相次ぐ子どもの搬送…学校に「暑さ指数計」配備も対策に課題

子どもが熱中症で搬送されるケースが相次いでいます。

学校での対策を調べてみると、熱中症のリスクを判断する「暑さ指数」の計測器は配備が進んでいることがわかりましたが、一方で課題も…。

専門家の指摘も含めて、詳しくまとめました。

この夏も相次ぐ子どもの搬送

ことしの夏も、子どもたちが熱中症の疑いで病院などに搬送されるケースが相次いでいます。

7月7日、40度を観測した静岡市では、ミニバスケットボールをしていた小学生2人が搬送。

3日には、大分県国東市で10代の男の子が学校の昼休みにサッカーをしていて体調不良に。

山形県新庄市では、7歳の小学生が学校の校庭で遊んでいたところ発熱の症状が出たというケースもありました。

学校での対策は?

子どもたちを熱中症から守るには、どうすればいいのか。静岡県伊豆市の修善寺中学校をたずねました。

この学校では「暑さ指数計」を設置してデータを集め、生徒への注意喚起につなげています。

「暑さ指数」とは

「暑さ指数」とは「気温」だけでなく「湿度」や地面などからの「ふく射熱」をもとに算出し、熱中症のリスクを判断するための指標です。

数値によって「注意」「警戒」「厳重警戒」「運動は原則中止」などの段階に分かれ、リスクや注意・警戒すべき内容などが指針に示されています。

修善寺中学校での「暑さ指数計」の設置場所は、教室のほか体育館や運動場など校内5か所。集めたデータは職員室で一元管理しています。

職員室に設置されたモニター画面

さらに、学校では独自のガイドラインを作成。「暑さ指数」が5段階の1番上にあたる「31以上」になったら、校内放送で注意事項を呼びかけ、活動については校長や教頭などと相談するとしています。

水分補給など対策を呼びかける

この日は暑さ指数が「厳重警戒」の「28」程度でしたが、教頭が放送で水分補給などの熱中症対策を徹底するよう呼びかけていました。

昼休みを教室で過ごした生徒は。

「ここ最近は体感したことのない暑さなので、外に行きたい気持ちはあってもなるべく教室の中で過ごすようにしています。これまで暑さはそこまで意識していませんでしたが、暑い日はこれまで以上に気をつけていきたいです」

放課後の部活動の時間は

また、放課後の部活動の時間も、顧問の教員が職員室で暑さ指数を確認します。

暑さ指数をチェックする教員

このあと顧問の教員は、生徒に練習中は▽なるべく帽子をかぶることや▽水分補給を意識的に行うことを指導していました。

生徒は「『きょうは厳重警戒の暑さ指数』との放送があったので、水分補給と休憩は欠かさずに熱中症に気をつけようと思います」と話していました。

顧問の教員は「指数計の導入で暑さ指数をよく見るようになったので、より熱中症を意識しやすくなりました。一人一人体力が異なるので生徒の様子をよく見て対応しています」と話していました。

市の教育委員会は、暑さ指数のデータを自動で一元管理することによって、教員が暑さ指数計をもって計測して回る負担が軽減されたほか、学校全体で暑さ対策への意識の高まりにつながったとしています。

修善寺中学校 鈴木利宏 教頭
「暑さ指数を参考にするとともに、子どもたちの午前中の体調などをよく見ながら、仮に指数が高くなくてもきょうは活動をやめた方がいいだろうなどと判断している。暑さ指数を意識することによって教職員はもちろんのこと、子どもたち自身も水分補給などの対策をより意識するようになってきた」

計測器の配備が進む一方で…

熱中症のリスクを判断する「暑さ指数」の計測器の配備が進む一方、課題もあることが見えてきました。

NHKは全国の県庁所在地の自治体や政令指定都市それに東京23区のあわせて74の教育委員会に学校での熱中症対策について聞きました。

その結果、「暑さ指数」の計測器を「すべての学校に配備している」と回答したのは、62の教育委員会と全体の8割余りにのぼりました。

中には、▽暑さ指数を校庭の出入口など子どもが見えやすい場所に電子パネルで掲示したり、▽暑さ指数が基準を超えた場合に下校の時間を遅らせたりする対応を取っている教育委員会もありました。

地域ごとの実情に応じた対策は

一方で、暑さ指数をどう活用するかについては、地域ごとの実情に応じた対策が必ずしも進んでいない実態が見えてきました。

学校の管理下で起きる熱中症の対策をめぐっては、各地の教育委員会でガイドラインなどを策定していますが、環境省と文部科学省はその充実度に差があるとして、暑さ指数などを活用した指針を策定するための手引きを周知しています。

こうしたガイドラインについて、自治体独自に策定したと回答したのは29の教育委員会で全体のおよそ4割(39%)にとどまっていることがわかりました。

策定していない理由については、▽都道府県が作ったガイドラインを活用している、▽国の通知を学校に伝えて対策を呼びかけているなどといった回答が目立ちました。

独自のガイドライン策定した自治体は

踏み込んだ対策を示した自治体もあります。

北九州市教育委員会は、熱中症の疑いで搬送された市内の小中学生がコロナ禍の令和2年度は4人でしたが、令和4年度は22人、令和5年度は19人、今年度もすでに12人に上るなど、再び増加傾向にあるということです。

そこで熱中症対策を強化するため、学校向けの市独自のガイドラインを改訂、ことしから運用しています。

「全市で一斉中止」も

この中で、環境省が発表する暑さ指数の当日朝の予測値が33以上の場合、▽体育の授業や▽空調設備のない中での部活動や特別教室での授業、それに▽休み時間の外遊びなどを「全市で一斉に中止する」と新たに記載しました。

