34年連続増収増益の秘けつとは 小売業界での「勝ち筋」に迫る

34年連続増収増益の秘けつとは 小売業界での「勝ち筋」に迫る
国内屈指の小売り大手に成長した、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」。デフレ経済のもとで業績を伸ばし続けてきた会社は、いま、歴史的な物価上昇の局面にあってなお、その勢いが衰えていない。

成長のカギとして、運営会社の社長が語るのが「消費者は常に正しい」ということばだ。そのことばの真意を読み解くと、売れる店作りの戦略が見えてきた。(経済部記者 河崎眞子)

“品ぞろえに納得感を”

売り上げ1兆9000億円余(2023年6月期)。国内外でディスカウントストアやスーパーなど約740店を展開する、「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(=PPIH)」。

34年連続で増収増益を達成し、ことし6月期には2兆円を超える見通しだという。そのグループを率いるのが、吉田直樹社長(59)だ。

販売好調の秘けつ、その一端が、店のお酒コーナーでうかがえるという。
吉田社長
「そんなに量は飲まないのだけれど、きょう飲む分みたいな形で買って行かれるんです」
店頭に並ぶのは、1本50ミリリットル程度の小さなウイスキーやジン。これが、アルコール離れが指摘されている若者の需要を捉えているというのだ。
吉田社長
「きょう1日分です、みたいなお酒の売り方であれば『あ、こういうのを待っていた』ということになる。どういう風にしてお客様の納得感をいただくか。そういったニーズを探してくるのがわれわれの仕事ですから」

並ぶ商品 権限は現場に

「納得感」のある品ぞろえ。その仕入れを担うのは、本部ではなく、店のアルバイトも含めた従業員たちだ。
早ければ入社数か月で権限が与えられ、値付けもみずから行うという。

吉田氏は、消費者と距離が近い現場に大きな権限を持たせることが、消費者のニーズを探り当てる基盤であり、グループの強みになっているという。
吉田社長
「大量に消費が進んでいる時は、大量仕入れを中央でやる方がより安く商品を供給できたと思いますが、いま地方でも都市でも、お客様のニーズは非常に分散しています。消費者との距離というのは地域性もあるし、お客様が若い方が多いので、私のような世代の人間だと、30歳、40歳離れた人の消費行動は想像がつきにくいです。他社と比べると一括で仕入れする量が少ない代わりに、お客様の行動の変化に気がつきやすい環境かもしれない」

コロナ禍でも成長 「おもしろさ」で差別化

業績を伸ばし続けている会社だが、順風満帆ではない時期もあった。

吉田氏の社長就任からすぐに直面したのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。
客足は減り、当時売り上げの約1割を占めていたインバウンド需要がほぼゼロに落ち込む事態に。

それでも増収増益を続けられた背景には、納得感に加え、商品の独自性を徹底的に追求する差別化戦略があるという。
後ろの骨が伸びてリュックがぬれない傘。フライドチキンの皮だけを詰めた弁当。紅ショウガとお酢を混ぜた調味料…。会社が開発した自社ブランド商品の中には、ありそうでなかった物や、かゆいところに手が届く、ユニークな発想のものも少なくない。
吉田社長
「一般的なプライベートブランドは、価格の安さを打ち出す方が多いと思います。でも、中身がおもしろいことが、すごい大事なんです。ちょっとクスって笑っていただけるような物や、『こんなに量があるのか』とか、おもしろいフックを非常に重要視しています。そうすると、お客様は価格だけでなくて、商品の性格に対しても興味を示してくださるんです」

インバウンド需要にも響くユニークさ

割安感というディスカウントストアの強みに加え「おもしろさ」という要素を加えた店づくりは、外国人観光客も引き寄せている。
グループの免税品売り上げは、ことし3月までの9か月間で813億円に上り、コロナ禍前の1年間の売り上げを、すでに20%近く上回っている。

例えば、外国人旅行者が多く訪れる店の目立つところに並ぶ、チョコレート風の菓子。暑くても溶けないことが東南アジアなどでSNSで話題になり、ヒット商品に。大手菓子メーカーが開発したものだが、販売実績の多さを背景に、今ではグループが独占販売する商品となっている。
こうした商品力に加え、深夜営業など店の営業スタイルも評判を呼び、インバウンド需要のV字回復につながっているという。
吉田社長
「日本の小売業では、どこでも信頼度の高いものが買えると思うんですけど、私たちは、おもしろいもの売ったり、お店自体をおもしろい作りにしたりしています。外国人観光客は夜ごはんを食べた後、あまりすることがないですが、私たちの店は、都心に24時間空いているところもあり、体験型のレジャーとして非常に親和性が高いと思います」

“批判は提案” 答えは消費者の中に

売り上げで、セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ファーストリテイリングに次ぐ、国内小売り4位に位置するPPIH。さらなる成長に向け、会社では「納得感」と「おもしろさ」に磨きをかけようとしている。
その1つ、商品開発で活用するのが会員数1400万人に上るアプリだ。

消費者が購入した商品へのレビューを書き込める仕組みで、中には「量が少ない」「辛すぎる」など手厳しい声もある。こうした批判も参考に商品設計を変えながら、より顧客に受け入れられる商品を探り当てているという。

デフレからの脱却を目指す日本経済。ただ物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず実質賃金のマイナスが続き、個人消費には停滞感も見える。

デフレ経済のもとで成長を続けてきたグループにとって、この環境の変化にどう対応しようとしているのか。今後の戦略についても話を聞いた。
吉田社長
「私たちはまだ余地があると思っていて、やはりディスカウンターに対する期待は非常に大きいと思います。私たちは価格でも勝負をしているけれど、価格以外のところでも提供価値を見つけてきています。お客様は、毎日の買い物には価格にセンシティブになる一方、非日常的な使い方では消費意欲は旺盛です。インフレは経済のサイクルとしては普通のことで、消費者は工夫されますし必ず答えを見つけてこられる。消費者は常に正しい。変化をすべて受け止め、どうやって最適な解を出していくか、それに尽きる」
(7月10日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
河崎 眞子
2017年入局
松山局を経て現所属