大阪でホテル開業相次ぐ 直面する人手不足にどう対応?

大阪でホテル開業相次ぐ 直面する人手不足にどう対応?
来年の大阪・関西万博を見据えて、大阪では、ホテルの開業が相次いでいます。

一方で、ホテル業界は、深刻な人手不足に直面。あの手この手で、人材を確保しようとしています。

(大阪放送局記者 寺田麻美)

きっかけはカニ食べ放題イベント

大阪市阿倍野区にあるこのホテルで活躍しているのが、いわゆる「スキマバイト」と呼ばれる単発・短時間のアルバイトです。

取材に訪れた日、大学生が、午前6時から2時間、朝食バイキングの開店の準備を行っていました。
スキマバイトの学生
「大学の授業の前に来ることができるので都合がいい。また、すぐにアルバイト代が手に入るのと、いろいろな仕事ができるので、社会人になるまでの経験としていいなと思っている」
当初はためらっていたという、こうしたアルバイトの活用。

活用が進むきっかけとなったのが、去年10月に行われたカニ食べ放題のイベントでした。
イベントでは、料理の片付けなど多くの人手が必要ですが、募集をかけてもアルバイトが十分に集まりませんでした。

そこで、わらをもすがる思いで頼ったのが、単発・短時間でのアルバイトでした。すると、募集を出してすぐにマッチングが成立。

カニの殻を片づけたり、テーブル周りを清掃したりする業務を担ってもらい、イベントを無事に終えることができました。

なぜ人が集まらない?

いったいなぜ、必要な人手が集まらないのか。

大阪では、ことしから来年にかけて、国内外の高級ホテルが続々とオープンする予定です。
各社は、来年開催される大阪・関西万博や、その後のIR=統合型リゾート施設の開業などを見据えて、大阪の観光客がさらに増えると見込んでいるのです。

こうした中、深刻になっているのが人手不足です。
民間の信用調査会社「帝国データバンク」によると、関西の「旅館・ホテル」で、正社員が不足していると答えた割合は、ことし4月時点で88.9%に上りました。

新型コロナの感染拡大で離れた従業員が戻らない一方、外国人観光客の増加や相次ぐホテルの開業で、正社員に限らず人材の取り合いとなっているのです。

社員の負担軽減も

カニ食べ放題のイベントをきっかけに、単発・短時間のアルバイトの活用が一気に進んだというこのホテル。

現在は、研修などが必要な接客以外の業務で、比較的、簡単な作業を切り出して2時間単位で募集しています。

レストランを中心に、これまでに来てもらった人はのべ1700人余り。

学生や近所に住む主婦など、何度も働きに来ている人もいるということです。

特に人手が足りない早朝や夜遅い時間帯に入ってもらうことで、社員の負担が減り、接客などに集中することができるようになったと感じています。
都シティ 大阪天王寺 本田剛 料飲部長
「アルバイトを募集しても辞めていき、時給を上げても全然入らない状態なので、社員がカバーするという形でしかできなかったが、『スキマバイト』の方に入ってもらうことで、社員の負担が減って助かっている。ホテルの中で、洗い場とか宴会など、人手が足りないところにも活用を広げていきたい」

採用の幅広げて、人材育成強化

一方、大阪・北区の老舗ホテルは、社員の採用方法を変えることで、人手不足に対応しようとしています。
このホテルの調理部門では、これまで原則として新卒採用は、調理師専門学校を卒業した人や、高校で調理を専門に学んでいる人を対象としてきました。

しかしことしから、料理を学んでいない、普通科の高校の卒業生も、対象とすることにしました。

全国調理師養成施設協会によりますと、専門学校を含む調理師養成施設への入学者数は、少子高齢化などを背景に減少傾向となっています。

こうした中、周辺のほかのホテルやレストランの間で、人材の奪い合いが激しくなっているためです。
このためホテルでは、一般の高校にも説明に回ったり、高校生を招いて職場の見学会を開いたりして、職場の研修制度や仕事のやりがいなどをアピール。

この春には、料理を専門的に学んでいない、高校を卒業したばかりの若者10人が、正社員として入社しました。

こうした社員のため、会社では、基礎的な技術の研修を充実させるなどしています。

今後は、宴会で提供する料理の盛り付けなど下積みの修行を重ねた上で、1年から2年ほどでそれぞれのレストランに配属する予定です。
新入社員
「家で料理をする以外の経験はなく、普通科の卒業で、とても不安があったが、上司やシェフが丁寧に教えてくれるので、すごく安心している。将来、お客さんの目の前で料理を作ることができるシェフになりたい」
また会社では、若手が安心して働くことができる環境整備にも力を入れています。

ことし4月から、若い世代を対象とした社員への住宅補助を最大で3万円上げたほか、補助の期間を最長6年から最長8年に、2年延長しました。

また、新規開業するホテルの準備室長のポストといった社内公募を増やすなど、人事改革も進めていて、こうした取り組みで、離職防止にもつなげたい考えです。
ロイヤルホテル人事部 岩本 知里 課長代理
「コロナ禍でやめてしまった従業員がいて、人手がいなくなってしまったというのは実感している。採用活動をがんばって、入ってもらった人に長く続けてもらう制度を整えていくことで、人手不足を解消していきたい」
取材を通じて改めて、大阪のホテルが直面する人手不足は、喫緊の課題だと感じました。

一方で、こうした現状は、人材の育成方法や従来の仕事のあり方を見直すチャンスでもあります。

万博という大きなイベントも控える中、サービスを落とさず、厳しい現状を克服していくことができるのか、大阪のホテルにとって、まさに正念場と言えます。

(7月5日「おはよう日本」で放送)
大阪放送局記者
寺田 麻美
2009年入局
高知局、経済部を経て現所属