することを決意。13年間過ごした仙台を離れ、ヤクルトへ移籍した。 震災から9年目の2020年3月11日。嶋が変わらぬ被災地への思いを口にした。

「簡単に頑張りましょうとは僕の口からは言えないが、野球選手として少しでも頑張っているところを見せることが仕事だと思う。被災した人たちに届くように元気をだしてプレーしたい」

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