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第1回テレビ討論会(要旨)

「雇用」「減税」「自由貿易」

テレビ討論会では、雇用や減税、それに自由貿易など、経済についても論戦が交わされました。このなかで民主党のクリントン氏は、「収入が増えるよう、新しい雇用が必要だ」と述べ、インフラや製造業、再生可能エネルギーなどに投資していくことで、雇用を生み出す考えを示しました。

また、「経済をより公平にする必要があり、国レベルの最低賃金を引き上げることから始まる。また、富裕層に相応の税金を払わせ、企業の抜け穴をなくす」と述べ、最低賃金を引き上げる一方、富裕層や企業にしっかりと課税して、経済の公平性を実現すると強調しました。

これに対して、共和党のトランプ候補は、「雇用や企業がアメリカからメキシコやその他の国に出て行っている」と述べ、企業が高い税金を課されているために、生産拠点を外国に移し、雇用が失われていると主張しました。
そのうえで、企業に対して減税を行って企業の海外移転を防ぐべきだと訴え、企業や富裕層への課税を重視するとしたクリントン氏と対立しました。

自由貿易については、クリントン氏は、「すべての貿易協定について雇用、収入、安全保障の面から検討を重ねてきた。既存の貿易協定を強化し、問題があれば責任を追及していく」と述べ、既存の貿易協定はアメリカの国益にかなうとして評価しました。

これに対し、トランプ氏は「われわれは貿易協定を見直し、他国がアメリカから企業や雇用を盗むのを止めなくてはならない」と訴えるとともに、「中国はみずからの通貨の価値を低く設定し、アメリカを貯金箱にして国を立て直しているのに、政府の誰もそれをただそうとしない」と述べ、貿易面におけるクリントン氏を含む従来の政治家たちの対応を批判しました。

また、TPP=環太平洋パートナーシップ協定については、トランプ氏が「クリントン氏はかつてないすばらしい協定だと言っていたが、私の主張を聞いて、突然反対し始めた」と述べて、クリントン氏が大統領になれば考えを覆して賛成に転じるだろうと攻撃したのに対し、クリントン氏は「よい協定になることを期待していると確かに言ったが、交渉が行われた末、そうはならなかったと結論づけた」と述べて釈明しました。

「確定申告書」「メール問題」

テレビ討論会では、共和党のトランプ氏が所得などを記した確定申告書を公開していないことや、民主党のクリントン氏が国務長官在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題についても論戦が交わされました。

クリントン氏は、トランプ氏が確定申告書を公開していないことに対し、「過去40年間、大統領選挙の候補は確定申告書を公開してきた。なぜ彼は公開しないのか。実は、彼が言うほど金持ちではないのかもしれない。彼が主張するほど慈善活動を行っていないのかもしれない。あるいは、所得税を払っていないことをアメリカ国民に知られたくないのかもしれない。

もし所得税を払っていないとすると、アメリカ軍や軍人、学校や医療福祉の負担をしていないということだ。彼が隠そうとしていることはとても重要な、恐ろしい内容なのかもしれない」と批判しました。

一方、トランプ氏は、「もしクリントン氏が、削除したメールの内容を公開するならば、確定申告書を公開する」と述べ、クリントン氏が国務長官在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題を取り上げ非難しました。

これに対し、クリントン氏は、「私用のメールアドレスを使ったことは過ちだった。もし、やり直すことができるなら違うやり方をするが、言い訳はしない。間違いだったし、その責任は取る」と答えました。

これについてトランプ氏は、「ただの過ちではなく、意図的に行われたもので、恥ずべきことだ」と激しく批判しました。

「人種」「犯罪」「銃規制」

黒人が警察官に撃たれて死亡する事件が相次いでいることを受けて、人種と犯罪の問題についても論戦が交わされました。

民主党のクリントン氏は、「重い課題だ。不幸にも、人種によって居住地域やどのような教育を受けられるか、刑事司法制度でどう扱われるかが決まってしまう」と指摘したうえで、「地域と警察の間の信頼を回復させる必要がある。そして警察が必要なときだけ公権力を行使するように最高の訓練を受けて技術を身につけるようにしなければならない。現在の刑事司法制度にはいくつかの問題があり、改善がなされるべきだ」と述べました。

