パラリンピック “片翼の小さな飛行機”が見つけたもの

「WE HAVE WINGS(=私たちには翼がある)」
この言葉は東京パラリンピックの開会式のコンセプトです。
「勇気を出して“翼”を広げることで、思わぬ場所に到達できる」
パラリンピックにはそんな思いが込められていると13歳の少女は感じていました。開会式で行われた「翼」をテーマにしたパフォーマンスで「片翼の小さな飛行機」の主人公を車いすに乗って演じた和合由依さんです。豊かな表現力で役を演じた少女は、みずからの行動でも“翼”を手にしていました。

目次

    13歳が演じた“片翼の飛行機”

    東京パラリンピック開会式の直後、IPC(=国際パラリンピック委員会)の広報責任者、クレイグ・スペンス氏は「新しいスターが生まれた。恥ずかしいくらい泣いた」と主人公をたたえました。
    その主人公を演じたのが東京都内の中学校に通う13歳、和合由依さんです。両足などに障害があり左手も動かしづらい和合さんは車いすに乗って開会式のパフォーマンスで主人公の「片翼の小さな飛行機」を演じました。演技の経験はありませんが、5000人以上の応募者の中から主人公の座を射止め、その豊かな表現力はSNSでも話題になりました。

    和合由依さん

    「全くこんな反響があると思っていなくて。でも、自分たちがどう見られるかはずっと気にしていて。だから、そこがすごく怖かったです」

    和合さんが演じた主人公の「片翼の小さな飛行機」は大空を飛ぶことを夢見ていますが、翼が片方しかないため諦めていました。自分にも本当は“翼”があることに気付いていなかったのです。

    大空に思いをはせる「片翼の小さな飛行機」が、自由に飛び回るさまざまな飛行機たちと出会い、最後はみずからも飛ぼうと決意します。

    和合さんは小さな飛行機の悲しみや不安、喜びといった感情の揺れ動きを表情と体いっぱいのパフォーマンスで表現しました。

    物語のクライマックス。空港に見立てた国立競技場から飛び立つシーンではおよそ20メートルの滑走路を車いすで力いっぱい駆け抜けました。開会式の中でもひときわ印象的なシーンには和合さんの提案が生かされていたといいます。

    和合さん

    「演出家の人たちには、最後に滑走路を走る前にいっぱい体を動かしているので体力的に厳しいんじゃないかと心配されたのです。でも最後の滑走路の部分を自分の力でこぎたかった。走りたかった。そこは『自分で走りたい』と気持ちをちゃんと伝えたら、みんな納得してくれました」

    ふだんは電動車いすを使っている和合さんにとって、手でこぐ車いすでパフォーマンスをした最後におよそ20メートルを駆け抜けることは決して簡単なことではありませんでした。このためふだんからあえて重い電動車いすを手でこいで使うなどのトレーニングを積んだといいます。
    開会式が終わった直後、和合さんは人目もはばからず涙を流しました。

    和合さん

    「こうやって車いすを頑張ってこいで走るのも、人生で最後だったんじゃないかなと思っているので、最後に思ったのは、雨の中でも頑張って走り切れたなということでした」

    パラリンピックで気付いたこと

    東京パラリンピックが終盤を迎え翌日には閉幕するという日にインタビューに答えてくれた和合さん。開会式のコンセプトの「WE HAVE WINGS」という言葉について、パラリンピックを通じてある気づきがあったといいます。

    和合さん

    「私たちには翼がある。みんな目標を決めて、頑張っていくんだと。みんな本当に目標があってこそ、頑張っていくからこそ人の一生を表していると思いました」

    そんな和合さんにはパラリンピック選手の活躍で印象に残っている場面があると言います。ボッチャ個人で日本勢初めての金メダルを獲得した直後に杉村英孝選手が発した「僕は20年間、やってきたんです」という言葉でした。

    和合さん

    「この言葉がしっくりきて。経験したもの勝ちというか、楽しむという気持ちですよね。何でもやったもの勝ちだなと。楽しめないと頑張ろうとは思えないから、何かに熱中するのはすばらしいことだなと思いました。それで結果を出したことが、本当にすごいなと思いました」

    片翼の少女が行動で示したもの

    中学校で吹奏楽に取り組んでいる和合さん。小学4年で初めて挑戦しようとした時まわりに心配されて、考え直すように言われたといいます。それでも吹奏楽部に体験入部して金管楽器を続けているうちに、動かしづらい左手の手のひらや指の付け根を使って演奏できる自分なりの方法がわかってきたといいます。

    去年、母親から開会式のオーディションを勧められた時は「こんな大舞台、自分には無理だ」と最初はためらったといいます。それでも「ダメ元でも人生の経験としてやってみよう」と応募し、演じきった和合さん。
    大舞台での挑戦を「本当に楽しかった。また演技してみたい」と振り返りました。そして力強く話しました。

    和合由依さん

    「チャレンジすることって本当に大切だと思っているんです。なんでもやってみないとわかんないんだから、やる前からできないんだよと決めつけるのは違うんじゃないかなと思う」

    「誰にでも“翼”はあると思う。勇気をだしてチャレンジしてほしいし、自分の翼とは支えてくれる人や応援してくれる人の思いからできているものでもある。そういう人たちへの感謝の気持ちを忘れないで、羽ばたいていくのが“翼”だと思います」

    長い人生では時にうまくいかないことや高い壁に阻まれることもあります。

    パラアスリートが示し続けてきたその可能性を“片翼の13歳の少女”は確かに見つけ、みずからの行動でも表現していました。

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