「日本の本気を感じたんじゃないか」
9月24日夕方。東京 中央区晴海の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会。大会の準備状況を確認するIOC=国際オリンピック委員会の調整委員会が、新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されてから初めて開かれていた。
この日、焦点となっていたのは、新型コロナウイルスの感染対策。開催の可否を左右する最重要課題だ。日本側は、年内のとりまとめを目指す主要な感染対策の検討状況について、IOC側に報告していた。
その前夜、IOCとの情報共有に間に合わせようと、菅政権の誕生からわずか1週間ながら、政府主導の対策会議が開かれたばかりだった。
海外から参加する選手について、出国前や日本への入国時などに行うウイルス検査、国内での移動のルール、すべての行程を管理すること、など、説明は細部にわたった。
その夜。私たちの単独取材に、会議に出席した組織委員会の関係者が明かした。
組織委 関係者
「(会議の雰囲気が)すごくよかった。あるIOCのメンバーが『コロナ対策がこんなに進んでいると思わなかった』と発言した。体系的に取り組めているという印象があったようだ」
IOCの出席者からは、小国の選手団は出国前の検査を十分に対応できないのではないか、といった課題の指摘はあった。しかし、9月4日に立ち上げたばかりとは思えない日本側の対策会議の進ちょくに、称賛の声が相次いだという。
組織委 関係者
「『(大会は)本当にやれるのか』と思っていたが、ここまで検討を進めているし、国内外でスポーツ大会が行われていることを含めて、ワクチンの有無にかかわらずこれはやれるんじゃないか、と。確信、とまでは言い過ぎかもしれないが、『これはやれる』という全体の空気になった」
ふだんは冷静な関係者の発言だけに、重みを感じた。
会議自体は、オンラインのため、表情を生で感じ取ることはできない。しかし、会議に出席していた別の複数の組織委員会関係者も、異口同音だった。
会議に出席した組織委 関係者
「(IOC側は)これまでは『大丈夫かな』みたいなものがあったが、かなり前向きになった」
「日本の本気を感じたんじゃないか」
スポーツ再開の後押し
こうした空気が醸成された背景には、日本の対策ばかりではなく、ことし夏から一気に進んだ国内外でのスポーツ大会の再開がある。
8月からはテニスのツアーといった国と国の移動を伴う国際大会が始まった。国内では、6月に無観客でスタートしたプロ野球やサッカーJリーグが、7月から観客を入れ始め、その人数の制限を徐々に緩和している。
組織委 幹部
「理屈として考えるだけではなく、実態としてできているから、みんなが『東京大会もできるんじゃないの?』と思い始めているんじゃないか」
先進事例の成果と課題の蓄積が、東京大会の知見となり、必要な対策を検討するうえでの後押しとなっている。徐々にかもしれないが、開催へと方向転換が始まったのではないか。
25日夜。2日間の会議を終えた記者会見で、私たちは組織委員会の森会長に問うた。
「2日間の会議が開催への分岐点になったと思うか?」
「ここで急に自信をつけたということはない」と、かわした。「ただ…」森会長は続けた。
組織委 森会長
「IOCのバッハ会長がこの会議の直前に開催に向けたメッセージを出した。さらに政治では安倍政権を継承する菅政権に変わり、菅さんは私に『大会を成功させることが菅内閣のいちばんの仕事だ』とおっしゃっていた。そういうことが、この2日間の時期にあり、力づけてもらった」
慎重な中にも、手応えをにじませた。
課題は山積“コロナ・経費・観客”
しかし、世界で新型コロナウイルスの感染が依然として続く中、10か月後の開催への道のりには数々のハードルが並んでいる。
最大の課題、コロナ対策は、まだ道半ば。国内の感染対策には自治体の協力が欠かせない。選手に陽性者が出たらどう対応するのか、そのルールづくりも難航が予想される。
簡素化による削減額の試算もこれからで、年末にむけてはコロナ対策による経費の算出とその分担の議論も待ち受ける。組織委員会の財務担当者は連日、深夜まで居残りだ。
観客のあり方も決まっていない。感染状況の推移を見て議論するとして、今のタイミングでは、方向性を示すことすらできていない。
「共感を得られる」大会へ
それでも、安全で安心な大会の実現には、細やかな対策と地道な準備を積み重ねるしかない。その可能性を日本が持ち合わせていることが、今回の会議の空気から見えた。
- 「国民の共感を得られる大会に」
- 「団結と共生の象徴としての大会を」
組織委員会はこの2日間に大会の意義を繰り返し強調した。
「本当にやれるのか」から、「これは、やれる」という空気が広がったならば、次は「どんな大会にするのか」、だ。