一方、共和党のトランプ氏は、「都心部周辺でアフリカ系アメリカ人やヒスパニックたちは地獄のような危険の中で暮らしている。道を歩けば撃たれる。われわれは暴力を止めなくてはならず、法と秩序を取り戻さないといけない。われわれはもっと多くの警察官が必要で、地域と警察との間でもっと良い関係を築くことが必要だ。この点においてはクリントン氏に賛成だ」と述べるとともに、「銃を、持つべきではない犯罪者から取り上げるべきだ。路上をうろつくギャングの多くは不法移民で、銃を持ち、人々に発砲している。身体検査は効果的であり、決して注意を怠ってはいけない」と述べました。

これに対し、クリントン氏は「トランプ氏が黒人社会をこのような恐ろしいマイナスイメージで描写するのは本当に不幸なことだ」と攻撃しました。
また、クリントン氏は銃規制の必要性を強調し、「トランプ氏は銃のロビー団体から支援を受けているが町には軍仕様の武器が出回りすぎている。銃で犯罪を起こすような人の手に届かないような包括的な検査が必要だ。テロリストの監視リストに含まれている人への譲渡は禁止する必要がある」と訴えました。

トランプ氏は、「私はNRA=全米ライフル協会から支持を受け、とても誇りに思う。個人が銃を保持する権利を訴えている、とてもよい人たちだ」と述べつつも、「私はテロリストの監視リストや搭乗禁止リストを注意深く見る必要があるというあなたの考えにどちらかというと賛成だ」と述べ、クリントン氏の考えに同意しました。

「オバマ大統領の出生地」

討論会では、共和党のトランプ氏がオバマ大統領の出生地について「ケニアの生まれで大統領の資格がない」という主張を今月、「アメリカ生まれだ」と撤回した理由をトランプ氏がどう説明するか、注目されました。

その理由について司会者の男性に尋ねられたトランプ氏は、2008年の大統領選挙で民主党の指名獲得をめぐって候補者だったオバマ大統領とクリントン氏が争ったときのことを念頭に、「かつてクリントン氏の陣営もそれを問題にし、出させようとしたがそれができなかった。私はそれを問題にして生まれた場所の書類を出させることができた。非常に満足している」と述べ、自分がこの問題を取り上げたことで真偽が明らかになったように主張し、数年にわたる主張が誤りだった責任には触れませんでした。

これに対して民主党のクリントン氏は、「トランプ氏はみずからの政治活動を、私たちの初めての黒人の大統領が『アメリカ市民ではない』という、人種差別的なうそから始めたのだ。証拠もないのにだ。トランプ氏は1973年に自分のアパートをアフリカ系アメリカ人に貸さないと訴えられるなど、長い間にわたって人種差別的な言動をしてきた。出生地に関わるうそは非常に有害なうそだ」と攻撃しました。

この攻撃に対してトランプ氏は、「確かに訴えられたがほかにも多くの不動産業の人が訴えられていた。そして私の場合は、違法性を認定されることなく訴訟を解決した」と反論したうえで、「過去のオバマ氏とあなたの討論会を見たが、あなたは、オバマ氏に対してひどく無礼に接していた。今は、『すべてが愛おしくすばらしい』と話しているが、そんなうまい具合にはいかない。オバマ大統領にしたことなどを見ても、自分たちを聖人のようにみせてもそうはいかない」などと反撃していました。

