ウクライナ ロシアに徹底抗戦も 停戦求める動きに警戒強める

ウクライナは、占領された領土の奪還などを目指してロシアに対する徹底抗戦を続けていますが、一部の国から停戦や和平交渉を求める動きも出ていて、警戒や反発を強めています。

ウクライナ東部のドネツク州では今月4日、ウクライナ軍の関係者が、高台の要衝チャシウヤルの一部の地区から部隊を撤退させたと明らかにするなど、ロシア軍が攻勢を強めています。

ゼレンスキー大統領はメディアのインタビューで「武器を持っていない旅団もある」と述べ、アメリカなどからの軍事支援が十分に行き届いていないと訴えました。

ウクライナ軍は、兵力不足が完全に解消されない中にあってもロシア軍に対する徹底抗戦を続ける構えですが、一部の国からウクライナに停戦などを求める動きも出ています。

今月2日には、EU=ヨーロッパ連合の議長国を務める一方でロシア寄りの姿勢を示すハンガリーのオルバン首相が、侵攻後初めてウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談しました。

オルバン首相は、ゼレンスキー大統領に一時的な停戦と和平交渉の開始を検討するよう促したことを明らかにしましたが、ゼレンスキー大統領は応じない考えを示したと伝えられています。

ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、ハンガリーを念頭に「攻撃されている国に一方的な停戦を迫るというキャンペーンに関わっている人たちとは何なのか」とSNSに投稿しました。

オルバン首相は5日、ロシアを訪れてプーチン大統領と会談していて、ウクライナ側は警戒や反発を強めています。

また、アメリカのトランプ前大統領が、自身が大統領になれば戦争を24時間で終わらせることができるなどと発言したことについて、ゼレンスキー大統領は「戦争を終わらせる方法を知っているのであれば今明らかにするべきだ」と述べています。

ウクライナが停戦に向けた動きを主導するため重視しているのが「ロシア軍の撤退」や「領土の回復」などの10項目の和平案の実現で、先月には、和平案について話し合う首脳級の会議も開催しおよそ100の国などが参加しました。

ゼレンスキー大統領は先月28日、戦争を終わらせるための計画をことし中に準備する考えを明らかにしました。

ロシア軍に対する徹底抗戦を続けながらも、ウクライナにとって有利な形でどう戦争を終わらせるか各国の支援も得ながら探りたい考えとみられます。

ウクライナの専門家「今が決定的に重要な時期」

ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の今の動向について、ウクライナのシンクタンクの代表で、安全保障や国際関係に詳しいミハイロ・サムシ氏はNHKのインタビューに対し「少なくともドンバス地域の全域を占領するという任務と目標は変わっていない。あらゆる方法で防衛線の穴を見つけて突破しようとしている」と述べ、ロシア軍はウクライナ東部2州全域の掌握を目標に進軍しようとしていると指摘しました。

そのうえで、背景には、アメリカの大統領選挙があるとして「仮にトランプ氏が大統領になれば交渉の枠組みを提案する可能性がある。ロシアはよりよい位置につくことを目指している」と述べ、ロシア側がトランプ氏の政権奪還をにらんで戦況で有利な環境を作り出そうとしていると分析しました。

一方、ウクライナ側について、サムシ氏は「本丸はクリミアだ。クリミアからロシア軍の艦隊を追い出している。クリミアの防空体制を一掃しようとしている。クリミアを封鎖して、交渉の用意があると提案すれば、ゼレンスキー大統領にとってよい試合になりえるだろう」と述べ、非常に難しいとしながらもクリミアの封鎖が重要な任務になっていると強調しました。

そのうえで、ウクライナが必要としている兵器については「制空権をとることが大事だ」として、射程の長いミサイルなどに加えて、F16戦闘機や早期警戒管制機を挙げました。

そして「ウクライナとロシアにとって、今が決定的に重要な時期だ」と述べ、アメリカ政治の動きもにらみながら、双方による戦闘は一層激しくなるとしています。

一方、ゼレンスキー大統領が戦争を終わらせるための計画をことし中に準備する考えを示していることについて「政権内の非常に繊細なテーマだ」として、詳細はわからないとしたものの、「ウクライナは今の状況を変えるための話し合いに応じる用意はない」と述べ、ウクライナ側としては、ロシア軍の撤退や領土の回復を求める立場から妥協する考えはないと強調しました。

ただ、サムシ氏は、ゼレンスキー大統領が、一部のアメリカメディアのインタビューに対し、国連とトルコの仲介で農産物の輸出再開をめぐってロシアと合意した枠組みに触れたとしたうえで「交渉の枠組みを示し始めた」と述べ、今後の交渉のあり方をめぐって検討を始めている可能性があると指摘しました。