また、保護者に対しては学校からメールなどで情報を共有するとしています。

これまで屋外などの活動の判断についてはすべて学校に委ねていましたが、今回、教育委員会として全校一律の基準を示したことで、市一丸となって熱中症対策への意識を高め、予防につなげたい考えです。

北九州市教育委員会生徒指導課 山中孝一 課長
「市独自の基準を設けたことで保護者も安心して子どもたちを学校に送り出せる環境が整うと思います。コロナ明けで子どもたちの体力も著しく低下していると思うので、常に基準は見直しながら運用していきたい」

「地域の状況を細かく把握する必要」

国の検討会で副座長を務めた明海大学の戸田芳雄客員教授に聞きました。

戸田客員教授は、熱中症対策として気象庁と環境省が発表する「熱中症警戒アラート」は目安として活用できるものの、例えば、山に囲まれた盆地や海に近い場所、高地の冷涼な地域では気象条件などが大きく異なるため、学校のある地域の状況を細かく把握する必要があると指摘します。

その上で、全国の学校で「暑さ指数」の計測器の配備が進んでいることについては。

「自分たちの学校の暑熱環境を把握するため、各地で計測器が準備されてきていることは一定の評価ができる」

一方、暑さ指数の活用について自治体独自のガイドラインの策定が4割にとどまっていることについては、次のように指摘しています。

「毎年、気温が上がり、熱中症のリスクが高まっている中で、こうした状況は極めて残念だ。学校では授業や行事、校外学習などさまざまな活動がある中、教職員が暑さ指数や子どもの様子を確認して中止すべきかなどを判断しなければならない。

地域の実情に応じて学校ごとに目安となる基準を設ける『自校化』を促す取り組みがとても重要で、教職員に熱中症対策の正しい知識や能力を身につけてもらうためにもガイドラインの策定が必要だ」

【詳報】学校での熱中症対策についての調査結果

NHKが全国の県庁所在地の自治体や政令指定都市、それに東京23区のあわせて74の教育委員会に行った学校での熱中症対策についての調査結果を、詳しくお伝えします。※後半には各地域の具体的な取り組みを紹介しています。

<「暑さ指数」の計測器配備進む>
環境省によりますと熱中症のリスクを判断する際には、気温だけでなく湿度などをもとに算出する「暑さ指数」を参考にすると、的確な予防につながるということです。

NHKが全国の県庁所在地の自治体や政令指定都市それに東京23区のあわせて74の教育委員会に行った調査では、「暑さ指数」の計測器を「すべての学校に配備している」と回答したのは62の教育委員会で、全体の84%にのぼりました。

暑さ指数を活用した事例として▽千葉市では持ち運びができる計測器を各学校に4台ずつ配備し、運動場での活動のほか、プールや校外学習の際にも活用しているということです。

▽甲府市では、下校時の熱中症を防ぐため、暑さ指数が31を超えた場合、小学校低学年の帰宅時間を1時間遅らせる対応を呼びかけているということです。

また、▽東京・港区では、暑さ指数を表示する電子パネルをすべての学校に設置し、子どもたちがみずから暑さ指数を確認して熱中症対策を行うよう指導しているということです。

このほか、「暑さ指数」の計測器を▽「一部の学校に配備している」▽「配備していない」、▽「配備の状況を把握していない」と回答した教育委員会は12ありました。

<ガイドライン策定4割にとどまる>
学校の管理下で起きる熱中症の対策をめぐっては、各地の教育委員会でガイドラインなどを策定していますが、環境省と文部科学省はその充実度に差があるとして、暑さ指数などを活用したガイドラインを作成するための手引きを周知しています。

こうしたガイドラインについて、自治体が独自に策定したと回答したのは29の教育委員会で、全体の39%にとどまりました。

策定していない理由については▽都道府県が作ったガイドラインを活用しているとか、▽国の通知を学校に伝え、対策を呼びかけているなどといった回答が目立ちました。

<各地のガイドラインに工夫も>
一方、独自にガイドラインを策定した自治体の中には、暑さ指数に応じた対応の指針を示すところもあります。

▽大阪・堺市では、暑さ指数に応じた運動の指針を定め、31以上の場合はいったん運動を中止し、子どもたちの状態を観察した上で安全の確保を徹底するよう呼びかけています。

▽浜松市では「熱中症事故防止確認シート」を作成し、指導計画の作成時のほか活動前や活動中など、各段階ごとに配慮すべき項目を一覧にしてまとめています。

▽横浜市では夏の気温の状況をまとめ、暑さの特徴を地域別に伝えているほか、実際に市内の学校で起きた熱中症の搬送事例を掲載して対策の参考にしてもらおうとしています。

▽山口市では学校での対応を明確化するため「頭痛」や「寝不足」など子どもの健康状態を確かめる項目を定め、確認した状況に応じて見学や要観察の措置をとるなどとしています。

▽神戸市では運動会の期間を原則として4月から6月までか、9月20日以降にするよう呼びかけているほか、登下校時に日傘の使用やネッククーラー、冷却タオルの着用を認めるなど柔軟に対応するよう呼びかけています。

また、ガイドラインとしてはまとめていないものの、気温や暑さ指数に応じた運動の指針を定めている教育委員会もありました。

このほか▽すべての教職員を対象に熱中症の予防などについて学ぶ研修の動画を視聴させたり、▽大手製薬会社や民間の団体による出前授業で対策に生かしたりしているところもありました。