「安全確保」

「安全の確保」というテーマでインターネットを通じたサイバー攻撃への対応を巡っても論戦が交わされました。民主党のクリントン氏は、ことし6月に、民主党の全国委員会がサイバー攻撃を受けたことなどを念頭に、「ロシアが、アメリカの様々な組織にサイバー攻撃を仕掛けているのは明らかだ。サイバー攻撃を行うのがロシアであろうと、中国やイランであろうと、アメリカは彼らに勝る能力があり、国民を守っていく」と主張しました。

そのうえでクリントン氏は、「トランプ氏はロシアのプーチン大統領を賞賛している。トランプ氏がプーチン大統領に堂々とハッキングを呼びかけたのは衝撃的で、受け入れられない」と述べ、クリントン氏の国務長官時代のメールについてトランプ氏がことし7月、ロシアのハッキングを望む趣旨の発言をしたことを批判しました。

これに対して、共和党のトランプ氏は、「プーチン大統領を賞賛している」というクリントン氏の発言には、すかさず「間違っている」と反論しました。

そして、トランプ氏は「サイバー攻撃の背後にいるのがロシアなのか、中国なのか、また別の国なのかわれわれにはわからない。これまで制御できていたことがオバマ政権の下で制御できなくなってしまったからだ。すべきことをしていないのは政府全体でそうだ」と述べ、オバマ政権や国務長官を務めたクリントン氏を批判しました。

「IS対策」

過激派組織IS=イスラミックステートへの対策や、ISに影響を受けてアメリカ国内でも相次ぐテロへの対策について両候補が議論を交わしました。
民主党のクリントン氏は、アメリカ国内で相次ぐテロ事件への対策として、「アメリカのIT企業と連携してISにアメリカやヨーロッパなどでインターネットを使った活動をさせないための対策をさらに進めるべきだ」と主張しました。
そのうえで、「われわれが軍事支援を行うイラクでは、ISへの掃討作戦で成果が上がっている。しかし、外国から義勇兵が参加し、資金や武器が持ち込まれている事実を認識して、最優先課題とするべきだ。ISを倒すために、インターネット上でプロパガンダ活動が行えないようにしなければならない」と訴えました。

また、クリントン氏は、ISの壊滅を目指すために、「アルカイダやその指導者だったオサマ・ビン・ラディン容疑者の時と同じように、ISの指導者、バグダディ容疑者を追跡し、ISから影響力を奪うために私はあらゆることを行う」と述べて、みずからの経験や手腕をアピールしました。

これに対して共和党のトランプ氏は「クリントン氏は『ISを追い出す』と長年同じことを言ってきたが、そもそもオバマ政権がイラクから撤退したことが地域に力の空白を生んでISの台頭につながった」とオバマ政権と国務長官を務めたクリントン氏を批判しました。

そのうえで、「アメリカはNATO=北大西洋条約機構のおよそ73%の費用を支出していることから、NATOとともに中東に入り、周辺国とともに一刻も早くISをたたきつぶすべきだ」と主張しました。

「中東政策」「イスラム教徒」

中東政策やイスラム教徒への対応をめぐっても議論が交わされました。民主党のクリントン氏は「我々はテロを防ぎ、国民を守るためにも、ヨーロッパや中東での情報収集の強化に全力を尽くさなくてはならない」と述べたうえで、「トランプ氏は国内外のイスラム教徒を侮辱してきたが、われわれはイスラム教の国々や国内のイスラム社会と協力する必要がある。彼らは最前線にいて、他では得られない情報を提供してくれるからだ」と訴えました。

これに対して共和党のトランプ氏は「クリントン氏は彼らとの連携について強調するが、何年も連携しているのに、中東はこれまでに見たこともないようなひどい状態に陥っている」と指摘し、イランの核開発をめぐる最終合意についても「イランは近い将来、強国になるだろう」と批判しました。

