トヨタ系列の車体製造会社 下請けの利益侵害か 公取委が勧告

横浜市にある「トヨタ自動車」系列の車体製造会社が、部品の製造に必要な「金型」を複数の下請けメーカーに無償で保管させ、経費を負担させるなど下請けの利益を侵害する行為があったとして、公正取引委員会は、この会社に対し再発防止などを求める勧告を行いました。

下請け法に基づく勧告を受けたのは、トヨタ自動車の子会社で、横浜市にある車体製造会社、「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」です。

公正取引委員会によりますと、この会社は、2022年から2024年にかけて、バンパーなどの製造で使う金型や検査器具など660点余りを、下請けメーカー49社に無償で保管させ、経費を負担させていました。

また、納入段階での検査を行わず、不当な返品によって、下請けメーカー65社に合わせて5400万円分の損失を負担させていたということです。

公正取引委員会は、これらの行為が、下請けメーカーの利益の侵害にあたると認定し、今後、同様の違反行為を行わないことや、再発防止を求める勧告を行いました。

「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」は事実を認め、金型を保管させていた下請けメーカーに対しては今後費用を支払い、不当な返品で負担させていた損失分の全額をすでに支払ったということです。

自動車業界では「日産自動車」もことし3月、下請けのメーカー36社に支払う代金を一方的に減らしていたとして勧告を受けていて、公正取引委員会は、コストの高止まりが続く中、業界の慣習的な取り引きについても監視を強化しています。

車体製造会社 会見で社長が陳謝

公正取引委員会からの勧告を受け、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、5日夕方、都内で記者会見を開き、西脇憲三社長が「われわれを支えていただいている取引先様をはじめ、多くのステイクホルダーの皆様に多大なるご迷惑、ご心配をおかけし、大変申し訳ございません。心よりおわび申し上げます」と述べて陳謝しました。

西脇社長「今の仕事を疑う 改善する余力がなかったのかも」

西脇憲三社長は会見で、今回の事案の要因について「今やっている仕事を疑う姿勢が会社の中に育まれていなかった。そういう慢心、過信のようなものがあったのだと思う。意図せずとも前例踏襲という仕事をせざるをえず、今の仕事を疑う、改善するという余力がなかったのかもしれない」と述べました。

そのうえで、今回勧告を受けた事案以外についても取り引きに問題がなかったか点検を進める考えを示しました。

自動車業界で相次ぐ下請け企業との問題 その背景は

自動車業界で、下請け企業との関係をめぐる問題が相次いでいる背景として考えられるのが、業界特有の構造です。

自動車業界は「トヨタ自動車」や「日産自動車」といった自動車メーカーを頂点に、部品製造などの会社が連なる「多重下請け」の構造になっています。

車1台の製造に必要な部品の数はおよそ3万個に上るとされ、民間の信用調査会社「帝国データバンク」によりますと、国内の自動車メーカー8社に連なる企業はことし5月時点で5万9000社余り。

「4次下請け」や「5次下請け」まで存在しています。

こうした「多重下請け」の構造では、頂点に位置するメーカーが値下げやコストカットを行うと、連なる企業全体に影響が連鎖し、下請け企業の利益が損なわれやすいといいます。

公正取引委員会の事務総長を務めた同志社大学大学院司法研究科の小林渉 特別客員教授は「ここ数年の円安や原油高の影響で原材料費などが上昇する中、公正取引委員会は下請け法の執行を強化してきた。自動車業界は重点的に立ち入り調査や監視の対象になっている」としたうえで、「多層的な下請け構造の下では無理な値下げなどを行うと下の階層の取り引きにも波及しやすい。業界として、法令の順守を徹底するとともにそれぞれの階層で取り引きの条件をしっかり話し合い、無理なしわ寄せなどが発生しないようする対応が求められている」と話しています。

トヨタ自動車「国内の子会社を対象に法令順守の徹底強化」

「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」は、トヨタ自動車がおよそ90%を出資する子会社で、トヨタ自動車は、ことし4月に、この子会社から違反行為の事実について報告を受けたとしています。

トヨタ自動車は、適正な取り引きに向けて、子会社を対象にマニュアルの整備や社員の教育などを行ってきましたが、今回の子会社への勧告を受けて、今後、およそ200社にのぼる国内の子会社を対象に、法令順守の徹底を強化していくとしています。

トヨタ自動車は「子会社の取引先様をはじめとする関係の皆様にご迷惑、ご心配をおかけしておりますことをおわび申し上げます。子会社の再発防止に向けた取り組みをサポートし、今回の件を学びとして、下請け法にとどまらず子会社に対するコンプライアンスの徹底に向けた取り組みを強化してまいります」とコメントしています。

取り引きの適正化 自動車業界全体での大きな課題

自動車業界では、日産自動車もことし3月、下請けの部品メーカー36社に対し、納入時に支払う代金を一方的に引き下げていたとして、公正取引委員会から勧告を受けました。

この問題を受けて、自動車メーカーなどでつくる「日本自動車工業会」は、ことし4月からメーカー各社による緊急の自主点検を進めています。

ただ、自主点検の対象は、会員企業となる自動車メーカーなど、大手の14社に限られ、それぞれの子会社などは対象になっていないとしています。

自動車業界では、自動車メーカーの子会社であっても、多くの下請け企業との取り引きが行われていることから、業界全体でどのようにして取り引きの適正化を進めるかが大きな課題となります。