知床観光船沈没事故 乗客の家族などが運航会社と社長を提訴

2022年、北海道の知床半島沖で観光船が沈没し20人が死亡、6人が行方不明となっている事故で、乗客の家族などが運航会社と社長に対し、およそ15億円の賠償を求める訴えを札幌地方裁判所に起こしました。

おととし、2022年4月、北海道の知床半島沖で観光船の「KAZU I」が沈没した事故では、乗客と乗員合わせて20人が死亡し、6人の行方が分からなくなっています。

この事故で、3日、乗客14人の家族など29人が、運航会社の「知床遊覧船」と、桂田精一 社長に対し、合わせておよそ15億円の損害賠償を求める訴えを札幌地方裁判所に起こしました。

この事故の調査にあたった国の運輸安全委員会は去年、公表した最終報告書で、確実に閉まっていなかったハッチのふたが波の揺れで開き、そこから海水が流入して沈没したと結論づけたほか、天候の悪化が予想される中で出航させた桂田社長についても安全運航の知見を持たず事故に重大な影響を与えたと指摘していました。

原告の弁護団によりますと、この事故をめぐり乗客家族が賠償を求めて訴えを起こすのは初めてだということです。

弁護団は3日午後、会見を開き訴えの詳細を説明することにしていて、代表を務める山田廣 弁護士は「裁判では被害者の無念の思いやご家族の悲しみ、怒りを訴えていく。運航会社と桂田社長の法的責任をはっきりさせ、原告が被ったすべての損害を賠償させるよう全力を注ぎたい」と話していました。

長男を亡くした両親「責任の所在を世間に訴えたい」

今回の裁判では事故で長男の※ヌデ島優さん(当時34)を亡くした、千葉県松戸市に住む両親も原告として参加しています。

※ヌデ島さんの両親は、提訴にあたって「集団で提訴することにより社会に関心を持ってもらい、この事件を風化させたくない。運航会社と社長の安全に対するずさんな体質を改めて知らしめ、責任の所在を世間に訴えたい」とコメントしています。

そのうえで「息子の死をむだにしないためにも、二度とこのような悲しい事件が起きないように、輸送・運送に携わるすべての人が、自分たちの業務が人命に直結していることを忘れず、常に緊張感を持って対応してくれることを願っている」と訴えていました。

※ヌデは「木偏」に「勝」、「勝」は上の点が「八」。

運航会社社長に質問も回答なし

訴えを起こされた運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長に対し、NHKは乗客家族の提訴についてどのように受け止めているか質問しましたが、これまでに(3日)回答はありませんでした。

桂田社長は、事故の数日後に乗客家族への説明会を開いたほか、記者会見を開いて謝罪しましたが、それ以降は公の場に姿を現していません。

また、「知床遊覧船」は、法人としての登記は残っているものの事故当時の事務所はすでに閉鎖されていて、経営の実態が分からなくなっています。