今さら聞けないTPP 基本がわかる18のカード

トランプ政権 TPP離脱を表明

最終更新日:2017年1月21日

トランプ政権はホワイトハウスのホームページで、政策課題の1つとして通商政策を取り上げ、TPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱すると明らかにしました。

TPP協定をめぐっては、去年2月、日本やアメリカなど12か国が署名し、各国で、国内の承認手続きが進められていました。協定の発効には、アメリカの承認が欠かせない仕組みになっていて、今回、アメリカが正式に離脱を明らかにしたことで、TPP協定は発効のめどが立たなくなりました。

トランプ大統領は、TPPの代わりに、アメリカの国益を反映させやすい二国間の経済連携協定の交渉を進めたい考えです。ただ、アメリカ抜きで中国や日本が参加しているRCEP=東アジア地域包括的経済連携の交渉が進められるなど、アジアで、アメリカの存在感が薄まる可能性があります。

また、トランプ新大統領は、貿易赤字が膨らんでいる中国に対して、輸入品に高い関税をかける構えを見せるなど、中国との貿易摩擦が強まるおそれもあり、自国の利益を最優先にする保護主義的な通商政策は、世界の貿易の低迷を招くとする懸念も出ています。

NAFTAは再交渉の方針

トランプ政権は、NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉を行う方針を明らかにしました。そのうえで、もし、メキシコやカナダが再交渉を拒む場合は、NAFTAから離脱することを伝えるだろうとしています。

1994年に発効したNAFTAは、2008年までにすべての物品の関税が撤廃されていますが、トランプ新大統領は、メキシコに移転した工場からアメリカに輸入した製品には35%の税金を課す考えを示しています。

交渉では、関税の分野だけでなく、雇用や環境など貿易の新たなルールを作る幅広い分野が議題になる見通しになっています。

メキシコには、アメリカへの輸出基地として、日本企業も自動車関連メーカーなどが多く進出していて、交渉の行方しだいでは、経営戦略の見直しを迫られかねないことから、懸念が強まっています。

日本の通商戦略に大きな影響

トランプ新政権が、TPPから離脱すると明らかにしたことで、日本の通商戦略は大きな影響を受けそうです。

ほかの加盟国からは、アメリカを除く11か国で協定を発効させるべきだという意見も出ていますが、その場合、11か国で再協議する必要があります。

政府内では、TPPは、経済規模が大きいアメリカの参加を前提に、各国が一定の譲歩をして合意したことから、アメリカが抜ければ11か国の協定を新たに取りまとめることは 難しいという意見が大勢です。

このため、政府は、トランプ新政権や議会の関係者に対し、粘り強くTPPの意義を説明して、国内手続きを進めるよう働きかけていく方針に変わりありません。

一方、トランプ大統領は、通商交渉はTPPのような多国間ではなく、二国間で進めるという方針を示していて、今後、日本に対しても二国間の交渉に応じるよう求めてくる可能性もあります。政府としては、あくまでTPPを優先すべきだとしていますが、安全保障など幅広い分野で協力関係にあるアメリカに対し、みずからの主張を貫けるか不透明です。

カナダ首相 自由貿易の重要性強調

カナダのトルドー首相は、トランプ大統領の就任演説を受けて声明を発表しました。この中で、「カナダとアメリカは世界でも最も緊密な二国間関係を築いてきた。両国はともに貿易と投資の強い結びつきで利益を得て、経済を統合し、何百万人もの雇用を支えている」と指摘し、TPPやNAFTAへの具体的な言及はないものの、自由貿易の重要性を強調しています。

カナダは、メキシコとともにNAFTAの加盟国で、アメリカへの輸出に関税がかからない協定に基づいて、自動車部品などをアメリカへ輸出しています。また、TPPにも参加しており、協定が発効すれば、アメリカや中国に次ぐ第4位の輸出先の日本に、農林水産品の輸出を増やせるほか、企業誘致にも追い風になると期待していました。

カナダの農業団体は、去年11月、アメリカ以外のTPP参加国が協力し、新たなアプローチで交渉すべきだという考えを示して、TPPの枠組みを推進するよう訴えており、カナダ側の今後の対応が注目されます。