クリントン氏は「私が国務長官に就任したとき、イランは爆弾を作るのに十分な核物質を手にする寸前に達していた。そのため私はロシアと中国を同盟に巻き込んでイランに厳しい制裁を科してイランを交渉の席につくように追い込み、後継者のケリー国務長官がオバマ大統領とともにイランの核開発を制限する合意をまとめた。1発の銃弾も発射せずに、だ。これこそが外交であり、同盟の構築であり、他国と連携するということだ」と述べ、成果を誇りました。

トランプ氏は「史上最悪の合意の1つだ。イランは最終的に核を手に入れることになるだろう。イスラエルのネタニヤフ首相と会ったが、懸念を持っていた」と重ねて批判しました。

「日米同盟」「NATOとの関係」

同盟国との関係について両候補から対照的な発言が相次ぎました。このうち、日米同盟について共和党のトランプ氏は「アメリカは日本やドイツ、韓国、サウジアラビアを守っているが彼らは公正な費用を負担していない。彼らが公正な費用負担しないなら、数百万台もの日本車をアメリカに売る日本を守ることはできない。自分で防衛するか、アメリカの費用を分担するべきだ」と主張しました。

これに対して、民主党のクリントン氏は「同盟国の日本や韓国に伝えておきたいのは、われわれは相互防衛条約を結んでいて、その条約を尊重するということだ。この大統領選挙で、世界中の指導者たちに懸念を抱かせてしまった。何人もの指導者と話したが、多くのアメリカ国民のためにも言っておきたいのは、アメリカは約束を守るし、世界情勢を見渡しているということだ」と述べて暗に、トランプ氏は大統領にふさわしくないという考えを示しました。

また、NATO=北大西洋条約機構について、トランプ氏は「加盟国の多くは公正な費用負担をしていないうえ、テロ対策に力を注いでいない。アメリカとともに中東での対応に当たらせるべきだ」と指摘したのに対し、クリントン氏は、「NATOは軍事同盟であり、アメリカの同時多発テロのあと加盟国はテロとの戦いのためアメリカとともにアフガニスタンに行き、いまも協力している」と反論しました。

「核問題」

核問題をめぐっても議論が行われました。民主党のクリントン氏は、「アメリカは、民主党、共和党ともにこれまで核軍縮に向けて取り組んできたがトランプ氏は日本や韓国、サウジアラビアまでもが核保有国になっても構わないと繰り返してきた。トランプ氏の核兵器に対するごう慢な態度は深刻な問題で、われわれにとって最大の脅威だ。そして、もしも核がテロリストの手に渡れば脅威はさらに深刻だ。ツイッターのやりとりで挑発に乗るような人は、核兵器による攻撃を命じるいわゆる『核のボタン』のそばにいるべきではない」と厳しく批判しました。

これに対してトランプ氏は、「世界の最大の問題は核兵器だ」としたうえで、イランとの核開発問題をめぐる最終合意について、「歴史上、最もひどい合意の1つだ。新たな核問題に発展するだろう」と述べて、オバマ政権の政策を批判しました。さらにトランプ氏は、「核兵器による先制攻撃はしない。核が使われてしまったら、すべては終わりだ。だが、同時に備えもしなければならずあらゆる可能性を排除しない。北朝鮮のような国についてわれわれは何もできていないからだ」と述べました。

「体力」

民主党のクリントン氏が今月、肺炎で遊説を中止したことから、テレビ討論会では共和党のトランプ氏がクリントン氏の体力を問題視する一幕もありました。
トランプ氏は、「アメリカ大統領にはすさまじい体力が必要だ。日本やサウジアラビアはアメリカが守っているのに費用を払っていないので交渉しなければならないがクリントン氏にその体力があるとは思えない」と述べ、懸念を示しました。

これに対してクリントン氏は、「体力について言うなら、112か国を訪問して和平交渉などを行ったうえ、議会で11時間もの証言をしてからにしてほしい」と述べ、国務長官としての実績だけでなく、去年10月に私用メールの問題などをめぐり議会の特別委員会で長時間にわたり追及を受けたことを逆手にとってかわしていました。