メキシコ大統領 祝辞と警戒感

メキシコのペニャニエト大統領は、トランプ新大統領の就任演説を受けてツイッターに投稿しました。この中で、ペニャニエト大統領はトランプ氏に祝辞を述べ、両国の関係を強化しようと呼びかけています。その一方で「トランプ新政権と、お互いに敬意を示す関係を築きたい。メキシコの主権と国益、それに、国民を守ることが新たな政権との関係に影響を与えるだろう」とも述べて、警戒感もにじませています。

メキシコは、NAFTAを含め世界の46か国と自由貿易協定を結んで関税をなくし、主にアメリカへの輸出拠点として経済成長を遂げてきました。

TPPが発効すれば、新たに東南アジアやオーストラリアなどにも自由貿易圏を広げることになるため、さらなる投資を呼び込めると期待していました。去年11月、メキシコのグアハルド経済相は、アメリカが離脱した場合でも、ほかの参加国と発効すべきだいう考えを示していました。また、NAFTAについて、メキシコはこれまでに、再交渉を求められれば応じる考えを示してきました。

今回、アメリカが正式に再交渉を表明したことへの反応はまだありませんが、メキシコの通商政策への影響は避けられない見通しです。

豪首相 TPPの重要性訴えていく

トランプ政権がTPPから離脱すると明らかにしたことについて、オーストラリア政府から公式の反応はありませんが、ターンブル首相は先週行ったNHKとのインタビューで、トランプ政権に対し、TPPの重要性を訴えていく考えを強調していました。

一方で、経済界からは、トランプ政権がTPPからの離脱を表明することはすでに予想されていたという冷静な受け止めも出ています。

オーストラリア商工会議所のジェームス・ピアソンCEOは「アメリカ大統領選挙で、2人の候補ともTPPに反対していたことから、それぞれの企業は今回の事態を十分、計算してきたと思う。特定の貿易の枠組みが失敗したからといってビジネスの動きは止まらない」と話していました。

また、ピアソン氏は、中国が交渉に参加しているRCEPのほうにビジネスの機会を探る企業が出てくるだろうという見方を示しました。

オーストラリアでは、来月開会する議会で承認手続きが本格化することになりますが、野党からはTPP反対の声が強まっており、審議が難航することも予想されています。

旗振り役のニュージーランドは

ニュージーランドは、アジア太平洋地域で自由貿易推進の旗振り役で、TPPの協定文書の取りまとめ役も務めてきただけに、トランプ政権のTPP離脱の表明に動揺が広がりそうです。

ニュージーランドは国内市場が小さいため、輸出に力を入れ、TPPのもとになった「P4協定」と呼ばれる経済連携の枠組みを創設しました。

輸出全体の約60%を占める農産物、特にバターやチーズといった乳製品については、TPP交渉の中で、日本やアメリカに対して輸入量の拡大を強く求め、当時の甘利担当大臣から「頭を冷やしてほしい」などと厳しい言葉が出たこともありました。

ニュージーランドはTPPの協定文書の取りまとめ役も務め、去年11月にはほかの国に先駆けて議会での承認手続きを終え、12月に日本でTPPが承認された際には歓迎の声明を出して、「世界はこれまで以上に貿易でのリーダーシップが必要だ」として、ほかの国も承認手続きを急ぐよう呼びかけていました。

ベトナムの受け止め

ベトナムでは、TPPの実現を見据えて、国の内外から積極的な投資が行われてきただけに、アメリカのTPPからの撤退に、企業関係者からは懸念の声が聞かれます。

ベトナム政府は、ことし1月16日にベトナムを訪れた安倍総理大臣と、TPP発効に向けて協力することで一致しています。ただ、前の月には、フック首相は「ベトナムはTPP参加の用意はできている」としながらも、トランプ氏が大統領になることで「ベトナムがTPPに参加するための十分な根拠がなくなった」と述べ、国内手続きを急ぐ必要はないという考えを示していました。

TPPの発効で、アメリカ向けの輸出の拡大を期待していた繊維関連の企業などからは、「ベトナムではこれまで、TPPの実現を見据えて、新たな工場の建設など、国の内外から積極的な投資が行われてきたが、TPPが発効しなければ、こうした投資が無駄になってしまう可能性がある」と懸念する声もあがっています。

シンガポールの受け止め

シンガポールは、「P4協定」の枠組みに参加していた4か国のうちの1つです。シンガポールは、金融や物流のハブとして自由貿易の恩恵を受けてきただけに、トランプ政権がTPPからの離脱を表明したことに警戒感を強めています。

長年にわたりシンガポールの駐米大使を務めたトミー・コー氏は、アメリカのTPP離脱について、「TPPに参加しているほかの11か国だけでなく、アジア全体にとってマイナスだ。アジア各国は、TPPからの離脱が、アメリカが保護主義へと向かうことを暗示しているのではないかと心配している」と述べ、自由貿易を推進してきたアメリカの役割が変化することに警戒感を示しました。

そのうえで、「アメリカは 投資や貿易でアジアへの依存を強めており、この地域から出て行くことはできないはずだ」と述べて、アメリカが経済成長を続けるアジアから手を引くことは、誤った判断だという見解を示しました。

チリの受け止め

「P4協定」に参加していた南米のチリは、人口1700万と市場規模が限られているため、TPPによって、サーモンやワインに加え、果物などの輸出をアジア向けに増やしていくことに期待していました。

チリのムニョス外相は去年11月、記者団に対して、「TPPはアメリカ抜きでは難しいと思うが、ほかの国々とともに、よく考えていく必要がある」などと述べて、TPPの枠組みを維持できないか模索していく考えを示していました。

ペルーの受け止め

南米のペルーは、2010年からアメリカとともにTPP交渉に加わりました。ペルーの輸出の主力は銅をはじめとした鉱物資源ですが、TPPをきっかけに、アジア向けに農産物の輸出を拡大したい狙いがありました。

ペルーのクチンスキー大統領は、去年11月、「アメリカ抜きでも、TPPと似た協定を作ることは可能で、議論すべきだ。アメリカが離脱するならば、中国やロシア、それに、ほかの環太平洋の国々も含めた協定になるのが望ましい」と述べ、必ずしもTPPの枠組みにはこだわらず、新たな経済連携協定に意欲を示していました。

日本の動き

国会で承認 関連法案も成立

TPP協定は12月9日午後開かれた参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、承認されました。あわせて、関連法も可決、成立しました。

本会議の討論で、自民党は「協定は、国内のサービス業、製造業だけでなく、農林水産業も活性化させることができ、わが国の経済成長に大きく資するものだ」と述べました。一方、民進党は「安倍総理大臣は『TPPは、国家100年の計だ』と言っているが、アメリカのトランプ次期大統領の離脱宣言で、発効する可能性はほとんどゼロで、今となっては、まったくの独りよがりに過ぎない」と述べました。

そして、採決が行われた結果、TPP協定は、自民・公明両党と日本維新の会、日本のこころを大切にする党などの賛成多数で可決・承認されました。あわせて関連法も可決・成立しました。

関連法案とは

TPP協定の国会承認とあわせて、11の関連する改正法を束ねた法律が成立しました。

この中には、▽牛肉や豚肉の生産者が全体で赤字経営になった場合に、赤字額を補てんする制度の拡充などを盛り込んだ改正法、▽牛肉や豚肉などの輸入が急増したときに国内の生産者への影響を抑えるため、一定の輸入量を超えれば関税を引き上げる「セーフガード」を発動する手続きを定めた改正法、▽小説や音楽などの著作権について、現在は原則、作者の死後「50年間」となっている保護期間を「70年間」に延長する改正法などが含まれています。

ほとんどの法律はTPPの発効が条件となっているため、当面、施行の見通しは立っていません。

政府は、国会承認を終えたことを受けて、すみやかに必要な政令や省令の改正にとりかかります。そのうえで、準備が整えば、協定の締結を再び閣議決定し、来年早々にも、協定のとりまとめを担当しているニュージーランドに通知することにしています。

発効の条件

日本やアメリカなど12か国が参加したTPP協定の署名式は、日本時間の2月4日、協定文書のとりまとめ役を務めたニュージーランドのオークランドで行われました。各国は、現在、協定の発効に向けて国内手続きを進めています。

TPP協定は、署名から2年以内に参加する12の国すべてが議会の承認など国内手続きを終えれば発効します。しかし、2年以内にこうした手続きを終えることができなかった場合には、12か国のGDP=国内総生産の85%以上を占める少なくとも6か国が手続きを終えれば、その時点から60日後に協定が発効する仕組みになっています。

日本のGDPが17.7%、アメリカが60.4%と、この2国だけで加盟国の全体の78%に達するため、日本とアメリカのほかにGDPが比較的大きな4か国が手続きを順調に終えれば、TPPは2018年の4月に発効することになります。